原子力発電所から出る高レベルの放射性廃棄物いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定をめぐり、佐賀県玄海町の脇山町長が5月10日、第1段階にあたる「文献調査」を受け入れると表明した。原発を抱えている玄海町。原発から最短で約8キロしか離れていない長崎の近隣自治体の住民は複雑な心境を隠せない。専門家は候補地選定までのタイムリミットも迫っていると話す。

国民的議論を喚起する一石になれば

佐賀県玄海町 脇山伸太郎町長:
これまでの町議会等の意見や議論、国の要請を熟考した結果、文献調査を受け入れる決断にいたった

「核のごみ」文献調査受入を表明する脇山玄海町長
「核のごみ」文献調査受入を表明する脇山玄海町長
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佐賀県玄海町の脇山町長は5月10日に会見を開き、『「核のごみ」の最終処分場選定の第1段階にあたる「文献調査」を受け入れると』表明した。文献調査をめぐっては町議会は4月、町内の3団体が出した受け入れを求める請願を賛成多数で採択している。

5月に入ってからは経済産業省・資源エネルギー庁の担当者が玄海町を訪れたほか、齋藤健 経済産業相も7日に脇山町長と面会し、文献調査の受け入れを要請していた。

5月7日 齋藤経産相が脇山町長と面会、文献調査の受け入れを要請

佐賀県玄海町 脇山伸太郎 町長:
玄海町の取り組みが日本社会にとって欠かせない最終処分事業への関心が高まることにつながり、国民的議論を喚起する一石となればと思っている

一方で脇山町長は「文献調査の実施は処分地の選定に直結するものではない」と理解を求めたほか、町の貯金にあたる「基金」が年間予算の2年分あることから、受け入れに伴い交付される最大20億円の交付金が目的ではないと強調した。

文献調査の受け入れ表明は北海道の寿都町と神恵内村に続き全国3例目となる。玄海町には九州電力の玄海原子力発電所があり、原発が立地する自治体が調査の受け入れを表明したのは初めてだ。

長崎・松浦市民は「理解」と「不安」で複雑

長崎県松浦市は玄海町の対岸に位置する。最も近い鷹島は玄海原発から最短で8.3キロしか離れていない。

松浦市は玄海原発から最も近い場所で約8キロの距離に位置する
松浦市は玄海原発から最も近い場所で約8キロの距離に位置する

松浦市民は「必要性への理解」と「不安」が入り混じった複雑な思いを抱えている。

松浦市民は複雑な心境
松浦市民は複雑な心境

市民:
言い方は悪いけど、どこもかしこもこんなきれいな自然が失われていくのかなと思う。色んなことがあって受け入れもしなければとも分からなくもないけど、なんか複雑ですね、すごく。やっぱり怖いというのもひとつあるし、生活のためには仕方ないかというのもある

別の市民:
難しい問題だと思う。でも、どこかが受け入れないと「核のごみ」ってとんでもないわけでしょう。犠牲になるという考え方じゃなくて、ポジティブにみんな考える部分もあるかなと思う。個人的には

隣接自治体は強い憤り、風評被害に懸念も

松浦市の友田吉泰市長は「玄海町長の判断に対してはコメントする立場にない」としている。

松浦市の友田市長は国に対し「強い憤り」
松浦市の友田市長は国に対し「強い憤り」

一方で、松浦市は玄海原発から最短で8.3キロしか離れていないのに、原発事故が起きたとき避難に必要な道路や岸壁の整備などがされていないと指摘。そのような中での玄海町における文献調査は「市民に新たな負担を課せられることになり兼ねず、国に対して強い憤りを覚える」としている。

大石長崎県知事は風評被害の影響を懸念
大石長崎県知事は風評被害の影響を懸念

大石長崎県知事も「長崎県内にも近接する自治体があり、本県の第一次産業等に風評被害などの影響を及ぼす可能性がある」として、「国の責任においてしっかりと対応してほしい」とコメントを発表した。

齋藤経産相は「国家的課題で必ず成し遂げなければいけない」
齋藤経産相は「国家的課題で必ず成し遂げなければいけない」

経済産業省の齋藤健大臣は「これは国家的課題であって必ず成し遂げなくてはいけない課題だと思っているので、この議論が全国で深まっていくように必要な情報提供等にしっかりと取り組んでいきたいと思っている」と話した。

専門家は「選定方法の見直し必要」

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNAの鈴木達治郎教授は、「核のごみ」の処分計画全体のスケジュール感、今後の見通しは、まだ不確実な状況にあると指摘する。

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNAの鈴木達治郎教授
長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNAの鈴木達治郎教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNA 鈴木達治郎教授:
2000年に法律(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律)ができてから、もう20年たっている。今までもそうだが、自治体に手を挙げてもらって、そこに話をしに行って、文献調査をやったときに条件を満たさずダメになるかもしれない。文献調査でOKが出た場合でも、概要調査に移るときは県の許可がいる。県知事がそこで「NO」と言ったら元に戻ってしまう

鈴木教授は海外の事例を参考に、「候補地の選定方法を見直すことも必要だ」と考えている。

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNA 鈴木達治郎教授:
国が最終責任を持って、適地を選んで絞ってから、適地に話を持っていく。そうすると空振りが少なくなる。しかも、同じ時期に声をかけて同じ時期に絞っていくというプロセスの方が公平かなと思う

候補地選定までタイムリミット迫る

処分地が決まらなくても、「核のごみ」は着実に増え続ける。放射能レベルの高い廃液をガラス原料と高温で融かし合わせ、ステンレス製の容器(キャニスター)の中で冷やし固めた「ガラス固化体」として処理するが、原子力発電環境整備機構(NUMO)によると2024年3月時点では2万7000本相当といわれている。

青森県の六ヶ所村での「ガラス固化体」の貯蔵は2045年が期限
青森県の六ヶ所村での「ガラス固化体」の貯蔵は2045年が期限

青森県の六ヶ所村で「ガラス固化体」を貯蔵するのは2045年までで、最終処分場の建設にかかる時間などを考えると2025年には候補地を決定しておく必要があるという。

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNA 鈴木達治郎教授:
もう行く場所がないと貯まる一方なので、これは本当に困ったことになると思う。今、青森県の六ヶ所村に「ガラス固化体」という格納の貯蔵をお願いしている。1995年にお願いして50年間貯蔵してもらうとなっているので2045年が期限となり、その時期がきたらそこから持ち出さなければいけない。その時に処分場ができていないと、もう一度、地元の方に貯蔵期間延長の依頼をするか、新しい貯蔵場所を探さなければいけないので、それは避けたい。2045年に処分場ができているのが理想なので、もうあと20年しかない。いよいよ時間的には厳しい状況になってきた

国は、「核のごみ」の最終処分場の適地を選定するにあたり、科学的特性マップ(適地マップ)を作成している。

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNA 鈴木達治郎教授:
さらに詳細に調べて国が処分地の適地を絞っていくプロセスに変えるか、国が全面的に責任を持って地方自治体に話しかける。その時にはすでに文献調査も終わって適地がある程度選ばれている中での話し合いになるので、その一段階が省略されることになる。同時にやらないと、次のステップ、次の市町村といっているうちにどんどん先行ってしまうので、期限を決めて絞っていくプロセスに変えていくのがいいと思う

地層処分は、深さ300メートル以上の地点に地下施設を建設して埋設する。ガラス固化体を金属製の容器に入れて粘土で覆い、岩盤に埋める。人がいないところ、人間の管理が必要ないところに隔離する処分方法だ。広さは飛行場が1つ収まる程度と言われている。なぜ地層処分が選ばれたのだろうか。

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNAの鈴木達治郎教授:
やっぱり危険なものなので、人間が管理しない方が安全だという考え方なので、人間が管理しなくてもいい安定した地層に持っていく。これがなかなか見つけるのは難しい。安定した地層が見つかったとしても、日本の場合、地元に受け入れてもらうのが難しい。しかも日本は地下水が多い。地下水が多いところはあまり適しておらず、地下水によって廃棄物、ごみ、放射性物が地上に出てくるので、なかなか適地を見つけるのは難しくなってくる

北欧・フィンランドでは最終処分場の選定に成功し、建設が進められている。2024年下半期には運用を開始する予定だ。なぜ住民の理解を得ることができたのだろうか。

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNA 鈴木達治郎教授:
海外を見ていると、第三者機関を作って計画をチェックして計画をこう改善した方がいいとか、地元の不安に対して「こういう問題はもう一度見直してみましょう」と、推進機関とは別の機関がチェックする仕組みを作っている。そうなると計画全体の信頼性が上がる。もう1つは、今の計画は原子力を推進するために必要だという位置付けになっているので、計画に賛成すると原発推進に賛成するとなってしまうので、なかなか原発反対派から賛成が得られない。 海外を見てみると、処分事業の事業主体や政府の立場としては、廃棄物処分事業は原発の推進・反対に関わらず必要な事業だという位置付けに変えて、それで説明していく。我々は原発推進・反対は関係ありませんという立場で説明する。こういう方向に変えていかないと、なかなか国民全員の理解が得られないのではないかと思う

今回の佐賀・玄海町については、原発の立地自治体として初めて文献調査の受け入れを表明した。

玄海町役場
玄海町役場

長崎大学核兵器廃絶研究センター・RECNA 鈴木達治郎教授:
候補地が増えることはいいこと。ただ今回は国から申し込んでいる。国が前面に立つのであれば、なぜ玄海町に文献調査をお願いしたのか、候補になる理由を示す必要がある。科学的に見て望ましいなど、理由を説明していない。そうしなければ町民も判断できない。手を挙げた、または挙げてくれそうな自治体にお願いする形となっているのは残念だ。今のやり方では、町長など自治体のトップが説明しなければならない

国が作成した「科学的特性マップ」で、玄海町は「好ましくない特性があると推定される地域」と色分けされている。炭田があるためだ。地下資源のある場所は、将来世代が掘ってしまうリスクがあり、好ましくないとされている。文献調査の結果、「適地ではない」と判断される可能性もある。

齋藤大臣や玄海町の脇山町長は「議論の呼び水になれば」と述べている。しかし、「核のごみ」はいずれ解決しなければいけない問題で、期限はすぐそこまで迫っている。国家的課題に対してどう取り組むのか。国のリーダーシップが問われている。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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