予定通りの展開
政治資金規正法改正に向け、自民党は公明党との与党協議で、政策活動費の使途公開とパーティー券購入者の公開基準額の引き下げを容認したが、細部は先送り。野党第1党の立憲民主党は「なんちゃって法改正だ」と反発している。
この記事の画像(5枚)自民は当初どちらにも慎重姿勢を見せていたが、4月28日の衆院3補選で全敗したのを受けて、このままでは世論の理解は得られないと判断したためとメディア各社は伝えているが、補選全敗は予想されていたことであり、最初からここが落としどころだと決めていたのではないか。
この政治資金規正法改正の議論の中で意外だったのは、岸田文雄首相が旧文通費に続き、政策活動費の使途公開にも応じたものの、野党が求める企業団体献金の廃止については妥協に応じる余地を全く見せていないことだ。
岸田氏は「企業は政治活動の自由の一環で、政治資金の寄付の自由を有している」という答弁を国会で繰り返し、日本や米国で出ている「企業献金は適法」という判例を紹介している。
自民が止めてくれるだろう
岸田氏に対しては「自分の信念を持たず、国民の人気取りに走り過ぎる」という批判があるが、そうだろうか。
LGBT法の拙速な成立や、子育て政策の財源に現役世代の負担が多い健康保険料から拠出すること、さらには政治資金規正法違反で自分は責任取らないなど、時々首をかしげる判断もあるが、外交安保、エネルギー、そして経済など基本の政策については、どれも人気取りではない腰の据わった判断をしていると思う。
ただ企業団体献金の廃止は世論調査では賛成の方が多く、中には賛成が8割に達する調査もあったので、岸田氏がブレるのではないかと心配していたのだが、これについては方針を変えるつもりはないらしい。
企業団体献金を廃止するなら、企業だけでなく団体、例えば労働組合や宗教法人などからの献金も廃止されることになる。ある自民党幹部は「野党が廃止の案を出しているが、中には本音は反対で、自民が止めてくれるだろうと思っている人たちもいる」と述べている。
よく言われる「政治資金は政党交付金、企業献金、個人献金の3つからバランスよく得るべきだ」という主張は一理あると思う。国、企業、個人の意思がそれぞれ政治に反映されることは健全ではないかと思うのだ。パーティー券も同じことだ。
海外でも企業団体献金については、民主主義国家は「企業の政治活動の自由」ということで認めている国の方が多い。
個人献金をもっとさせてくれ
だが多くの日本国民は政治献金などしないしパー券も買わない。「政治家は献金をもらわなくても政治に金使わなきゃいいじゃないか」くらいに軽く考えている。だから企業団体献金を8割の人がやめろと言っているのだ。
つまり岸田氏の企業団体献金存続は英断だとは思うが、「国民受け」は大変悪いだろう。
6月23日の国会会期末まであと40日余りで、それまでに岸田氏は政治資金規正法改正案の成立を目指している。だが企業団体献金廃止が含まれない法改正に国民は納得しないだろう。
だから政治資金規正法改正の採決で国会が終盤に荒れて、野党が内閣不信任案を提出しても、岸田氏は解散総選挙をして国民に信を問うことはやめた方がいい。
そんなことより、企業団体献金への理解が深まらないのなら、寄付金控除の対象である個人献金の税金控除率を上げるなどして、個人献金を増やす方法を考えた方がいいと思う。これは財務省が猛反対するだろうが、個人の意思が政治に反映されるという意味で、ぜひ実現してほしいと思うのだ。