ゴールデンウィーク真っただ中の5月4日、山梨・北杜市にある新緑の森に囲まれたホールで、社会学者・上野千鶴子さんの講演が行われた。
テーマは「『八ヶ岳南麓から』2拠点生活」。

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日本でジェンダー学第一人者の上野さんは、東京と北杜市で2拠点生活を送っている。
自分の専門から離れ、移住生活のリアルをまとめたエッセー集「八ヶ岳南麓から」が重版になるなど評判が上々だ。

真っ赤な髪に大きなバラの花のネックレスをまとった上野さんは、司会者から「タイム誌に世界で最も影響力のある100人に選ばれた上野先生です!」と紹介され登場すると、「副賞は何もありませんでしたよ」と会場の笑いを誘った。

その後、いつものように軽快な口調で資料を交えながら、北杜市のジェンダーや介護の問題点に鋭く切り込んでいた。

北杜市のホームページについては「役に立たない」と一刀両断し、「データがない、データが探しにくい、データの関連がない、ジェンダー統計がない・・・」などと画像を見せながら指摘し、会場をいっそう沸かせた。

4月17日、アメリカのタイム誌が発表した毎年恒例の「世界で最も影響力がある100人」に上野さんが選ばれた。
日本から選ばれたのは4人で、ほかにはアニメ映画の宮崎駿監督らがいる。

タイム誌は選んだ理由を、「フェミニズムや女性差別をテーマにした著作が中国でベストセラーとなり、結婚や出産への圧力に静かに抵抗する何百万人もの中国人女性のロールモデルになっている」としている。

テーマがローカル的なもので、この日ホールいっぱいに集まった150人はほとんど山梨県民だが、終了後のサイン会に10人ほどの中国人女性の姿もあった。
東京や栃木から来ているという。

上野さんの中国での人気は絶大だ。
翻訳された著書はことごとくベストセラーになり、動画はSNSで数百万回以上拡散される。

上野千鶴子さんが2月に東大で行った講演会
上野千鶴子さんが2月に東大で行った講演会

2月に東京大学で行われた上野さんと中国の学者李一諾さんの講演は、中国語の同時通訳を通じて行われ、250人以上の在日中国人が集まった。
結婚や昇進などについての質問が相次ぎ、大変な熱気となった。

「最も影響力の100人」に選ばれたことについて

タイム誌で「世界に最も影響力のある100人」に選ばれたこと、しかも理由が中国での影響だったことについて、上野さんはどう思うだろうか。

サインに応じる上野千鶴子さん
サインに応じる上野千鶴子さん

ーー選ばれた感想は?
えーーーっですよ。まさか宮崎駿監督に並ぶとはびっくりした。

ーー選ばれた理由は中国での影響力だった。
中国が世界に占める人口がとても大きい。中国の動向に世界中が注目しているから、日本のローカルでの出来事ではなくなったということだと思う。

ーーある男性から、上野さんの考えが広まると中国でも少子化が広まるよと言っていた。
中国はとっくに少子化になっている。私の影響ではない(笑)。

ーー中国や日本の女性にメッセージを
女性がもっと自由に生きられるようになってほしい。私の本が売れる、読まれるのはある意味悲しいこと。そういうことが必要なくなるような時代が来ればいいと思う。

「去年後期高齢者になった」と話す上野さん。
「私たちは日本で日本のフェミニズムを作ってきた。近い将来中国で中国のフェミニズムの担い手がちゃんと育ってくれることを心から期待している」と語った。

この日にサインをもらった若い中国人女性は、上野さんを前に緊張した声で「先生の話を聞いてすごく力がわいてきます」と目をキラキラさせながら話していた。

崔 雋
崔 雋

フジテレビ 報道局国際取材部所属 中国杭州市出身。一橋大学卒業後、フジテレビで新卒採用された最初の外国人留学生に。報道局経済部記者(民間企業・農水・財務・経産…)を経て、国際局やCSR推進室など報道局外の部署も経験。東日本大震災発生時、経産省と原子力安全保安院担当であれだけ福島の原稿を書いた自分が最初に現地に行ったのは被災地支援のCSR活動だった。