日本と中国で名高い「知的インフルエンサー」の女性二人が、対談を行った。

勝間和代さんと李一諾さん。二人とも3人の子供を育てながら、世界の一流企業で活躍し、その後独立をして著書も執筆している。また、子育てやキャリアアップに悩む人が多いことから、二人とも40歳前後でオンラインのコミュニティを立ち上げ、日々自分の経験や考え方などを共有している。二人ともフォロワーが100万人を超えるトップインフルエンサーだ。

対談は、主に李さんの質問に対して勝間さんが答える形だが、李さんのストレートな質問に対し、勝間さんはいずれも真っ正面から真摯に答えている。

李さんの質問の切り口は時には新鮮で、勝間さんの答えに対しての反応も、李さんならではの思考が入る。そのやりとりには、競争社会を勝ち抜いてきた二人の経験や英知が詰まっている。

どうやって子育てしながら仕事・執筆活動をこなしたのか、「多忙を極める」二人の時間管理術、子育てについても、話に花が咲いた。

李一諾さん(一番左)、勝間和代さん(一番右)
李一諾さん(一番左)、勝間和代さん(一番右)
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時間管理の基本的な考え方

李:
時間管理の基本的な考えをシェアーしていただけますか。

勝間:
まず基本的に7時間から8時間は天引きして寝てしまう。これによって気力や体力を回復します。加えて、お酒を飲まない、ギャンブルをしない、ダラダラとマスメディアを見ない。この3つをするだけでも、一日4時間ぐらい時間が生まれるんですね。受け身的な時間を減らして、自分が能動的に動く時間を増やすということを推奨しています。

李:
家事はどうやって時間をやりくりしましたか。働くママにとって家事が頭痛の種です。

勝間:
まず職場のそばに住んだんです。保育園と職場、全部自転車でいけるように組みました。都心部の会社で家賃はそこそこ高かったんですが度外視をして時間を作るようにしました。食事に関しても、ロジックと合理性で作って、例えば塩分量は0.6%で逆算するとか、あるいは加熱時間を全部決めてセンサー付きの調理器具で作るなど。私自身は10分しか手を動かさない、残りは全部機械が作ってくれることを推奨しています。とにかく生活にも、会社のような生産性の高さと合理化を持ち込むことを推奨しています。

李:
最初の点は全く同感。私も博士課程に在籍していたころは、学校のすぐ近くに住んでいました。勝間さんの、家庭と仕事を同じように管理する思考方法が素晴らしいですね。ツールやテクノロジーを取り入れ、生活に役立てる。このような発想は、非常に貴重だと思います。
しかし子育てでは、必ずしも効率化では解決できない場合があります。離婚したときに子供たちはまだ小さかったのでは。

勝間:
最初の離婚をした時には、子供は14歳、10歳、4歳だったと思います。子育ては365日中5日ぐらいが元夫で、360日が私というイメージでした。

対面した時、二人ともスニーカー
対面した時、二人ともスニーカー

李:
それはとても大変ですね。子育てでは予想外のことも起きます。どうやって生活を効率的に、さらに精神的にポジティブな状態を保つのですか。

勝間:
問題が多々生じるんですが、姉夫婦や専門家に相談しながら、自分一人で抱え込まないで、いろんな人と問題を共有しながらコツコツ暮らしていると、いつの間にか解決したというイメージです。

李:
人々は時々誤解することがあります。「有能であればすべての問題を解決できる」と。助けを求めることは、その人が強くないことの表れであるという考え方について、どう思いますか。

勝間:
基本的に人1人の能力というのは、3人いたら絶対叶わない。自分一人で抱え込まない、信頼できる人と問題を共有しながらいろいろな解決策を探ることを、特に育児に困ってるお母さんはなるべくやった方がいいと思います。ただ、なぜそれをやらないかというと、例えば親あるいは親戚にあなたが悪いと言われるのが嫌なんですよ。なので、自分のことを責めないと分かっている相手に対して、上手に開示する手法を、女性は学んでいく必要があると思います。

李:
それが勝間塾を作るきっかけでしたか。

勝間:
私には姉が2人、兄が1人いて、常に自分一人よりは人に頼るのが当たり前の人生でした。自分がある程度、金銭的な余裕や時間的な余裕ができた後では、勝間塾のようなものを作って、私が今まで考えてきたことを、なるべく還元するようにしています。とにかく自分一人だと、大したことができないので、なるべく和を広げることが楽に生きるコツです。

李:
私の「諾言」(李さんのオンラインコミュニティ)は6年前に始めました。そのとき私も 40 歳前でした。若い頃に悩んでいた問題の多くが、今考えてみれば大したことがなかったと気づいたからかもしれませんしかし当時は誰も教えてくれなかった、あるいは安心して聞ける人がいなかった。だから、コミュニティで、若い時に恥ずかしいと思う質問が聞けて答えが得られれば、人生の貴重な贈り物になると思いました。

家族で大事なのは「意味なく一緒にいる」こと

李:
育児を振り返って若い母親たちにアドバイスは。

勝間:
家族で一番大事なことは、なんだかんだいって「意味なく一緒にいる」ことだと思っています。

李:
しかし、習い事などで子供のスケジュールをパンパンに詰めている親がいますね。

勝間:
子供にたくさん習わせ事をするのは、親としての安心材料であり、免罪符だと思うんです。やはり子供と相談をしながら、本当に子供がやりたいことをやってもらって、もっと自由な時間を渡すのがいいと思います。
自分も小さい頃一人でものを考えたり、親の本棚を勝手に読んだりしたのが、一番楽しかったことで、親に頼まれて習った習字や音楽教室などは、はっきりいってあまり面白くなかった。

李:
全く同感です。おそらく中国は、もしかしたら日本も、東アジア全体の教育の根底に、深い恐怖があります。勉強できなかったら、たとえば、将来仕事が見つからない、中国人の親なら、将来ゴミ拾いになる、など(笑)と。
まず、それが親自身が求めている事であると認識した上で、この恐怖に直面する必要があります。

勝間:
子供につけなければいけない能力は二つで、一つが実行能力、二つ目が共感力です。親としては、その二つがより高まるような環境選びをすることぐらいしか、できないと思っています。

李:
おっしゃる通り。子供は種のようなもので、その中に大樹になるために必要なものがすべて含まれていると思います。親がやるべきことは、邪魔をしないことだけ(笑)。しかし私たちは常々逆のことをやってしまいます。「毎日ちょっと抜かないと種は育たない」と思っていたりします。

「5歳、10歳年下が生きやすい社会を」

勝間さんと李さんは、ほぼ毎日SNSで自分の考え方や、経験、アドバイスを共有している。二人の出身や経験から、勝間さんのアドバイスは経済面や法律面、機器類など具体的なものが多いのに比べ、李さんは教育や女性の自己啓発の考え方などが多いように思う。

共通するのは、二人とも日中の多くの女性のロールモデルであり、その生き方や活躍ぶりが、多くの女性を勇気づけている事だ。

対談の最後に、勝間さんは「5歳、10歳年下の人たちが生きやすい社会をみんなでつくっていければ」と結んでいる。

勝間和代:
1968年生まれ。慶応義塾大学卒、早稲田大学MBA(経営学修士)。「マッキンゼー・アンド・カンパニー」や「JPモルガン」など大手外資系金融機関へて独立。フォロワー100万人以上。著書約50冊、販売部数計約400万部。オンラインコミュニティは「勝間塾」。3児の母。

李一諾(Li Yinuo):
1977年生まれ。中国清華大学卒、米UCLAで博士。「マッキンゼー・アンド・カンパニー」元グローバルパートナー、「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」元中国総代表。「ETU教育」共同創立者フォロワー230万人以上。著書は4冊。オンラインコミュニティは「諾言」。3児の母。

崔 雋
崔 雋

フジテレビ 報道局国際取材部所属 中国杭州市出身。一橋大学卒業後、フジテレビで新卒採用された最初の外国人留学生に。報道局経済部記者(民間企業・農水・財務・経産…)を経て、国際局やCSR推進室など報道局外の部署も経験。東日本大震災発生時、経産省と原子力安全保安院担当であれだけ福島の原稿を書いた自分が最初に現地に行ったのは被災地支援のCSR活動だった。