災害時に避難所で過ごす場合、常に他人の視線や音漏れがあるなど、プライベートな空間を作りにくい。こうした状況では“女性特有の困りごと”や性被害への懸念もある。
女性が安全に過ごすための方法について、NPO法人「ママプラグ」の理事・冨川万美さんに聞いた。
性被害防止には「ひとりにならない・しない」
災害が起きると、混乱に乗じた犯罪が発生したり、被災者以外が避難所に入ってくるといったトラブルが発生したりする。そんな中で、避難所での性被害は「女性だけでなく、子供や男性にも起きる可能性がある」と冨川さんは話す。
このような環境で自分の身を守るためにまずできるのは、「ひとりにならない」ということだ。
たとえば、トイレや更衣室などの空間は、他人の目が届きにくくセキュリティ面が問題視される。こういった空間には「必ず誰かと一緒に行く」ことや、「誰かに見張り役になってもらう」といった協力体制が必要だ。
ただ、中にはどうしても複数人での行動が苦手という人もいるだろう。そんな中で必要になってくるのが、いわゆる“おせっかいな人”の存在だと、冨川さんは語る。
「自分が『すごく世話好きだな』とか、『たくさんの人と一緒にいる方が好きだな』などと思う人は、ひとりになっている人を見かけたら、ちょっと行動を気にしてみる。そういうことだけでも犯罪は減っていくと思います」
「緊急時だから」と我慢せずコスメ用品も
避難所では、“女性ならでは”の問題も発生する。東日本大震災の際、多くの女性が「生理」に関するトラブルを訴えた。
災害時は基本的に物資が不足しがちだが、生理用ナプキンやサニタリーショーツも例外ではない。十分な数を備蓄しておくほか、携帯用ビデやナプキンを持ち歩くためのポーチなども、あわせて用意しておくと良いだろう。
また、少し意外に聞こえるかもしれないが、コスメ用品やアロマオイルも重宝するという。
普段しっかりとメイクやスキンケアをしているという人は、“ノーメイク”の状態で他人の目にさらされることが、大きなストレスになることもある。
そんな場合は、普段使用しているコスメ用品は“贅沢品”ではなく、大切な防災グッズのひとつとなる。また、メイクができない時はマスクを用意しておくことで、ノーメイクで過ごすストレスを緩和してくれるだろう。
「『緊急時だから我慢』という考えはもちろんあっていいのですが、『私にはこれが外せない』と思うものは、ストックを増やし、持ち歩くようにしても良いのではないでしょうか」
さらに、マスクにアロマオイルを垂らすなどのひと工夫を加えると、避難所特有の問題である生活臭の緩和という面からも、ストレスの解消につながるという。
また、災害発生時は着の身着のまま避難するケースが多い。冨川さんによると「パジャマで避難して、朝になってブラジャーがないことに気付き、避難所の中で動けなくなってしまった」「ブラジャーの替えが欲しいと言い出しにくく、支援物資として届く気配もなかった」という声もあったという。こういったことからも、カップ付きのインナー(ブラトップ)などは、避難用のバッグに入れておくと良いだろう。
「着替え」ができない場面での工夫
衣服に関するもうひとつの問題が、「着替え」の難しさ。
避難所では女性専用の更衣室が用意されていない場合もあり、バスタオルを目隠しにして着替えるといった工夫が必要になることがあるという。
一方、ショーツなどの下着については、替えの枚数が足りないとか、洗濯する水や干す場所が足りないなど、“着替えそのもの”を我慢しなければならない場面もある。そんな時は、おりものシートをショーツにつけておくことで、着替えをせずとも当面の清潔を保つことができ、不快感の軽減になるという。
災害時というイレギュラーな環境の中で、一人一人が必要な物資・ケアを100%受けるというのは難しい。女性が安心・安全に過ごすために、改めて自分たちに必要なものは何かを確認し、準備していきたい。
冨川万美
特定非営利活動法人MAMA‐PLUG(NPO法人ママプラグ)理事。青山学院大学卒業後、大手旅行会社、PR会社を経て、フリーランスに転向。東日本大震災での母子支援を機に、NPO法人ママプラグの設立に携わる。防災に対して、アクティブな姿勢で行動を起こす「アクティブ防災」を提唱し、全国各地でセミナーを行っているほか、東京都の「東京防災」「東京くらし防災」編集・検討委員なども務める。二児の母。