京都府が誇る“高級ブランド”「間人ガニ(たいざがに)」。

そのおいしさと希少さから、1匹4万円を超える値がつくこともある高級ガニだ。日本有数の良質な漁場で水揚げされた「間人ガニ」は、約50もの厳しい基準によって選別がなされ、漁場と漁港が近いお陰で新鮮なうちに市場へ届く。味、品質ともに最上級とされるが、漁獲量がとても少ないため、“幻のカニ”と呼ばれている。

京都府の北部、丹後地方にある「間人漁港」で獲れるカニを「間人ガニ」と呼ぶ。生物学的にカニの種類でいえば「ズワイガニ」だ。地域によって「松葉ガニ」「越前がに」などと呼ばれる。

役員が逮捕された「まるなか水産」の間人ガニのパンフレット
役員が逮捕された「まるなか水産」の間人ガニのパンフレット
この記事の画像(6枚)

この「間人ガニ」を巡って、深刻な問題が浮かび上がった。4月4日、「兵庫県産のズワイガニ」を、「間人ガニ」だと偽って販売していた疑いで、京丹後市の水産会社の役員らが逮捕されたのだ。警察によると、間人ガニだと証明する緑色の認定タグを、他の地域で獲れたカニにつけて偽装、本来の何倍もの値段で販売していた。しかも、驚くことに、10年以上前から偽装を行っていたとみられるという。

長年に渡って、普通のズワイガニを、高級ブランド「間人ガニ」だと偽り、何倍もの価格で販売していた今回の事件。ブランドを信じる人の心に付け込んだ悪質な行為と言える。

■ブランドに惹かれる人間の心理とは

明星大学心理学部 藤井靖教授
明星大学心理学部 藤井靖教授

人はどうしてブランドに惹かれるのか、そして、食べた人は誰も気が付かなかったのか? 心理学のスペシャリスト、明星大学心理学部 藤井靖教授に話を聞いた。

-Q.なぜブランドガニ(ブランド食材)に惹かれるのか?

明星大学心理学部 藤井靖教授:
▼「希少性バイアス」 今回でいうと、まずは手に入りにくいという「希少性バイアス」。獲れる時期が限られていて、数量に制限がある。鮮度へのこだわりから、買いたくてもすぐに買えないことで、どんどん魅力が増していくのです。

明星大学心理学部 藤井靖教授:
▼「不協和回避バイアス」 人は、自分の行動と結果は一致してほしい生き物です。例えば「おいしいカニを食べたいと思って行動した結果、おいしいカニが食べられた」という一貫性が大事なのです。(そもそもカニは高級食材なので)高いお金を出したけど、おいしくなかったら、もやっとします。だから、そうならないために、よりおいしいものを食べられる確率の高い、高級なブランドガニを選びたくなるのです。お金をたくさん使うからこそ、より成功したい。つまり、「損をしないために、高いものを買う」これが、ブランドを選ぶ心理です。

明星大学心理学部 藤井靖教授:
▼「感応度逓減バイアス」 最後に、「感応度逓減バイアス」。金額が大きくなるにつれて、金額の増減に対する感度が鈍くなります。例えば100円の飲み物と200円の飲み物だと、200円の方は「ちょっと高いかな」と思ったりしますが、1万円を超えるような食材は、(一般的には)そもそも高いものを買うという感覚があるので、1万円と2万円のものがあったとして、その差が縮まったように思えるのです。高級食材は感覚がマヒしやすいのです。

■味わうことは「主観的で曖昧」

間人ガニの刺し身
間人ガニの刺し身

「損をしないためにブランド品を選ぶ」。確かに思い当たる節がないとはいえない。しかしこの「間人ガニ」。格別な味だそうだが、食べた人は誰も気が付かなかったのか?

近畿大学産業理工学部 大沼卓也准教授
近畿大学産業理工学部 大沼卓也准教授

食べ物の味わいと美味しさを感じる仕組みなどを、心理学と脳科学の両面から研究している、近畿大学産業理工学部の大沼卓也准教授に聞いてみた。

-Q.選び抜かれた上質の間人ガニと、普通のズワイガニ。誰も味の違いに気が付かなかったものなのか?

近畿大学産業理工学部 大沼卓也准教授:
実は人間は、味や匂いの判断が、あまり得意ではありません。そして「味わいの認識」は、センサーのように客観的なものではなく、主観的で曖昧です。
 人は、購買から消費(食べる)までを、五感と、情報を踏まえて行います。舌とか鼻を使って品質を分析したとしても、そこに様々な情報、「希少なものだ、高価なものだ」などの情報が入ってきたら、「じゃあすごくいいものなんだ。おいしいはずだ」という心理が働き、その結果として「やっぱりおいしいなぁ」となります。
 ブランドや産地などの情報も、味わいやおいしさの中に組み込まれていますから、ブランドも味の一部と考えて良いかもしれません。ブランド名、価格などが食品と結びついた思い出となり、そういった色んな外付けの要因こみで、おいしい・おいしくないという感情が作られるのです。

近畿大学産業理工学部 大沼卓也准教授:
思っていたよりも好みではないなぁということもあるでしょうが、多くの場合は、ブランド情報によって、満足感、納得感につながる可能性が高いです。つまり、ブランド(情報)により、味覚(味)が惑わされてしまうことも、起こり得るものなのです。
 高級な産地のロゴがついていたりすると、「やっぱりこれはおいしいよね」と安心して楽しむことが出来ます。だからこそ、食品と結びついたブランドや産地を明確に保護し、今回のような詐称がないように努めなければいけないと思います。 

タグがつけられた間人ガニ
タグがつけられた間人ガニ

(関西テレビ 2024年4月16日)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。