今夏のパリ五輪出場に向けて調整に励む、島根・浜田市出身、陸上男子3000メートル障害の三浦龍司選手（22）。陸上の魅力を知ったのは、小中学生時代に通っていた浜田ジュニア陸上教室（浜田JAS）だった。
子どもたちに幅広い種目を経験させることで、基礎的な運動能力を高める指導方針をとる同教室。ここでハードル種目の適性を見いだされた三浦選手は、当時は決してメジャー種目とは言えなかった3000メートル障害の道へ進んでいった。
ルーツは「浜田ジュニア陸上教室」
3月下旬の土曜日、汗ばむような陽気の中、浜田市陸上競技場に集まった子どもたちが、次々にテニスボールサイズのボールを投げ始める。
ボールを投げ終わると、幅跳び、高跳び、短距離走に移る。浜田JASの多彩なメニューは、三浦選手が通っていたころと変わらない。世界と渡り合う才能はこの競技場で育まれた。
走る・飛ぶ・投げる 低学年では幅広い運動能力磨く
重視しているのは反復で、伊津洋士コーチ（57）は「運動の経験が少ない子どもでも同じ動きを何度も繰り返すことで、体の使い方が自然に身に付いていく」と話す。
体のバランスや足腰の使い方など細かい動きを学ぶので、陸上以外の競技をした時にも教室での経験が生きるという。
「ハードル」経験し三浦選手の素質が開花
三浦選手はクラブに入ったころから長距離走が得意で、ハードル種目に取り組むようになると素質が開花した。
6年時には80メートル障害で県2位。浜田東中を経て進んだ洛南高（京都）で本格的に3000メートル障害の道を歩み始めると、30年ぶりに高校日本記録を更新。南部九州総体（2019年）での準優勝など輝かしい実績を残した。
「小学生の頃にいろいろな運動をやったので、新しい動きをのみ込むのが早くなった」と、浜田JASでの経験が活躍につながったことを強調する。
浜田JASから巣立っていった五輪選手は、メンバーたちにとって大きな誇り。
三浦選手にハードルを教えていた叶松久雄コーチ（68）は、「明るい性格で、やらなければいけない練習はしっかりこなしていた。当時から抜き足の技術は優れていた」と、にこやかな表情で振り返る。
マラソン解説者 増田明美さんが分析
現役時代にマラソンで世界最高記録を2度更新し、現役引退後は選手の詳細な情報を織り交ぜた解説で人気がある増田明美さんに、三浦選手の走りや性格を分析してもらった。
ハードリングにセンスの良さ
三浦選手は、フォームに力みがなく、走りが美しい印象です。スピードと持久力を併せ持っており、ハードルの跳び方にセンスの良さを感じます。
専門家に聞くと、アキレス腱の強さから来る「ばね」が素晴らしいそうです。
それを生かすハードルの技術と、ハーフマラソンでもU20アジア記録（1時間1分41秒）をマークし、5000メートルを13分26秒78で走り切るスタミナを持っています。
あの柔らかくスマートな走りを見ると、将来、距離を伸ばしてマラソンを走ったら面白いと思っている人は多いと思います。
フォームの美しさに加えてコメントもスマートで「白馬の王子」みたいな印象ですね。よく考えてから話す思慮深いタイプだと思います。自分のことをマイペースとおっしゃっていますが、マイペースというのは競技に集中する精神力の強さやルーティンがしっかりしていることでもあると思います。そういう人の方が雑念なく目標に向かって行けます。
パリ五輪ではプレッシャーを感じない？
私は東京五輪よりパリ五輪の方がプレッシャーを感じないのではないかと思います。やはり自国開催は、すごいプレッシャーだったと思います。
あのプレッシャーに比べたら「パリは楽だよねー」くらいに思っているのではないでしょうか。
日本人がまだ獲得したことのない3000メートル障害でのメダルをぜひ取ってほしいです。
みうら・りゅうじ 浜田市出身。浜田東中を経て、洛南高（京都）に進学。順大2年時に出場した2021年の東京五輪男子3000メートル障害で日本勢としては初の入賞（7位）を果たした。23年6月のダイヤモンドリーグ（DL）第4戦で日本記録（8分9秒91）を樹立し、同年8月の世界選手権で6位に入った。2024年春、SUBARUに入社した。
TSKさんいん中央テレビと山陰中央新報社のコラボ企画「カケル×サンイン」で、山陰中央新報に掲載された記事です。
（TSKさんいん中央テレビ）
