中国で不動産不況が深刻化する中、富裕層が資産を国外に持ち出そうとする動きが加速している。
コロナ禍が明け、中国人の日本への団体旅行が解禁されると購入希望者は急増し、都心の高額物件が飛ぶように売れ始めているという。
彼らの目的は何か。拓殖大学海外事情研究所の富坂 聰教授に話を聞いた。
円安と海外逃亡意欲
ーー中国の富裕層が東京のタワーマンションなどを買いあさる背景は?
まず中国政府のコロナ対策に嫌気がさしたことと、コロナ明けの経済政策に対する失望です。
また、中国国内の不動産価格が急落していることや株価も安定しないので、自分の資産をどこに持っていくのかを考えた時、日本は非常に魅力的な投資先です。
もう1つは、中国では不動産を持っていても所有権がついてくるわけではないので、自分のものになりません。
そうした問題をクリアできる投資先として日本に対する需要が高まったのと、今の円安の状況も非常に大きいです。
ーー投資目的で実際に住む人は?
日本で暮らしたいという人はいます。
しかしすぐに日本での永住権とか、日本国籍が取れるわけではないので、住み替えるということにはなりませんが、日本での生活の基盤も含めた形での“国外脱出“、資産を持って国外に出るという流れは非常に活発になっています。
「潤=RUN」が流行語
こうした中、中国では「潤」(るん)という言葉が流行語に。
その理由は、アルファベットで表記すると“逃げる”を意味する「RUN」になるからだという。
ーーコロナ明けからの動きなのか?
コロナ禍ぐらいからニーズが高まり、コロナが明けて実際に動きだした流れです。
コロナで不満が溜まり、コロナ明けの政策でさらに不満が高まった結果です。
そのころに「潤」(るん)という言葉が、英語の「RUN」(逃げる)と綴りが同じだということで、海外脱出を意味する「るん」という言葉が流行語になりました。
ーーどれくらいの規模で海外脱出が起きてる?
人数は把握していませんが、日本の不動産価格をこれだけ押し上げているということは、資金だけでも相当日本に来ていると見られます。
すでに移住している人についていえば、湾岸のタワーマンションが人気で、そこではすでに中国人のコミュニティーが一部出来ています。
特に上層階は中国人が買い占めているとも言われています。
中国政府は資金流出を問題視
中国人富裕層による爆買いは、首都圏のマンション価格を吊り上げるほかにも「懸念材料」があると富坂教授は指摘する。
ーー子育て世代にも人気?
日本の前には、香港というブームもありましたが、中国では、生活環境や子供を育てる環境としては日本の方が良いとの考えがあります。
アメリカやカナダ、ヨーロッパも移住先として人気ですが、遠いし、高いです。
その点、日本は今円安で、不動産も株も全体的に割安感があります。
ーーこうした動きの懸念点は?
骨をうずめる覚悟で来ている人は少ないと思います。
そのため、不動産を処分する時期が来れば処分するし、他に有望な移住先があればそちらに移ると思います。
これまでの香港やカナダのケースを見ていると、中国経済がまた賑やかになってくると、国に戻る可能性も高いです。
その場合、不動産は確定資産なのですぐに処分することはないと思いますが、株は処分していくことが考えられ、そうした出入りは考慮しておく必要があると考えます。
ーー中国は人材流出を問題視していない?
キャピタルフライト(※)といって、資金の持ち出しに対しては非常に神経質になっています。
一方、人材流出に関しては資金流出ほどは気にしていないと思います。
人材は十分足りているので、むしろ国内でチャンスが生まれていて、人がいなくなればその穴をすぐに埋めるというのが中国社会の特徴です。
個人で資金を持ち出す場合は、年間400万~500万円ほどが限度ですから、頭金にもなりません。
そのため、会社を作ったり、現地法人を作って融資を受けるなどいろいろな抜け道を駆使して、手続きを進めていることは間違いありません。
(※)キャピタルフライト:資本市場などから資金が逃避すること。投資資金が国外に流出すること。