2024年4月から、時間外労働の上限規制が地域医療を担う医師にも適用された。

医師の長時間労働ありきで成り立っていた現場では、「地域医療に支障をきたしてしまうのではないか」という懸念の声もある。

そんな中、万全な医療体制と医師の働きやすい環境を両立すべく、院内改革を進める沖縄県にある医療機関を取材した。

沖縄テレビ 稲嶺羊輔アナウンサー:
医師の働く時間が制限されても患者に最善の医療を提供できるよう、こちらの病院では、全国的にも珍しいさまざまな取り組みを行っています

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豊見城(とみぐすく)市にある友愛医療センター。

沖縄県内の急性期医療※の拠点として、重症患者や救急患者の対応に力を入れている。

※急性期医療:重い病気や大けがを抱えた患者に集中的な治療やケアを提供する医療機能

心臓血管外科は過酷な現場

心臓血管外科ではこの日、重度の大動脈弁狭窄症※で命に危険が及ぶ可能性のある患者の手術を行っていた。

※大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう):心臓の弁が機能しなくなる病気。心不全や突然死などのリスクがある

心臓血管外科は、長時間かつ難易度が極めて高い手術が1日に何件も続く、院内でも特に過酷な現場だ。

働き方改革によって2024年4月から適用される医師の残業時間の上限は、原則として月100時間、年間で960時間。

この上限について、現場の医師はどう考えているのだろうか。

友愛医療センター心臓血管外科 山内昭彦 部長:
最初に(残業の)時間設定を聞いたときの第一印象は、とても無理だなと思ったんですね。(以前は)3日4日病院にずっと泊まり込んで、自分たちの睡眠時間を削って緊急手術をやったりしている時がありましたので

2024年問題対策で術後管理にメス

こちらは、院内改革を進める前の医師の勤務状況。

午前7時半に出勤後、回診。9時からは8時間に及ぶ大手術に臨み、終了するのが午後5時。

その後に待っているのが、術後の患者の血圧や脈拍を安定させたり、合併症を予防したりするための術後管理。

心臓血管外科の山内部長によると、手術を朝から夜まで行い、そこから術後管理が始まるため、寝ないで診る。

友愛医療センターでは、2024年問題への対策としてこの「術後管理」にメスを入れた。

タスクシフトで大幅に改善

重症患者の術後の治療を24時間体制で行う集中治療室。

心臓血管外科の医師に代わって対応にあたっているのが、NPと呼ばれる診療看護師だ。

大学院の専門課程を終了し認定試験に合格した診療看護師は、特定行為と呼ばれる一定範囲内の診療・検査・処方が行える。

友愛医療センターが新たに取り組んだのは、医師の労働時間を減らすために術後管理などの業務を診療看護師に移管する「タスクシフト」。

友愛医療センター心臓血管外科 田草川明子 診療看護師:
先生たちがいま手術に入っているので、その間は私が動ける時間はこっちに来て診て、(治療方針を)こうした方が良いんじゃないかというのを共有しながら方向性をもっていきます

心臓血管外科では2人の診療看護師によるタスクシフトで、医師の働く時間が5時間も短縮された。

週に3日から4日あった泊まり勤務も、週に1日から2日程度に減ったという。

心臓血管外科・山内昭彦部長は「僕らのように不規則な時間帯で勤務している医者にとっては、非常にありがたい存在」と話す。

メリットは患者にも

専門知識と経験を有する診療看護師は、医師の判断を待たずに迅速な対応ができるため、患者の負担も軽減される。

友愛医療センター 看護部 永登諒 看護師長:
これは先生に言った方がよいのかなと悩んでいるところも、NPさんがいることによって相談できる環境が整っています

友愛医療センター ICU 玉城正弘 部長:
看護師の目線も持っていますし、ドクターの目線も持っていますので、非常に助かっています。かなり助けられた患者さんいますよ

友愛医療センター心臓血管外科 田草川明子 診療看護師:
先生たちがいいよね、よかったねと言ってくれるだけじゃなくて、患者さんが「(診療看護師が)いてよかった、やってくれてよかった」と言ってもらえるところがベストなのかなと思います。私が目指すのはそこかなと

徹底的な技術指導で緊急手術も常時対応

タスクシフトのほかに友愛医療センターが注力してきたのが「医師の手術教育」だ。

これまでは、部長の山内医師にしか担えなかった手術を、後輩の医師でも執刀できるよう徹底的な技術指導を行い、現在は執刀医3人で緊急手術にも常時対応できるローテーションを組むことが可能となった。

友愛医療センター心臓血管外科 山内昭彦 部長:
昔は自分が全部やればいいやという考えもありましたけれども、それは結局組織としては弱い話であって、しっかりできるという人間がたくさんいた方が、結局は手術も治療も回る。ですからそこを目指してやっていますね

友愛医療センター心臓血管外科 楢山耕平 医長:
心臓血管外科医の手術というのは、簡単なものじゃない。限られた時間の中でも勉強と手術の質を上げる努力をしていきたい

患者を断るような世の中には絶対にならないでほしい

成長を遂げるのは、人だけではない。

内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入し、より正確で質の高い手術が行えるようになった。

傷口が小さく退院までの日数も大幅に短くなったことで、医師の労働時間と病床が限られる中でも多くの患者を受け入れることができる。

友愛医療センター心臓血管外科 山内昭彦 部長:
(働き方改革によって)世の中は変わるが、私たちがなぜ医者になったかというと、やっぱり患者さんが喜ぶようなことがしたいというベースがあります。医療従事者側が患者さんを断るような世の中には絶対にならないでほしいです

これまでどんな激務であっても、自らの時間と体力を犠牲にして多くの命を救ってきた医師たち。

時代とともに働き方が変わっても、地域医療の担い手としての責任感と矜持を胸に、患者と向き合い続ける。

(沖縄テレビ)

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