いまもなお懸命な救出活動が続く台湾東部を襲った地震。Mr.サンデーは、衛星画像やAIを駆使し、被害の実態を分析。また、地震発生後わずか3時間で避難所開設を可能にした、“官民連携”の仕組みについても取材した。
山崩れで落石被害多発
ターコイズブルーの美しい海と、雄大な自然の造形美。息を飲むようなその絶景の中に、えぐられたような巨大な爪痕が……。
この記事の画像(15枚)Mr.サンデーが入手したのは、台湾の名所・太魯閣公園近くの海岸の映像だ。
地震発生から3日が経った5日も、鉄道や道路の上ではまだ落石が起きていた。取材中にも、遠くの山肌では、大きなガラガラという音をたてて、石が山の上の方から落ちてくることがあった。
最大震度6強を観測した台湾東部地震で、相次いだ落石。今回の地震で、これまでに確認されている死者は13人で、そのうち12人が落石などによって命を落としているという。(※7日午後9時時点)
7日、台湾の太魯閣渓谷にいたのは、大型のドローンを抱えた男性。彼らは、ドローン先進国といわれるトルコから現地入りしたスペシャリストたちだという。落石が続き、救助活動が難航する中、赤外線センサーで人を感知できるドローンを使い、いまだ安否不明の6人の捜索を開始した。山間部で孤立状態だった約300人は、7日、道路の復旧により下山できた一方、安否不明の6人について台湾当局は、太魯閣公園内で地震に巻き込まれた可能性があるとみているという。
衛星画像から台湾地震を分析している、東京大学大学院の渡邉英徳教授は、被害状況について次のように指摘する。
「元々は緑色にべったり覆われている植物がたくさん茂っている山ですよね。ここが被災後はこうなるんですけど、緑色に見えたような箇所が全て削れちゃっているんですね。茶色い色をしていますよね、このモヤが。なので、土ぼこりが舞い上がっているんじゃないかなと」
台湾の名所・太魯閣渓谷などで、土砂崩れと共に多発した落石。なぜ今回、落石が相次いだのか?台湾大学の地質学者、宋聖栄教授はこう語る。
「台湾で比較的多いのが大理石です。台湾は造山帯にあるので、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの圧力によって岩石は比較的にもろいんです」
2つのプレートの境界上にある台湾。これらが押し合っているため、そもそも地盤がもろいという。その上、プレートの圧力もあり、太魯閣渓谷は切り立った崖になっていて、大きな地震が起きれば落石が起きやすいのだという。確かに落石の映像を見ると、どれもまるで壁のような断崖絶壁で、そびえる山肌から岩が崩れ出している様子が確認できる。
地震発生から2日後には鉄道全線復旧
落石はこんな場所にも襲いかかっていた。
地震発生当日、巨大な岩が横たわっているのは線路の上。こうした落石が複数個所で発生し、花蓮県の中部から北の一部区間で運行停止を余儀なくされていた。
それでも、地震発生から2日後の6日に現地へ取材に入ると、早くも全線が復旧していた。
実は、発生当日の夜にはすでに重機が落石現場に入り、線路上の岩を砕き、撤去していた。地震発生からここまで、わずか16時間。一夜明けた頃には、線路も修復され、始発から全線で運行再開にこぎつけていた。台湾鉄道・花蓮エリアのメンテナンスリーダー、李建勳さんは、「私たち台湾鉄道は地区のスタッフほぼ全員、1000人以上を投入し、無事24時間以内に復旧させることができました」と語った。
地震直後の混乱の中でも果たされたスピード復旧。その結果、被災地にいち早く支援物資を届けることができたのだ。
迅速な対応は、鉄道だけではない。
地震の影響で大きく傾いたビルも、地震の翌日にすでに撤去が終了していた。
「私たちが当局の指示を受けて現場で建物を調べて回るんです」と話すのは、花蓮県から派遣された鑑定士。地震発生直後、即座に現場へ駆けつけ、建物を取り壊すべきかどうか判断を委ねられた。鑑定士は「周囲の住民に2次被害が及ばないように判定を行います。これには専門職の人間の判断が必要です」と語る。
官民連携の「防災LINEグループ」
さらに、Mr.サンデーが訪ねたのは、花蓮市内の小学校に設置された避難所。
個室のタイプのテントが設置されているほか、シャワー用のテントも備えられ、食べる物や日用品も十分だ。さらには、ビデオゲームに避難者たちの疲れや緊張をほぐすためのマッサージまで用意されていた。しかも、地震発生後、避難所の開設までかかった時間は、わずか3時間ほどだったという。
なぜ、これほど迅速な対応ができたのか?花蓮市社会課の職員は「私たちの『防災LINEグループ』には、タイムリーに画像が上がります。どこで災害が起こっているか、何をすればいいかがわかるので、すぐに関係部門が対応できるのです。ここには民間団体も入っています」と話す。
行政と民間団体が一体となった「防災LINEグループ」の実際の画面を見せてもらうと、地震発生からわずか13分後には、「すぐに対策センターを開設する」と書き込まれていた。
そして「花蓮県災害対策センターは本日(午前)8時15分より開設作業を開始」「各部門に、本日午前9時前に人員を派遣して対応に加わるように要請する」と指示が出るやいなや、各部門から「了解」と、次々に返信が送られていた。
そこには、避難所などを担当する部門や、警察、電力などのインフラに、教育部門まで、支援や復旧に必要なあらゆる行政部門と民間団体が集結。被害状況や、各部門の動きなどをリアルタイムに共有することで、適切な対応を迅速に行えるという。
避難所のテントを約3時間で設置したのは民間の団体。弁当などの食事は最初に行政が用意し、その後は民間団体が無償で支援している。花蓮市社会課の職員は、「皆さんすごく熱心なので、必要があると分かるとすぐに協力してくれます」と話す。
このような仕組みは、2018年に花蓮県で発生した大地震をきっかけに構築された。行政と民間が連携する現在のシステムが生み出されたという。
花蓮県消防局の副局長は、「2018年に大地震が起き、その時も大きな災害となりました。それ以来、花蓮県では地震が起きた時、直ちに対応できる形を作ったのです。これがあるので、災害が起きた時に必要な業者や人員、設備をすぐに見つけることができています。普段から、状況を想定し、関連業者に協力してもらう訓練も行っているんです」と話す。
いざという時を想定し、官民共に築き上げた災害時のシステム。そこから日本が学べることとは――。
(「Mr.サンデー」4月7日放送)