次の選挙で公認されないのは誰だ
自民党の政治資金規正法違反事件をめぐって岸田文雄首相は、安倍派幹部ら数人を次の選挙で「公認しない」という処分を下すようだ。
処分対象の候補に挙がっているのは、塩谷立、下村博文、西村康稔、世耕弘茂、高木毅、松野博一、萩生田光一、武田良太氏の8人だが、このうち最終的に誰が公認されないのかはまだ不明だ。
公認されなければ無所属での出馬となり、党の支援を受けられないだけでなく、衆院の場合は小選挙区で負けると比例で復活できず、落選する恐れがある。

二階俊博元幹事長もおそらく「公認されない」候補のリストに載ったために、自分の年齢(85歳)、後継者、選挙区事情などを考慮して次の選挙への不出馬を決断したのだろう。
いずれにしてもこの「公認せず」が岸田氏としては精一杯の処分だ。「離党勧告あるいは除名すべきだ」との厳しい意見もあり、処分を「生ぬるい」と見た有権者の怒りは収まらないかもしれないが、現実的にこれ以上は無理だと思う。
安倍派と二階派をいじめている?
公認されなかった人の中から落選者が出れば、有権者の怒りも少しは収まるかもしれない。ただ筆者はこの話の重要なポイントは、国民からすると、岸田氏が安倍派と二階派をいじめているのに、自分は「無傷」でいるように見えないか、ということだと思うのだ。もしそうなら自民は選挙で大負けするかもしれない。

安倍派は総額6億円の「裏金」を組織的に作り、政治資金収支報告書に記載しなかった。だから会計責任者が立件された。一方の岸田派は「事務的なミスが重なり」3000万円が不記載だったが、こちらも会計責任者は立件されている。
この事件の関連で政治家と秘書の逮捕者が2人出ているが、報道によれば、パソコンの破壊など証拠隠滅を図ったためで、本来、政治資金の不記載というのは訂正すればさほど大きな罪には問われない。

だからこそ岸田氏は処分について「実態解明を行った上で、政治的、道義的責任について方針を確認したい」と述べている。
つまり安倍派幹部を東京地検特捜部が不起訴処分にしたように、司法的責任は問われなかったが、政治的、道義的責任は問うべきという事だ。
問題は、岸田派が安倍派に比べ額は少ないし、「事務的ミスが重なった」から派閥会長である岸田氏に政治的、道義的責任はないと言い切っていいのかという事だ。

また政倫審で立憲民主党の野田佳彦元首相が追及したが、政治資金パーティーについて内閣の大臣規範で「大規模なものは自粛」するとなっているのに、岸田氏は首相になってからも一昨年、パーティーを7回開催し、1億3000万円の利益を上げている。
さらに岸田氏は自らの派閥の解散を宣言して皆を驚かせたが、歴代、首相に就任すると派閥を離脱しているのに岸田氏は離脱していなかった。コテコテの「派閥政治家」だったのだ。
これらについても岸田氏は政治的、道義的責任を取らなくていいのか。自分自身を処分しなくていいのか。つまり国民が岸田氏の態度に納得するのか、という話なのだ。
岸田首相は自らを処分せよ
だったらいっそのこと、安倍派幹部を公認しないなら自分も公認しないというのはどうだろうか。つまり自身に処分を下して、それで国民に信を問うて解散する、というサプライズだ。
これは「宏池会の解散」「政倫審への出席」という最近の2つのサプライズに続く、そして最大のサプライズになるだろう。
自分を公認しないという事はすなわち自民党総裁も辞めるという事だ。代行は茂木敏充幹事長か、森山裕総務会長か、誰かにやってもらえばよろしい。

自民党の選挙公約も、総裁を辞める前に決めておけばよい。メディアの党首討論会なども代行を出せばいいだけの話だ。総裁を辞めても首相の職務は続けるわけだから岸田氏の映像や音声は投票当日までずっとテレビに出続けるのだから、国民に忘れられる心配もない。
選挙なのに総裁がいないなんてそんな馬鹿な、と言う人はたくさんいるだろう。だがそれより総裁が党の不祥事に責任を感じて、政治家にとっての最大のリスクである「落選」というリスクを取ることで有権者に信を問う、というのは総裁の責任の取り方としては悪くないと思うのだ。