高知市中心街にある屋台が、市から3月末をもって退去するよう求められている。なぜそんな事態になったのか。屋台関係者の思いや客の声を取材した。
30年以上営業 過去には著名人も来店
3月22日の午後3時。高知市中心街にあるグリーンロードに大きな荷物が運ばれてきた。この場所で30年以上営業している「松ちゃん」の屋台だ。
営業は夜8時から。午後3時から設営や仕込みのため準備を進める。
「松ちゃん」の店長、正木直之さん（59）。屋台歴は39年になる。
屋台「松ちゃん」・正木直之店長：
お水沸かしたりだとか、全部やらなきゃいかんき。
「松ちゃん」の名物は、外はパリパリ、中は具だくさんのジューシーな薄皮のギョーザだ。飲み会のシメとして、ラーメンとギョーザは県民のみならず観光客からも人気で、過去には王貞治さんや松坂大輔さん、小泉純一郎元首相などの著名人も来店した。
そんな高知を象徴する屋台の明かりが消えようとしている。
3月末を期限に…市からの撤退要請
高知市から手渡されたのは「屋台占用に関する合意書」。3月末を期限に市道で屋台営業をしないように要請するものだ。
道路で屋台を開くには市の許可が必要だが、これまで許可を得ずに営業。約40年間、市は黙認していた。
この問題について、自身もグリーンロードで屋台を営む県屋台組合の宮本栄豊組合長（27）は、「5年前から始まっている話」と説明する。
5年前の2019年。住民団体が騒音や悪臭などを理由に、屋台の撤去を求める要望書を市に提出。
市は2020年にプロジェクトチームを立ち上げ、屋台の市有地への移設を検討した。
市は屋台の移設先として、グリーンロードの追手筋を挟んだ南側の場所を選んだ。しかし複数の周辺事業者から同意が得られず、移設を断念した。
県屋台組合・宮本栄豊 組合長：
移設ができなくて「3月末で撤退してください」というのは、ちょっと違うんじゃないかなと思いますね。やっぱり高知市と一緒にこのグリーンロードにいる屋台、プラスこれから新しい世代の屋台をつくりたかった。
宮本さんは4月以降もグリーンロードで屋台の営業を続け、高知市と話し合いを続けていきたいとしている。
一方、「松ちゃん」は3月末を持ってグリーンロードから去る決断をした。
4月からは廿代町の空き店舗に移る。
屋台「松ちゃん」・正木直之店長：
ちょっと寂しい気分はあります。でも新たにまた違う場所で店舗展開をしていくんで。そこでまた1からかなと思うんですよ。ちょっと不安もいっぱいありますよね。
今まで通り屋台のお客さんが来てくれるかどうかもまだ不安ですし、屋台と店舗じゃ違うので。
「何で博多はいいのに、ここがダメなのかな」。取材中に聞かれた福岡の屋台。福岡市は2013年、日本で初めて「屋台基本条例」を制定した。
年々減少していた屋台を文化として残し観光資源として生かそうと、条例に基づき営業ルールなどを厳格化。特別に道路や公園での営業を認めている。
県屋台組合・宮本栄豊組合長：
福岡の前例を基に、高知市にも条例の制定と屋台を残していく活動をしてほしかったです。
高知市は「福岡のような条例を検討したが、1つの屋台の大きさが福岡より大きいなどの違いがあり、高知にそのまま当てはめるのは困難だと判断した」としている。
「街の色気が1つ減るような感じ」
屋台の撤退に、夜の街からは「なくなるのは街の色気が1つ減るような感じがする」「ここらへんのお店が閑散としてしまうのは、懸念点ではある」と惜しむ声が聞かれた。
22日の午後8時前、家族連れや会社員で屋台はにぎわっていた。
高知市民：
なくなるのは寂しいです。なのできょう絶対、来たいなと思って。
「タタキ食べた？どうやった？」「おいしかったっす」「良かった～」「わら焼きの迫力がえぐいっす」と聞こえる会話。
「お隣の方と触れ合うのが楽しい」「すごい温かい場所」。屋台の魅力を味わった県外の人たちは「なくなってほしくないという気持ちが大きい」と残念がった。
高知市民：
高知県民といえば、こういう、わいわいした所で周りの人と仲良くなれる機会もあるのが魅力的。
“おまち”の文化として長く市民に親しまれてきた屋台。灯りとともに文化もこのまま消えてしまうのだろうか？
営業停止を求め市が合意書を渡した10店舗の屋台のうち、6店は合意書を提出、または提出見込み。2店は休業または廃業。
残り2店は合意が取れておらず、4月以降も営業を続けながら市と話し合いを続けていくという。（3月25日時点）
高知市道路管理課は「すぐに強制撤去はせず、なるべく早く違法な状態を解消するように努めたい」としている。
（高知さんさんテレビ）
