能登半島地震で震度6強が観測された石川県七尾市にある「のとじま水族館」は甚大な被害を受け、静岡市の獣医師が支援のため派遣された。獣医師が勤務する動物園では、南海トラフ地震に備えて動物の脱走などを想定した訓練など行っている。どのような訓練や対策を行っているのだろうか。
能登半島地震で水族館も被害
2024年1月1日に発生した能登半島地震。240人以上が犠牲となり、避難生活も長期化している。この地震によって、ジンベイザメで有名な地元の水族館も甚大な被害を受けた。

2023年のクリスマスイブに石川県七尾市の「のとじま水族館」では、イルカのショーをみて歓声を上げる人たちや大勢の家族連れが詰めかけていた。

しかし、この8日後 水族館を地震が襲い、館内で幻想的にライトアップされたクラゲは、激しい揺れによって照明が崩壊した。

人気者のジンベイザメの水槽では、水位が半分ほどに低下。水族館によると、地震の影響で水槽のろ過設備が止まり、飼育されていたジンベイザメ2匹のうち1匹が1月9日に死に、もう1匹も次の日に死んだ。水質の悪化が原因とみられている。
「水槽が濁って何も見えない」
国内にある89の動物園と51の水族館 計140が加盟している日本動物園水族館協会(JAZA)は、こうした被害を受け、加盟する施設から支援のためスタッフを派遣した。静岡県からは、静岡市にある日本平動物園に勤務する獣医師の岡村創さんが派遣された。

被害にあった、のとじま水族館の現場を見た岡村さんは「ジンベイザメの水槽は濁っていて近づいても何も見えない。ジンベイザメがたまに水槽の周りに近づいた時にだけ、なんとか影が見えて生きていることを確認できる状況」と話す。
岡村さんにとって初めての被災現場で、「自然災害の脅威を感じた」と言う。

日本平動物園 獣医師・岡村創さん:
人間が動物や魚に環境を与えて生かしているので、それを保つことができなくなると一気に動物たちの生活環境が崩壊してしまう。自然災害の前で我々が対応できることが限られている
動物の脱走を想定した訓練も
静岡県内では南海トラフ巨大地震の発生が心配されていて、甚大な被害が想定されている。

日本平動物園では災害によって獣舎が崩壊し、動物が脱走することなどを想定した訓練を定期的に行っていて、対策マニュアルも示されている。

園内のいたるところに設置されたフェンスは緊急時に、動物たちの脱走を防ぐために設けられている。災害時や人為的ミスなどで動物が万が一逃げた時に、フェンスを閉じて動物が逃げる経路を限定するという役割がある。
動物が避難先でなじめないことも
しかし、岡村さんは被災地の被害を目の当たりにし「実際に被災すると、当園だけで対処できないことも十分想定される。その場合、近隣の他園館の力を借りることも考えなければならない」と、自分たちの園だけで動物たちをコントロールする難しさを感じたという。

日本動物園水族館協会によると「のとじま水族館」の動物たちは、2月5日に近隣の動物園や水族館への緊急避難が完了したが、中には環境の変化になじめず避難先で死んだ動物もいるという。

普段から飼育する動物や獣舎の空きなど、他の動物園や水族館と協会を通して情報共有を進めているが、3月現在 県内で協会に加盟している8カ所のうち、水族館は東海大海洋科学博物館の1館のみとなっている。
岡村さんは「協会に加盟していない動物園や水族館との情報共有や協力体制を確立させることが急務だ」と訴えている。

日本平動物園 獣医師・岡村創さん:
アザラシ・ペンギン・カワウソなど、動物園・水族館が互いに協力できる動物種はいるので、飼育状況の共有は今後できれば
県内には協会に加盟していない水族館もあるが、加盟・非加盟に関係なく動物たちを守るためには、動物園や水族館が互いに助け合うために日頃から情報を交換し、協力しあう体制を作っておくことが求められる。
*日本平動物園では のとじま水族館を支援するため募金箱を設置した。のとじま水族館はクラウドファンディングを実施し、再開に向け動き始めている。
(テレビ静岡)