各地でスギ花粉の飛散が続いていて、花粉症の人にとっては辛いシーズン。そんな花粉症の人に夢のような島が長崎にある。「花粉に悩まない」といわれ全国的にも注目されている島に、長年花粉症に悩む記者がその真偽を確かめに向かった。
「花粉症とは何ぞや?」な夢の島へ
「花粉に悩まなくて済む」といわれる島は長崎県の北部に位置する平戸市にある。
この記事の画像(12枚)ーーこれまで苦しんできた花粉症の症状が本当に楽になるのだろうか。
そんな期待と不安を胸に、花粉症歴20年以上のKTN記者は、平戸市の的山大島(あづちおおしま)という島にフェリーで向かった。
平戸港からフェリーで40分、見えてきたのが平戸市の離島・的山大島だ。人口は約900人、半数が、65歳以上の高齢者だ。かつて鯨取りで栄えた島には江戸時代から続く古い街並みが残っている。
的山大島は、生活圏に花粉がほぼ飛んでいないことから、「避暑地」ならぬ「避粉地(ひふんち)」として全国から注目されている。まず訪ねたのは平戸市役所だ。的山大島出身の平戸市職員の小山健二さんに話を聞いた。
――花粉症ですか
平戸市 企業立地推進室 小山健二 班長:花粉症ではないですね。おそらく島の大多数の人が「花粉症とは何ぞや?」と言いますね
島の人にも花粉症かどうか聞いてみるが、ほとんどの島民が花粉症患者ではなく症状も出たことがないと話す。地元の中学生に聞いても、花粉症はクラスの15人中1人と、花粉に悩む人はほぼいないようだ。
島に到着して数十分、花粉症歴20年の記者にも変化が。
テレビ長崎 松永悠作記者:鼻水も止まっている!鼻呼吸できる喜び。のどの違和感もない。風を全身で浴びて呼吸ができるのは久しぶりなので感動している。本当にこの島にきてよかった
花粉症と無縁の島のひみつ
なぜ、症状が治まるのか?平戸市役所の小山さんは、スギの林が島の面積の約1パーセントと極端に少ないことに加え、「風」も影響していると話す。
平戸市 企業立地推進室 小山健二班長:この島の立地上、今の時期は北風が吹いて花粉が飛散しても風が流してくれる。また、本土との距離があるので、よその花粉が飛んでこないということで「避粉地」として良い場所になっている
過去の調査では的山大島の花粉の飛散量は、長崎市と比べ1/7から1/10程度であることが分かっている。
「避粉地」で町おこし
花粉が少ない島の特性を町おこしにつなげようと立ち上がった人がいる。
島生まれ、島育ちの大工・丸田圭介さんだ。丸田さんは2008年、仲間と共に花粉症の人を島に招き、気ままに過ごしてもらう「避粉地ツアー」を始めた。
「避粉地ツアー」を企画した丸田圭介さん:過疎化が進んでいる地区の街並みを利用して、賑わい作りをやっていけたらと。フェリーから降りた途端にいい笑顔になって、マスクが取れたりサングラスが取れたりというのを見ると(ツアーを)してよかったと思う
長崎県の内外の花粉症患者が参加し大好評だったが、ツアーは運営スタッフの人員不足や高齢化などを理由に5年前から休止が続いている。
――避粉地ツアーの復活は難しい?
以前「避粉地ツアー」を企画した丸田圭介さん:そうですね(運営メンバーが)亡くなり、3人いっぺんに減ってしまった
残念そうに話す丸田さんだが、「避粉地としての魅力を町おこしにつなげたい」という丸田さんの思いは島出身の行政マン・小山さんに受け継がれている。
“避粉地ブランド”で受け継がれるバトン
平戸市 企業立地推進室 小山健二班長:心の中で抱いている目標は、この島に企業を1社連れてくる。花粉症に悩むIT企業の社員がたくさんいると聞いたので
小山さんが今、取り組んでいるのは、県外企業を島へ誘致すること。
まるで映画に出てきそうな風情の島の建物を、”サテライトオフィス”として利用してもらおうという計画だ。
小山さんは花粉が舞うシーズン、島でリモートワークをした場合、交通費や宿泊費などの経費の3/4を市が負担する事業を立ち上げた。
平戸市 企業立地推進室 小山健二班長:先々には「この島で営業所を作りたい」「保養所を会社として持ちたい」という企業が現れて、花粉の時期には期間限定ではあるが大島に人が訪れることで活気を取り戻す、そういう未来予想図を描きながら仕事をしている
小山さんは休止が続く「避粉地ツアー」についても、行政や民間企業を巻き込み、復活させたいと考えだ。さらに「避粉地・大島の出身者として避粉地ブランドを世に広げたい」と夢を語ってくれた。
現在「避粉地ツアー」は休止期間中だが、花粉に悩まない時間を過ごしたいとはるばる遠方から島を訪れる人もいるという。古くは捕鯨で栄え、江戸時代の港町の風情を今に残す的山大島。海風を思い切り吸い込んでも花粉症に煩わされることなく、身も心も自由に探索を楽しめる島に一度訪れてみてはいかがだろうか。
(テレビ長崎)