子育て真っ最中の親たちに交流する機会をもってもらおうと、イベントを開いて活動するお父さんがいる。イベントを企画し、長期育休をとった男性が育児と真っ向から向き合った1年には、大きな喜びの瞬間だけでなく、苦悩や孤独な日々があった。
お父さんが企画者!子育て講座
11組の親子が参加して長崎市で行われた子育て講座。テーマは「子供の足育」だ。
この記事の画像(12枚)講座を企画したのは、2歳と1歳の娘を持つ父親でもある石川敏郎さん(33)。そして講座の講師を務めるのも「お父さん」だ。この日は、2歳の男の子の父親でもある柔道整復師の峠雄亮さん(33)が、くつ探しのポイントなどを教えた。
柔道整復師・峠雄亮さん:
子供の足を見たら3つのどれかに(足の形が)あてはまる。くつから中敷きを取り出して、子供のかかとをしっかりあわせる。かかとがあわないとダメ。一番長い指から大人の手の指1本分、厳密にいうと7ミリをあけてあげる
講座の企画者である石川さんも、娘と一緒に話を聞こうと参加者の輪に加わるものの、落ち着いて聞く…なんてできるわけもなく、飽きてしまいグズリ始めた娘を別部屋であやしていた。
講座を企画した石川敏郎さん:
これがリアルな育児の現実です
石川さんと峠さんは中学時代の同級生だ。2人で初めて開いた今回の講座は参加したお母さんたちからも「くつ選びに悩んでいたので、教えてもらえてよかった」と好評だった。
講座を企画した石川敏郎さん:
ほっとしている。パパ同士で物事を考えて、育児という世界で一歩を踏み出せたのがすごくうれしい
石川さんは、長崎市の出身で高校時代は春の高校バレーの全国大会にマネージャーとして出場し、チームを支えてきた。
2019年に幼馴染の美耶子さんと結婚。長女の円耶ちゃん(2)と次女の美月ちゃん(1)の2人の娘がいるお父さんだ。長女が生まれた時、石川さんは仕事を優先して育児休業をとらなかった。しかし、初めての育児は妻に想像以上の負担をかけることになった。
妻の美耶子さん:
1人目の時は無我夢中で何が何だかわからなかった。相当ガルガルしていた(笑)。上の子がなかなか寝ない子で、毎日抱っこ抱っこ、やっと寝たと思って置いたら起きて…。主人は仕事をしていたので夜代わってもらいたくても頼めない、頼めないけど寝不足すぎてイライラするし、わかってはいるけど、ちゃんと育てなきゃというプレッシャーが自分だけにかかっていた
夫への愛が激減!変わる夫婦関係
1人で抱え込み、自分自身を追い詰めてしまう母親は少なくないだろう。
筆者にも同じ経験がある。現在は3歳と7歳の子供の母親で子育て真っ只中だが、妊娠から出産、出産後の生活を思い返すと、かけがえのない幸せな時間であるとともに、それまでに経験したことのない「とまどい」や「決して逃げることができない」「終わりが見えない」時間でもあった。
初めての育児はとまどうことも多く、何をしても泣き止まない子供を前にしても、寝不足で頭と体が働かない。極限の精神状態の中、頼れるはずの夫は仕事で不在。仕事だから仕方ないと頭では理解できていても心が追いつかず、夫への嫌悪感が増幅していった。「産後クライシス」だった。
「産後クライシス」とは、本来新たな幸せの始まりである出産を機に、良好な夫婦関係が急激に悪化する状態。
ベネッセ教育総合研究所が配偶者への愛情の変化を追った調査では、「夫を本当に愛していると実感」している妻は、妊娠期は74.3%だが、0歳児期には45.5%に激減し、そのまま減り続ける傾向にある。
さらに、初産であればなお赤ちゃんとの生活に慣れないことも多く、イライラしたり落ち込んだり、自分でもよくわからないまま涙が止まらなくなったりする症状が出る女性も多い。これがいわゆる「マタニティブルー」だ。「マタニティブルーズ」とも呼ばれ、日本産婦人科医会によると、出産後の女性の3~5割が経験するという。
原因としては、人生の一大イベントを乗り越えた後の気持ちの変化や思い通りに子育てがうまくいかないことに対するジレンマもあるが、急激な女性ホルモン(エストロゲン)の低下などで、そうした症状が現れると考えられている。多くは一過性のもので、産後10日程度で軽快すると言われているが、「マタニティブルーズ」が長引いた場合、「産後うつ病」に移行するケースもあり注意が必要だという。
夫が長期の育休取得を決めたワケ
こうした産後のホルモンバランスの変化もあってか、1人目が生まれた時には石川さん夫婦の間にもすれ違いが生じ、衝突することも増えていった。
妻の美耶子さん:
ひとりで育てている感が自負としてあったから、夫にも「こうして、ああして」と指示していた。夫に「それは子供にまだやらせてないから」「食べさせてないから」と言うと、夫は「面倒見ているのにそんなこと言われないといけないんだ」という顔をしていて、こっちも「は?」って腹立ったから、言うところも言わないところもあったが、すれ違いがあった
もともと敏郎さんは育休への興味はあったものの、前例がなく、入社10年目で着実にキャリアを積んでいきたいという考えが勝っていたという。
石川敏郎さん:
自分の子供だけど育児は妻に任せる、仕事さえ頑張っていればいいという自分がいた。どこか他人事のように仕事の方に向き合ってしまったというのがリアルなところ
敏郎さんは、夫婦間のすれ違いや妻の負担などから次女が生まれる時には長期の育児休業を取ることを決意した。
石川敏郎さん:
壮絶な育児を1人目で経験したので妻の負担というのが第一にあったし、仕事を一生懸命やっていると、長女の乳児期の記憶が意外とないなと気づいた。「1人で歩いているけどいつから歩きだしたの?」みたいな状況だったので、自分の子供を育てる中でこんなに寂しいことはないなという思いがあった
そうして、職場として前例のない長期の育児休業をとることを決意した敏郎さんだったが、理想と現実のギャップに苦悩することになる。
(テレビ長崎)