走ってなんぼの世界…。賃金が下がればドライバーになる人はいない…。長距離運送を担うトラック業界からは労働時間の規制に悲鳴が上がっている。ドライバーの働き方改革、いわゆる”2024年問題”は深刻だ。

“半分が辞めていった”運送会社

人材不足を訴える運送会社の社長
人材不足を訴える運送会社の社長
この記事の画像(17枚)

「うちは昨年1年間で約半分の人間が去っていきました。(仕事が)きついのを承知の上で入ってきた人がたくさんいると思うんですけど、それが残業時間に規制がかかってできない」

佐賀県内のある運送会社の社長は、トラック業界の深刻な人材不足の現状をこのように訴える。

4月から法律で規制されるトラックドライバーの時間外労働。年間960時間、1カ月で100時間の上限が設けられ、違反した事業者には懲役または罰金が科せられる。

専門家は規制実施への経緯について次のように説明する。

日本物流学会会長
流通経済大学 矢野裕児教授:

2019年から働き方改革ということで時間外労働の上限規制というのが行われていたんですが、その中で自動車運転は特殊な働き方なので5年間適用が猶予されていた。それがとうとう5年間経って適用される

ドライバーは「走ってなんぼ」

国内で輸送される貨物の9割以上を運んでいるのがトラック。全国で1400万台あまりに上る。
このため“労働時間の制限”による影響は大きい。

労働時間の規制によって賃金が減るのではないか…不安を口にするトラックのドライバーは多い。

Q、労働時間規制の影響はありますか?

長距離ドライバー:
今まで通りの走りができなくなると稼げなくなるというところですね。ドライバーをしている人はやっぱり走ってなんぼの世界なので

長距離ドライバー:
去年と比べた7万から8万くらい(月収が)下がった。きつい・汚い・危険という(イメージ)が昔からあるから、それで賃金が下がったら(トラックドライバーに)なる人いないんじゃない、たぶん

トラックのドライバーにとって労働時間の上限規制は、“賃金の減少”につながる深刻な問題なのだ。

影響大きいのは“長距離輸送”

物流業界全体への具体的な影響はどうなのか。
片道300㎞超える“長距離輸送”に与える影響は大きいと専門家は指摘する。

流通経済大学 矢野裕児教授:
宅配便については、それほど影響はないと思います。ただ問題は(片道300㎞超える)長距離輸送で運ばれている生鮮品。ここのところはすごく影響がでる。ですから九州にとっては大きな問題だと思います

長距離ドライバーに密着取材

なぜ九州の長距離輸送で影響が大きいのか。
その現状を確認するため記者がトラックに同乗して密着取材を行った。

記者が同乗したのは、佐賀・伊万里市の運送会社のトラック。
ドライバーは、片道300キロ以上の“長距離一筋”15年というベテランの中村さん(46)。

Q、ドライバーになったきっかけは?
長距離ドライバー歴15年の中村さん:

車が好きというのが第1条件ですね。やっぱり好きな仕事をするのがいいじゃないですか。運転が好きです

長崎で預かった荷物を大阪・東京・埼玉に配送。帰りは千葉で荷物を預かり福岡に配送する4泊5日のルートだ。このうち初日のみ記者が密着することになった。

運転だけではない“重労働”

3月5日午前11時ごろ、佐賀・伊万里市の運送会社を出発。

走ること1時間。
正午ごろ、最初の目的地、長崎・佐世保市のJAながさき西海みかん選果所に到着。

到着するや否や、中村さんには重労働が待っていた。

ミカンが入った約3700個の段ボール箱をひとつずつ手で積んでいく。台の上にフォークリフトなどを使って積んでいくパレットと呼ばれる他の方法もあるが、“手積み”が最も多く荷物を積むことができると中村さんはいう。

午後2時ごろ、佐世保市(JAながさき西海みかん選果所)を出発。

すぐに高速に乗り、福岡・北九州市にある門司港のフェリー乗り場へ向かう。

午後3時ごろ、トイレ休憩のためサービスエリアに寄るが、フェリーの時間が迫り、昼食も取らず出発した。

休憩は「長くても30分」

トラックの中で布団を敷いて寝ることも
トラックの中で布団を敷いて寝ることも

休憩時間がとれないことが多く、中村さんは「長くても30分」という。比較的長い時間休憩する時も車の中で布団を敷いて寝るそうだ。

またトラックでの生活にはこんな問題も…。

ドライバー 中村さん:
どうしても限られてくるんですよね。シャワールームがあるパーキングが。時間帯によっては1時間とか1時間半とか待たなければならないこともあるので

肉体労働の汗を流すシャワーが少なく、九州自動車道では現在、北九州市の吉志PA(下り)1カ所のみ。
自宅に帰るのは週に一度くらいだという。
長距離を運転するトラックドライバーの労働環境は厳しい。

ドライバー 中村さん:
眠たくても走らなきゃいけない時ってあるじゃないですか時には。そういう時はやっぱりきついですね

また、荷主から受け取る荷物を待つ時間もスケジュールに大きく影響するという。

ドライバー 中村さん:
受け付けして3時間も4時間も呼ばれなかったら、忘れられているんじゃないかと思って不安になりますよね。ドライバーがその分、寝ずに走ったりとかしないといけないから。そこは(荷主に)わかってほしいですね

国と現場に“温度差”

肉体的にも精神的にもハードな仕事だが、体が動く限りドライバーを続けたいという中村さん。
時間外労働の上限規制がトラック業界全体に与える影響が気がかりだという。

ドライバー 中村さん:
国の考えていることと現場とでは温度差がある、実際に。どういう仕事をしているのか知ってもらいたいですね。とにかく

午後5時ごろ、福岡・北九州市門司区のフェリー乗り場に。
中村さんはフェリーで12時間の休憩をとり、大阪到着後、再び高速道路を運転して関東へ向かう。
再び九州に戻ってくるまで4泊5日。長距離ドライバーにとっての仕事は序盤に過ぎない。

問題は“人と車の確保”

人材確保に苦しむトラック業界。
ドライバーの数は全国で約80万人。10年前から横ばいだが、ネットショッピングの普及などで輸送する荷物が急増し1人あたりの負担が増えている。
さらに燃料価格の高騰が続き、事業者は運賃の値上げなどの対応を迫られている。

有田陸運(佐賀・武雄市) 鳥谷竹人社長:
一部のお客さんでは8%くらい運賃を値上げしている。実際は10%上げていかないと2024問題は厳しいのかな。やっぱり人と車のちゃんとした確保。これができるかできないかですよ

物流の将来に強い危機感

時間外労働上限規制の影響が大きい“長距離輸送”の事業者からは悲鳴が上がっている。
1年間で約半分の従業員が辞めていったという運送会社の社長は、日本の物流業界の将来に強い危機感を抱いている。

佐賀県内の運送会社社長:
無理はさせたくないんですけど、働かないと食べてはいけない人たちなんです。この国から物流がなくなったら国はどうするんだろうと思っています

(サガテレビ)

サガテレビ
サガテレビ

佐賀の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。