創業100年の老舗飲食店が2023年10月、その歴史に幕を閉じた。加齢による体調不良と物価高騰が理由だという。長年愛されてきた「皿うどん」が名物の食堂。連日、長蛇の列ができ、常連客が閉店を惜しむ姿が見られた。

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卵焼き入りの絶品“皿うどん”

卵焼き入りの“あん”を太麺と絡めて食べる「皿うどん」。佐賀市の老舗「春駒(はるこま)食堂」の名物だ。

大正11年(1922年)に創業し、2023年で102年目を迎える春駒食堂。半世紀にわたって通い続けている常連客も珍しくない。

のれんを守ってきたが…閉店を決意

現在の店主・牟田達也さん(67)が妻の実家である食堂を継ぎ、3代目として38年間のれんを守ってきた。しかし、原材料の高騰と加齢による体調不良で閉店を決意した。

店主 牟田達也さん:
肩や腰、足などに限界がきて長時間仕事ができないんですよ。痛くて。また材料が手に入らなくなった

物価高騰の影響を受けた材料はモヤシだ。「皿うどん」や「ちゃんぽん」に使う新鮮なモヤシを佐賀市の業者から毎日仕入れていた。その業者が原材料の高騰のあおりを受け、2023年10月に廃業。代わりの仕入れ先を探したが「満足のいくものは見つからなかった」と牟田さんは言う。

「違うモヤシを仕入れたら味が変わる。何十年も食べた方には味が変わったのがわかる」と牟田さんは材料へのこだわりを語った。長い歴史があるからこそ、味を変えずに信頼を守りたいという強い思いがあるのだ。

牟田さんは、断腸の思いで長い店の歴史に幕を下ろす決意をした。

閉店を惜しみ長蛇の列

閉店の知らせを告げる張り紙をしたあと、店の前には毎日長蛇の列ができるようになり、3時間以上店の前で待つ人の姿も。

最終日は正午前に受付を終了。店内は常に満員で、100人前を準備した人気の「皿うどん」は瞬く間に売り切れとなった。

常連客も感慨深い面持ちで、営業最終日を迎えた老舗への思いを語った。

来店客:
佐賀に来てから40年くらい経つのですが、頻繁に食べに来る。この世にこれだけ美味いものがあるのかと感激した

佐賀では2023年、老舗のバーなど長く愛された飲食店の閉店が相次いでいる。近年の老舗の状況について複雑な思いを語る来店客の姿もあった。

来店客:
閉めてしまう店が多いと思うのですが、後継者がいないとか、いろいろな問題を凝縮したような閉店なのかなと思って悲しくなる

何とかこの味を残そうと事業継承を申し出る人もいたが、牟田さん夫婦はすべて断り、店を閉めると決めた。

店主の妻・京子さん(62)は「今まで大変だったんですけど、こんなにたくさんの方から愛されているんだなというのを、この1カ月つくづく思いました。もう感謝ばかりです」と閉店決意後の胸の内を語る。

誇りと寂しさ重なる店主の思い

1世紀にわたって愛されてきた「春駒食堂」。のれんを下ろす牟田さんの表情には、伝統の味を守り続けてきた矜持と店を閉じる寂しさが重なっていた。

店主・牟田達也さん:
仕事にずっと追いかけられてきた38年だったが、それがやっと終わった。その反面ちょっと寂しい気持ちもあります

(サガテレビ)

サガテレビ
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