3月21日からカナダ・モントリオールで行われる世界フィギュアスケート選手権。

現地時間19日の公式練習を終えたイリア・マリニン(アメリカ)は、曲かけ練習でジャンプを跳ぶことはなかった。その理由を問うと「それは見てのお楽しみに」とはにかんだ。

自身を“4回転の神”と名乗り、今シーズンのGPシリーズで300点超を出したマリニン。

この大会には、宇野昌磨、鍵山優真、アダム・シャオ イム ファ、そしてマリニンを含めた4人の“300点超スケーター”が集結。

歴代最高決戦という名にふさわしい激しい表彰台争いが予想される。

4回転を武器に、歴史を塗り替え続けるマリニンの“すごさ”に迫った。

公式練習で手応え

決戦の舞台となるモントリオール。

初日の練習をパスし、2日目の朝の公式練習に姿を現したマリニン。

曲をかける順番が1人目だったため、ショートプログラムを滑ったが、ここではジャンプをすべて流す形となった。

現地時間19日朝の公式練習に姿を見せたマリニン
現地時間19日朝の公式練習に姿を見せたマリニン
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じっくり身体を温め練習開始からおよそ20分。

ジャンプの練習に入るマリニンは入念に氷の感触を確かめた。この練習では大技のジャンプは跳ばずに練習を終えた。

スケート靴にはQG“クワッドゴット”の文字
スケート靴にはQG“クワッドゴット”の文字

練習後にマリニンに話を聞くと「とても良かったよ!氷の感覚も少しつかめたし、ここ数週間あまり良い感覚をつかめなかったから、世界選手権にまた戻ってきて、新たな気持ちで臨む準備ができた」と自信を見せる。

インタビューに応じてくれたマリニン
インタビューに応じてくれたマリニン

ジャンプを跳んでいなかった理由を尋ねるとマリニンは「それは見てのお楽しみ、サプライズにしておきたいから!」と笑った。

4回転アクセルの高さ84センチ

昨シーズン、マリニンは人類史上初の4回転アクセルを成功させている。

2023年の世界選手権でもその大技を決めた。

2023年世界選手権の表彰台
2023年世界選手権の表彰台

フジテレビが開発した「アイスコープ」は、ジャンプの「飛距離」「高さ」「着氷速度」をリアルタイムで計測するものだ。

過去5年に全日本選手権で計測されたトリプルアクセルの高さランキングは以下の通り。

羽生結弦:73センチ(2021年)
森口澄士:68センチ(2022年)
田中刑事:67センチ(2019年)

しかし、去年の世界選手権で、このランキングをはるかに超える数字をマリニンはたたき出した。

「アイスコープ」の数字と軌跡マリニン(2023年世界選手権)
「アイスコープ」の数字と軌跡マリニン(2023年世界選手権)

世界選手権で披露した、マリニンの4回転アクセルは高さ84センチだった。

難易度の高いジャンプに加えて、高さもある。この数字だけを見ても、マリニンのジャンプが規格外であることを物語っている。

ショートに4回転アクセル!?

そんなマリニンは今シーズンも歴史を塗り替えようとしていた。

それが起きたのはグランプリシリーズ。

4回転アクセルでジャッジを混乱させる事態が起きたのだ。

2023年の世界選手権でフリーの演技を披露するマリニン
2023年の世界選手権でフリーの演技を披露するマリニン

グランプリシリーズ第1戦のスケートアメリカで、マリニンはフリーで4回転4本に挑んだ。

その4本を成功させ、合計310.47点で優勝。

この300点超は長いフィギュアスケートの歴史の中で、五輪2連覇の羽生結弦さん、北京五輪金メダリストのネイサン・チェン、宇野昌磨、鍵山優真に次ぐ5人目の快挙となった。

続く第3戦のフランス大会でも、304.68点をマークしたマリニン。

そして、ジャッジの混乱が起きたのが、GPファイナルだ。

ショートでは3つのジャンプを入れなくてはならないという規定がある。
(1)ダブルまたは、トリプルのアクセルジャンプ(※4回転アクセルは認められていない)
(2)3回転または、4回転の単独ジャンプ
(3)ジャンプのコンビネーション

しかしマリニンは、ショートで4回転アクセルを(2)の「単独ジャンプ」で組み込んだのだ。

世界選手権は「楽しみたい」

ショートでのトリプルアクセルと4回転アクセルという、アクセルジャンプ2本は規格外の構成のため、ジャッジは困惑。一時、点数が付けらないほどだった。

その驚異の構成は、106.90点という得点を出し、パーソナルベストをマークする。

フリーでは4回転アクセルの成功はならなかったが、マリニンは4回転ルッツを2本、ループ、サルコウ、トゥループを完璧に決めた。

そして、合計314.66点でグランプリファイナルを初制覇した。

この合計点は、世界歴代3位の得点だ。

さらに4回転ループの成功は、ISU(国際スケート連盟)の公認大会で自身初。

過去に4回転フリップを決めているため、マリニンは6種類のジャンプ全てで4回転を跳ぶことができる唯一のスケーターとなった。

2023年の世界選手権ショートを滑るマリニン
2023年の世界選手権ショートを滑るマリニン

シーズン最後となる世界選手権に向けてマリニンは「すばらしい選手がたくさんいて、とてもいい雰囲気で、とても楽しい時間になる。観客の前で滑るのも楽しみたいし、みんなの演技も楽しみ。全力を出し切り、自分のキャリア最高の演技がしたい」と語る。

3連覇を狙う宇野、四大陸選手権優勝の鍵山優真、勢いがあるGPファイナル4位のアダム・シャオ イム ファら。今年の世界選手権も、誰が表彰台の頂点に立ってもおかしくない。

世界フィギュアスケート選手権2024
3月22日(金)男女ショートよる7時~
3月24日(日)男女フリーよる7時~
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班