地域の経済、雇用を支える中小企業や小規模な事業所にとって後継者への引き継ぎは悩みの一つだ。親から子へ、従業員へ、また第三者へと、鹿児島県内でも様々な「事業承継」の形が見られる。

後継者が不在…会社の休廃業や解散も

2月、鹿児島市で政府系の金融機関が開いた事業承継のマッチングイベント。

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鹿児島・薩摩川内市でラーメン店を営む山本和幸さんは「味にこだわり、色々なおいしい料理を提供いただければ、必ず実りのある場所と自信を持ってお薦めできます」と熱く語った。

脱サラして40年、山本さんは、家族と切り盛りしてきた店を他の人に譲ろうと考えていた。2024年で78歳という年齢が理由だ。

民間の信用調査会社、東京商工リサーチの調査では、鹿児島県内企業の休廃業や解散は2023年1年間だけで516件。

そのうち代表者が60代以上の会社は、年齢が分かっているだけで200社近くに上る。後継者不在のまま、高齢化による体力低下などを理由に、事業の撤退を決めたとみられる。

父から息子へバトンを…新社長に期待

事業承継のパターンは「親族に引き継ぐ」「従業員に引き継ぐ」そして「それ以外の第三者に引き継ぐ」の3つがある。

鹿児島市東開町にある建具メーカー、奥建具製作所。従業員は8人で、木製の障子や扉や家具の製造、販売を行っている。

ここでは4年前、創業者の父から経営を引き継いだ奥光洋さん(現・会長)から次男の悠輔さんへ、親族間でのバトンタッチが行われた。
きっかけの一つは、8年ほど前に光洋さんが大病を患ったことだった。県外で自衛隊員として働いていた悠輔さんを呼び戻し、会社を譲った。

50代後半で父から経営を引き継いだ光洋さん。「業界自体がかなり右肩下がりで、事業所数も半分以下になっている。仕事を継続するためにも、新しい考えが必要だと思った。若さを会社の成長につなげてほしい」と、33歳の悠輔さんに期待を寄せる。

社長となった悠輔さん。最初は戸惑いもあったが、経験を重ねるごとに社長としての責任感が増したということで「これから40代、50代になって、自分がどうなっていくのかという展望がはっきりと見えてきているので、すごく楽しみ」と前向きに語った。

“第三者承継”で会社を未来に残す 

一方、会社を第三者に引き継ぐというケースも、今後増える可能性があるようだ。

その理由について県事業承継引継ぎ支援センター・統括責任者の満澤美智雄さんは「息子はいるが、県外でサラリーマンをしていて、わざわざ帰って来ない。新型コロナで(事業資金の)借り入れが増え過ぎ、引き継ぎの足かせになっている」といった例を挙げた。

冒頭のラーメン店経営・山本さんなど2月のマッチングイベントの参加者は、第三者への事業承継を希望している経営者たちだ。

この場で「ものづくりに関しては、すごい執念と執着があった伯父だったと思います。そういう伯父の思いを継いでくれる後継者がいたら非常にありがたい」と語ったのは、いちき串木野市にある国桜技研工業代表・ディアコノ緑さんだ。カナダ人の夫と息子の3人で2023年、東京から移住した。2020年に亡くなった伯父・永江清久さんがつくった国桜技研工業を引き継いだ。

創業1973年、かつては遠赤外線で野菜を焼く機械や冷蔵、冷凍庫といった業務用機械の製造を行っていたが、今は取引先でのメンテナンス業務が中心。従業員4人は全員70代だ。

ディアコノさんは、ものづくりの知識や経験もなかった。この1年、苦労の連続で「本当に覚悟も必要だし、いろいろな犠牲も払わないといけない。創業者の思いを引き継ぐことまで考えると、なかなか難しいところがある」と語る。

同社の関連会社には、サツマイモの加工などを行う農業法人もある。ディアコノさんは工場近くにあるこの法人の経営に専念するため、工場を第三者に引き継ぐことを決断した。

従業員も「会社を残そうと社長が思っているのなら、それ(第三者承継)しかない」「若い人が入ればいいけれど、いないでしょう。私たちが若ければ引き継ぐが、もう年だし」と理解を示す。

マッチングのイベントでは、なぜ国桜技研工業だけ譲渡しようとしているのかとの質問も。ディアコノさんは「ここ1~2年、私もできることはやり尽くしたが、なかなか事業承継は(難しく)、こういう製造機械のエンジニアも人手不足と知っていた」と答えた。

伯父の工場を残すため、丁寧に質問に答えたディアコノさん。取材に対し「こういうアクションを起こさないと何も変わらないというのがあったので、リアクションがあることを願っている」と訴えた。

会社を未来へつなぐため、経営者に訪れる「事業承継」というターニングポイント。そこには現実を正面から受け止め、後継者探しに動く経営者たちの姿があった。

(鹿児島テレビ)

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