福岡市早良区のTNC放送会館の壁に描かれた巨大な壁画。ウクライナの民話「てぶくろ」をモチーフにしたデザインには、福岡から遠く離れたウクライナの平和への祈りが込められている。

巨大な壁画が福岡で復活

巨大な壁画を手がけたのは、佐賀市出身のアーティスト、ミヤザキケンスケさんだ。

壁画は、かつてウクライナ・マリウポリの小学校に描かれたものと同じ題材だが、ウクライナの壁画は、ロシアの攻撃により無残にも破壊されてしまった。これを福岡に復活させようとプロジェクトが始まり、2023年11月に完成した。

対になったウクライナと福岡の壁画

ウクライナ人のボイコー・ナタリヤさん(44)は20年ほど前に来日し、現在、日本人の夫と2人の息子と福岡市内で暮らしている。

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ナタリヤさんは今回の壁画制作に参加した1人で、ヒマワリを描いたという。
ナタリヤさんは「絵を見ると本当に色鮮やかでとても元気になります。楽しい気分になります」と語った。

ナタリヤさんが生まれ育ったのは、ウクライナ西部にあるリビウだ。歴史的な建造物が立ち並ぶ美しい町だったが、ミサイル攻撃で建物は次々と破壊され、子どもを含む多くの命が失われた。
母親や姉の家族は今も現地で暮らしているが、毎日、空襲警報が鳴り響き、眠れない日々が続いているという。

福岡市在住・ナタリヤさん:
母と毎日電話で話しています。やはり心配で…。ウクライナの人は、家や自分の大切な人を失い、働く場所もなくなったり…

母国の惨状に心を痛める日々も、もう2年となる。壁画の制作には、祈るような気持ちで参加した。

ナタリヤさんが何よりうれしかったのは、この絵のモチーフが子どもの頃によく読んだウクライナ民話の「てぶくろ」であることだ。描かれた「てぶくろ」はウクライナが「右手」、福岡が「左手」で、2つの壁画で「対」になっている。

福岡市在住・ナタリヤさん:
手袋の中はすごく狭いけど、たくさんの人が笑って楽しそうにしていますから、戦争のない世界、ウクライナだけでなく世界中にあったらいいなあと願っています

娘と福岡に避難「助けてほしい…」

ロシアによるウクライナ侵攻開始から2024年2月24日で2年がたった。終わりが見えない中、福岡県内に避難しているウクライナ人たちは今、どんな思いで過ごしているのか。

2月19日、福岡県庁でウクライナからの避難者を応援する販売イベントが開かれた。

華やかな民族衣装でイチゴの「あまおう」を販売していたのは、エカテリーナ・チャプリンシカさん(32)だ。
エカテリーナさんは2022年3月、ウクライナから娘のアナスタシアちゃん(5)と福岡・田川市に住む姉のもとに避難し、現在は、アナスタシアちゃんを保育園に預け、週に5日、イチゴ農園で働いている。

福岡県内に避難しているウクライナ人は、2月7日時点で112人を数える。
支援をサポートする福岡県国際局国際政策課の大堤智子課長補佐は、「避難生活が長くなっていますので、生活支援や家族の教育に関する相談が増えてきています。ウクライナ語による相談体制を整備するなど、ウクライナの人たちが安心して生活できるように引き続き支援を行って参ります」と話す。

相談センターには「新制度を利用して5年間、日本で暮らすことができる『定住者』の在留資格に変更したい」「子どもが進学する年齢になったので、学校や日本語教室について知りたい」など、滞在の長期化に伴う問い合わせが多く寄せられているという。

来日時には3歳だったアナスタシアちゃんも、もう5歳となった。国に残る夫、ヤロスラーブさん(34)が娘に会える日はいつなのか。不安は増すばかりだ。

田川市に避難しているエカテリーナさん:
今、ウクライナはとても厳しい状況にあります。世界ではウクライナへの支援が少なくなってきています。ウクライナ人が生き残るためにみなさんができることをして助けてほしいです

そして最後にエカテリーナさんは、「一番、望んでいるのは平和です…」と口にして、言葉を詰まらせた。

「戻るのが怖い」日本で就職活動

ウクライナから避難している学生を受け入れている福岡・太宰府市の日本経済大学3年生のワレリヤ・リピナさん(21)は、ウクライナの首都、キーウの出身だ。

ワレリヤさんは、ロシアの軍事侵攻を受け2022年3月、「キーウ国立言語大学」から交流協定を結んでいる「日本経済大学」に編入し、寮生活を送っている。
「これが漢字、これが文法とか言葉」と教科書を見せてくれるワレリヤさん。現在、より高いレベルを目指して1日3時間以上、日本語の勉強をしている。

現在、日本で仕事を探すため就活中だというワレリヤさん。「ウクライナで今はまだ戦争があるので、戻るのが怖いです」と語った。

日本経済大学では、これまでに68人の避難者を受け入れ、38人が卒業。2年間で16人が日本の企業に就職、またはこの春、就職予定となっている。
停戦が見通せず、日本での就職を決意する学生もいる中、大きな壁となっているのが日本特有の“就活”や雇用のシステムだ。

日本経済大学 国際部・松崎進一准教授:
ある企業から「ぜひ、ほしい」と言われた避難学生がいました。その企業では2年間、店舗で副店長の立場で働く研修があるんですが、2次面接に行く前に、その学生は「もう選考を辞退したい」と

幹部候補生として社員を育てるため“現場を知る”システムなのだが、避難学生にとって入社早々、立場がある職場での就労に対して抵抗があったようだ。

日本経済大学 国際部・松崎進一准教授:
避難学生のニーズに対応できるような支援をいかにしていくか。さまざまな公的機関とか、企業のご支援をいただきながらクリアしていくべき問題かなと

早く温かい世界に…福岡からの祈り

東京の会社に就職したいと意気込むワレリヤさんだが、その一方で、日に日に家族と会えない寂しさも募る。

日本経済大学3年・ワレリヤさん:
弟はもうすぐ18歳になります。多分、戦争が終わらなかったら戦争に行きます。父もまだ60歳になっていない。彼も戦争に行くかもしれません。怖いです。会いたいです…。将来はどうなるのか全然わかりません。いろんな不安があります

TNC放送会館前の壁画を見に来たというワレリヤさんたち。記念写真を撮るスマホの前では笑顔を見せていた。そして、てぶくろの中のような温かい世界が一日も早く訪れるように福岡から祈り続ける。

(テレビ西日本)

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