官僚からマイナについて怒りのLINEが

先週「政治家や官僚の皆さんは、自分たちがマイナカード使わないなら、国民にあーだこーだ言うのやめてくれないか」という記事を書いた。

「厚労官僚100人のうち5人しかマイナ保険証を使っていない」という朝日新聞の報道に対し、武見敬三厚労相が「国家公務員はもっと頑張らなきゃいけないな」と、のんびり答えたのでムカッとしたのだ。

武見厚労相「国家公務員はもっと頑張らなきゃ」
武見厚労相「国家公務員はもっと頑張らなきゃ」
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翌日、知人の経済省庁官僚A氏から怒りのLINEが来た。彼女はマイナ保険証を使っておらず、それにはちゃんと理由があるというのだ。

霞が関の省庁ではマイナカードが入構証として使われている。(A氏によると強制的に使わされている)。省内ではケースに入れて首から下げ、退庁するとバッグにしまう。保険証は財布の中にいつも入れているので、病院に行くと保険証の方を使っているということだった。

試しに外務官僚B氏に聞いてみたら同じ答えだった。マイナカードは入構証としてしか使わない。病院では財布に入れている保険証を使うと。

霞ヶ関ではマイナカードは入構証になっている
霞ヶ関ではマイナカードは入構証になっている

ホルダーからいちいち外すのは面倒くさいし、名前やマイナンバーが書いてあるのでなくすのも心配ということらしい。

経済官僚A氏は2018年に「今後身分証に使うのでマイナカードを取得せよ」と、上司に言われて区役所に行かされたことを覚えていて、「当時はマイナカードを取得する人が少なかったので、まずは国家公務員に強制的に取らせようという作戦だった」と怒っていた。

東京新聞によると2015年に内閣官房、警察庁、公安調査庁、防衛庁、外務省が連名で、「秘密情報の流出につながる」として国家公務員のマイナカードの入構証化に反対したという。

日本のマイナは安全だがつまらない

だが日本のマイナカードのセキュリティーは非常にレベルが高い。パスワードが付き、さらにカードそのものを持ってないと使えない。最初反対した外務省が今は使っているという事は、安全性はクリアされたのだろう。

米国のマイナンバーはソーシャルセキュリティーナンバー(SSN)と呼ばれ、筆者も30年以上前に発行してもらい、現在も有効だが、ペラペラの紙のカードに番号と名前が書いてあるだけで暗証番号もないし、写真もついていない。

だが銀行口座と税務申告に紐づいているので便利だ。たとえば日本では1人10万円のコロナ給付金を配るのにものすごく時間がかかったし、所得制限もつけられなかった。

日本ではコロナ給付金10万円を配るのに大騒ぎした
日本ではコロナ給付金10万円を配るのに大騒ぎした

一方の米国はSSNが税務申告に紐づいているので、まず年収800万円くらいで所得制限をかけて足切りをし、さらに銀行口座に紐づいているので、すぐに全対象者の口座に振り込んだ。口座を持っていない人には小切手を送り、さらに住所もない人、すなわちホームレスにはソーシャルワーカーが現金を配ったので、あっという間に行き渡った。

アメリカではSSNと税務申告が紐付いていてリアルタイムに売上が把握できる
アメリカではSSNと税務申告が紐付いていてリアルタイムに売上が把握できる

当時、日本では収入が前年より下がった事業者にも支援が行われたが、欧州では多くの国で事業者、お店一軒ごとにマイナンバーが振られ、銀行口座、税務申告に紐づいている。100円のパンを売ってレジで打つと、それはオンラインで税務署につながる。つまり税務署はすべての事業者の売り上げをリアルタイムで把握している。

だからコロナの際には申請なしのプッシュ型で収入の減った事業者の口座に支援金が振り込まれたという。どちらも日本では考えられないことだが、マイナンバー制度というのはこれくらい便利でないとありがたみがなくて、セキュリティーやプライバシーなどの「不安」をカバーできない。

マイナ→スマホで「ピッ」→生体認証

入構証のホルダーから外したマイナカードを持って病院に行き、問診票に名前や住所や病歴を書き、診察券も出す。終わったら歩いて薬局に行き、また問診票に住所と名前と病歴を書き、お薬手帳も出す。便利になるどころか昔に比べて手間がどんどん増えている。だがマイナにしたメリットは感じられない。

日本ではデジタル化の恩恵を感じにくい
日本ではデジタル化の恩恵を感じにくい

もちろん欧米がすべて正しいわけではない。米国では2000年ごろに不法移民によるSSNの大量乗っ取り事件というのが起きた。日本と違って暗証番号がなく、カードそのものがなくてもつかえるためだ。

日本のマイナカードのセキュリティは厳しいから安心だが、厳しさのゆえ使い勝手が悪い部分もある。またプライバシーの保護を叫ぶ人が多く、「紐づけ」が限定的なため、結果的に全く便利ではなくなっている。

経済官僚A氏は「これでデジタル庁からマイナ保険証使えというお達しが来ますが、なくしたら超最悪でムカつきます」とさらに怒っていた。マイナカードをなくしてもセキュリティー上は大丈夫だが、また一から取り直さなければならず面倒なのでA氏の怒りもごもっともだ。

マイナカードの活用は進むのか…
マイナカードの活用は進むのか…

マイナカードの申請率は昨年4月の時点で全国民の76%だが、筆者の正直な感想は今のところ「前より余計な手間が増えただけ」だ。ただマイナのスマホへの搭載が進み、出勤や病院の受付もすべてスマホで「ピッ」とやれば済むのなら利便性は大幅に上がる。

さらにスマホの「ピッ」から生体認証に移行すればもっとラクになる。理論上は乗り物の改札やお店の支払いもすべて顔さえ見せればできるはずだ。そこまで行かないと私たちはデジタルの便利さを実感できないのかもしれない。

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。