WBCでの侍ジャパン世界一奪還と阪神タイガース38年ぶりの日本一に沸いた、2023年のプロ野球。今年も2月1日を皮切りに、12球団が各地でキャンプイン。ファンが待ち望んだこの季節が帰って来た。
その中でも、FA(フリーエージェント)移籍をして注目を集めているのが、広島東洋カープからオリックス・バファローズに移籍した西川龍馬(29)だ。
どこか謎めいたオーラを漂わせながら、カメラの前で語る。
この記事の画像(17枚)「(移籍をして)一歩、踏み出した感じはあります。未知すぎるけど…」
そんな男は打撃も”ミステリアス”。普通なら手を出さないような悪球を、楽々ヒットに。
巧みなバットコントロールで、ワンバウンドの投球もヒットにしてきた“悪球打ち”は西川の代名詞ともなった。
プロ8年目の2023年シーズン。西川は初のベストナインを受賞。打率でもリーグ2位の好成績(.305)を残した。西川は既定の枠組みには収まらない“打撃の職人”だ。
西川の福井・敦賀気比高校時代の先輩で、MLBレッドソックスの吉田正尚(30)は、その打撃センスに太鼓判を押す。
「(西川は)1個下の同級生の中では、頭一つ抜けていた選手。当時はまだ細くて、走らせても速いし、スローイングもバッティングも柔らかさがあって、“センスマン”というイメージがありました」
高い人気と実力を誇り、広島に在籍していれば将来は安泰。しかし去年11月、西川はまさかのFA宣言。未知の荒野へ踏み出した。
移籍先はパ・リーグ。これまで8年を過ごし、実績を残してきたセ・リーグでの経験が通用するかは分からない。
それでも移籍に踏み切ったのはなぜか?
スポーツニュース番組「S-PARK」では、“謎めいたセンスマン”西川に密着。初となる本格的な密着取材で、彼の”真意”が明らかになった。
広島からオリックスへ「まだ実感がない」
今年1月。西川に会うべく、彼が参加している合同自主トレ先、鹿児島県の徳之島へ。
西川は「ようここまで来たなあ、すごいな」と出迎える。奄美群島に属する離島のひとつである徳之島で、彼は2019年から合同自主トレに参加している。
8年を過ごした広島を離れ、今どんな心境なのか。
「まだオリックスに移籍した実感がない。キャンプが始まって、ユニホームを着たら変わると思います」
彼のような「FA移籍」の選手に、ポジションの確約はない。
ゼロからの再スタートを切った西川は、ソフトバンク・近藤健介(30)と共に自主トレを行う。
WBCでは全試合に先発出場し、侍ジャパンの優勝に貢献してきた近藤も、チームの垣根を越えて打撃のアドバイスを西川に送る。
「ここ、こう持っていって…」
“天才”と呼ばれる近藤が、どれだけの努力家か。毎年恒例の合同自主トレで思い知らされてきた西川は、どうすれば自分が頑張れるかを、いつも探し続けている。
プロ3年目の試練「球場に来るのも嫌だった」
西川は、社会人野球を経て、21歳でプロの世界へ。ドラフト会議では内野手として5位指名を受けた。自分よりも上の評価の選手が4人もいる。
西川は自分の「武器」を磨いた。
それが、バッティングだ。
▼西川龍馬 代打成績
2016年(1年目) 27試合 .320
2017年(2年目) 50試合 .341
1年目・2年目は「代打の切り札」として着実な歩みを見せた。
そんな若き打撃職人には、プロらしからぬ”秘密”が。かつての取材で、西川はこう語っていた
「俺、偏食やから。毎日、絶対にコーラとお菓子は食べる」
そんな”変化”を嫌う打撃職人・西川のこだわりは、バットにも。
西川:
(バットが)若干「太いな」とか感じるんですよ。握った感じで、ミリ単位の話なんですけど。ちょっと違うと思ったら絶対に試合では使わないです。なんか(打撃の感覚が)おかしくなったら怖いなと思って。
ディレクター:
今使っているバットを変える予定はない?
西川:
もちろんないです!
職人気質な彼は、違いに敏感だからこそ、”変化”を嫌う。
しかし2018年、プロ3年目で試練は訪れた。サードとしてレギュラー定着目前で、エラーを連発。リーグワーストの17失策を記録してしまう。
西川は、当時についてこう振り返る。
「表には出さないようにしていましたが、内心、毎日めちゃくちゃイライラしていましたよ。球場来るのも嫌だった」
この年、広島のセ・リーグ3連覇がかかった試合。スタメンから外れた西川は、ベンチからリーグ優勝の瞬間を見ていた。
「優勝したから嬉しいんですけど、まあ、素直に喜べなかった。もったいないなというか、悔しさのほうが強かった」
この経験が、西川にとって大きな分岐点となった。
「あの日、試合に出ていたら、また違う感情になってたと思うし、マジック1で(スタメンを)外されたというのも、良かったかもしれないし。今はもうプラスに捉えて、『良かった』と思えるようにしています」
内野手から外野手へ転向「だいぶ楽になった」
「もっとできる」と、自分を焚き付けたプロ3年目のオフ。運命が好転し始める。
そのきっかけは、「外野手」への転向だった。『内野が負担なら外野でどうか』という球団首脳陣の提案に、西川は果敢に挑んだ。
「だいぶ楽になりましたね。大きな違いはそこかな」
もともと肩が強く、足も速い西川。噛み合った歯車は彼を輝かせる。
プロ4年目、西川はレギュラーに昇格し、16本塁打、64打点をマーク。初めて挑んだ外野守備に、野球人としての伸びしろがあった。
すると、変化を嫌っていたはず西川に、こんな動きが。カメラが捉えていた。
「今食べているのは、サラダ、味噌汁」
以前は”偏食”を自認し「好きなものを食べる」と言っていた西川が、バランス重視の食事を摂るようになっていた。
「お菓子やめました。コーラもやめました。タンパク質!(体の調子は)絶好調!」
さらに、こだわり続けたバットも変えた西川。『ヒットにできるなら、ストライクゾーンの外でも打つ』。それが彼の真骨頂であり、生き様。
人の物差しに流されず、自分の決断で生きるのが西川という男だ。
『もっといける』。芽生えた思いが、決断を呼んだ。
FA宣言。広島での安定を手放したのだ。
「さみしい。不安しかない」なぜ西川は広島を離れたのか?
好条件を求めてのFA移籍ではないという西川。では、決断の決め手は何だったのか?
「カープはマジでいい球団なんですよ。でもやっぱり、甘えてしまうんです。僕の中で『これでいいや』って思うのも違うし、そう思ったら『止まる』と思って。だから、あえて全然違うところに飛び込んでみたい。たぶん違う見え方がするだろうし、甘えは通用せんからね。勝負するしかない」
移籍先はオリックス。パ・リーグ3連覇中、黄金時代のチームでポジション争いに挑む。
ディレクター:
FAを発表してから、心境の変化はありましたか?
西川:
さみしい。「おれカープ出るんや」っていうそんな感じだったかな。不安しかないです。8年間カープで自分がやってきたことが通用するのか。それでうまくいけば自信になるし、万が一うまくいかなくても、自分がそこまでやったと思えるし。それを「やらないのは違う」と思ったので、挑戦してみようと思いました。
雨のち晴れの野球人生。
苦しみの後にこそ成長が訪れることを、西川龍馬は知っている。
『S-PARK』スポーツ情報をどこよりも詳しく!
2月10日(土)24時35分から
2月11日(日)23時15分から
フジテレビ系列で放送
11日(土)は、読売ジャイアンツ・坂本勇人を特集。去年9月、プロ17年目にして初めてサードの守備についた坂本。新シーズンに向け始動した彼の肉体や心境の変化を余すことなく届ける。