「ガイコツパンダホヤ」をご存じだろうか?沖縄県の海に生息し、白黒の体に血管が骸骨のように透けて見える生物で、数年前からSNSで話題になっていた。

北海道大学は2月1日、この「ガイコツパンダホヤ」がホヤの新種であることが分かったと学会誌に発表した。

ガイコツパンダホヤは沖縄県久米島に生息することが知られ、体の前端部の白い部分にある3つの黒い斑点模様がジャイアントパンダの顔のようであること、胸部のエラに走る白い血管がガイコツのあばら骨を彷彿とさせることから、この名で呼ばれている。

ガイコツパンダホヤ(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)
ガイコツパンダホヤ(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)
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2017年頃にインターネット上で、そのユニークな外見が紹介されたことをきっかけに当時のTwitter(現X)で人気を博し、テレビ番組などで何度も取り上げられていた。ところが、ガイコツパンダホヤの正体は不明なままだったという。

久米島のダイビングポイントで採集

こうした中、北海道大学大学院理学院博士後期課程3年の長谷川尚弘さんは2021年3月、沖縄県久米島の南に位置する、通称「トンバラ」と呼ばれるダイビングポイントでガイコツパンダホヤを採集することに成功。

久米島およびトンバラの位置(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)
久米島およびトンバラの位置(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)

解剖と系統解析の結果、ガイコツパンダホヤはツツボヤ属(Clavelina)に属する未知の種であることが明らかになった。

そこで、「骨の」を意味するラテン語「ossis」と、「パンダの」を意味する「pandae」を組み合わせて、この種を「Clavelina ossipandae(クラベリナ オシパンダエ)」と名付け、新種として記載した。

ツツボヤ類は日本から10種が報告されており、ガイコツパンダホヤは11種目になる。また、ガイコツパンダホヤは「群体性のホヤ」としている。

この研究成果は2月1日、日本動物分類学会が発行する国際英文誌「Species Diversity」にオンライン公開された。

パンダを彷彿とさせる「白黒模様」、ガイコツを彷彿とさせる「白い血管」には、どんな意味があるのか?また、生態について現時点で分かっていることはあるのか?

北海道大学大学院理学院博士後期課程3年の長谷川尚弘さんに聞いた。

大きさは1~2センチほど

――SNSで話題になっていたことを受け、新種の可能性が高いと思い、2021年に採集した?

私がTwitter(現X)で「ガイコツパンダホヤ」の写真を拝見したのは2018年の秋ごろでした。

その際に、日本産のツツボヤ類のどれとも、見た目、特に色彩が異なることから、日本国内から初めて記録された種であること、また、新種の可能性が高いと、にらんでいました。

2021年での採集に至った経緯は、クラウドファンディングサイトで研究資金を集めたことです。久米島で採集調査を行うために資金が必要でしたので、そのために、クラウドファンディングで集めた資金の一部を使ったということになります。

今回のプレスリリースはクラウドファンディングでご支援くださった方への恩返しの意味も込めて、研究成果を公表したものです。


――「ガイコツパンダホヤ」の大きさは?

1~2センチほどになります。


――「ガイコツパンダホヤ」の生態について、現時点で分かっていることは?

おそらく、サンゴ礁の海の水深20メートル前後に分布するかと思います。また、潮の流れが速いところに生息していると推測しています。

何を食べているかは分かりませんが、一般にホヤ類は海中の植物プランクトンを摂食しているので、そのような食性だと思います。

ガイコツパンダホヤ(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)
ガイコツパンダホヤ(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)

――ガイコツパンダホヤは「群体性のホヤ」ということだが、この特徴は?

「群体性のホヤ」は、無性生殖で増える個虫が集まって、群体を形成するという特徴があります。個虫どうしは、「走根」と呼ばれる組織や血管などで繋がっています。

どのような組織で繋がっているかは種ごとに異なっており、「ガイコツパンダホヤ」は個虫の後端部が走根という組織で繋がっています。


――パンダを彷彿とさせる「白黒模様」、ガイコツを彷彿とさせる「白い血管」は、どんな意味がある?

これは、よく分かっていません。パンダ模様のツツボヤ類は他にも何種か知られておりますが、それらが何のためにパンダ模様になるのか分かりません。

今後も新種のホヤが発見される可能性

――日本で今後、新種のホヤが発見される可能性はある?
  
今後、日本で新種のホヤが発見されると断言できます。2018年に研究室に配属されて以来、現在まで、ホヤ類の採集調査を継続して行ってきました。

この調査によって、すでに新種と思われるホヤ類が複数採集されていまして、それらの研究が進展しましたら、新種を報告していきます。

また、日本は南北に長いうえに、北海道は亜寒帯、沖縄は亜熱帯と、様々な海洋環境を有しています。環境が異なれば、それぞれの場所にユニークなホヤがいるわけです。

特に、ガイコツパンダホヤが見つかった久米島を含む南西諸島は、ホヤ類相(その地域にどのような生物がいるのかを“相”と呼ぶ)調査が、あまりなされていないうえに、サンゴ礁というのは多様な生物が暮らしていることで知られております。


――新種のホヤを発見することは、どのような意味がある?

ある地域にどのような生物が生息するか分からないことには、その地域における生物多様性を調査することができません。

日本の海が豊かであると主張する方もいらっしゃるだろうし、私も豊かであろうと思います。何をもって豊かであるか評価するかという指標の一つとして、そこに生息する種の数などが使われるでしょう。

このような指標は、国や地方自治体の護岸工事などの開発事業が行われる際の政策決定に活かされるべきであろうし、環境保全事業などの根拠としても扱われると思います。

新種が見つかるということは、その地域には生物多様性の調査を行う余地があると言えます。

ガイコツパンダホヤ(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)
ガイコツパンダホヤ(提供:北海道大学大学院理学院博士後期課程3年 長谷川尚弘さん)

ホヤの仲間は全世界で約3000種、日本国内では約300種が知られていて、日本国内のホヤ類の調査は手つかずの場所も多くあるという。「ガイコツパンダホヤ」のようなSNSで人気者になるホヤが、今後、発見されることを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。