7年前に社会を揺るがせた問題の真相に近づくために起こされた裁判の控訴審が、2月7日に始まった。森友学園をめぐる公文書の改ざんを指示され自殺した財務省職員の妻が、文書の開示を求める裁判の控訴審だ。「文書があるかないかも答えない」とする国の主張を崩すことはできるのだろうか。

学校法人「森友学園」に関する公文書の改ざんを指示され、それを苦に自殺した財務省近畿財務局の職員・赤木俊夫さん(当時54)。
大阪地検特捜部は、当時、豊中市の国有地を森友学園に8億円以上値引きして売却した問題と、関連する公文書を改ざんした問題について、財務省や近畿財務局を捜査していた。この捜査の過程では、さまざまな書類やデータが特捜部に任意で提出されていたとみられ、赤木さんの死後に妻の雅子さんのもとを訪れた近畿財務局の上司は、次のように証言している。

近畿財務局の上司の証言:検察に対して文書を提出する際に、赤木さんから相談を受けて、これまでの過去の経緯、東京からどういう指示を受けて、どういう修正があって、前後、きれいにきちんとまとめておられた。それ以外にも例えばデータとかあったとは思うんですけど、普通に隠さず、全部(検察に)出ていますから。
雅子さんは真相を明らかにするため、財務省と近畿財務局に対し、特捜部に提出した文書の開示を求めたが、返ってきたのは「文書があるかないかも答えない」というまさにゼロ回答だった。

雅子さんは裁判を起こしたが、2023年大阪地裁で「文書を公開すれば捜査の手法などが分かる恐れがあり、同じような事件や行政機関が対象となる事件で、将来の捜査に支障が及ぶ恐れもないとは言えない」などと訴えを退けられた。
2月7日、大阪高裁で始まった控訴審。雅子さんの弁護団は、「『原則公開』を前提とする情報公開制度の常識からかけ離れた判断で、明らかに誤りがある」として、一審の判決を破棄するよう主張。 一方、国は「雅子さん側の主張にはいずれも理由がない」として、控訴を棄却することを求めた。
高須賀彦人弁護士:俊夫さんが一体どのように事件に絡んでいたのか、知ることができる最後のチャンスになってしまっている。裁判所はきっちり開示を認める判決を出してほしい。
次回の裁判は、3月27日に行われる。
■取材を続ける記者「雅子さんは『真実を知りたい』というただそれだけ」

森友公文書改ざん問題の裁判を取材している諸岡陽太記者に聞く。赤木俊夫さんが亡くなって3月で6年になるが、妻の雅子さんはどういう思いで戦いを続けているのか?
関西テレビ 諸岡陽太記者:ずっと変わりません。『真実を知りたい』というただそれだけなんです。公文書改ざん問題はいつ、誰が、なぜ、どんな判断で突き進んでしまったのか、それによって夫はなぜ死に追いやられてしまったのか、その真実を知りたいという思いだけで裁判を戦ってこられました。

関西テレビ 諸岡陽太記者:控訴審が始まった文書開示の裁判はどのような狙いがあるのか説明します。これまで文書、言い換えると資料ですが、世の中に出ているものとしては例えば赤木俊夫さん自身が書いた手記が自宅に残っていました。遺書ともいえます。あるいは職場に残されていた『赤木ファイル』といわれるものがあります。赤木さんはとてもマメな方だったみたいで、500ページ以上にわたるもので、改ざんの経緯を細かくまとめたものが職場に残されていました。こういったものが明らかになっていて、詳しく書かれていることはあります。
ただこのファイルは実動部隊である近畿財務局の中にいた赤木俊夫さんが知りうる範囲の情報でしかなくて、その指示の大本である財務省本省の幹部、キャリア官僚たち、佐川氏を含む人たちがどんな風に意思決定をして、指示に至ったのかはほとんど分かっていません。財務省の調査報告書にも具体的な内容はあまり書かれていません。
それを知りたいと思った雅子さんがどのような手法を取ったかというと、当時大阪地検特捜部は、公文書改ざんや土地の値引き問題について捜査していましたので、任意で財務省あるいは近畿財務局もいろんな資料を提出していただろう。その中には、例えばメール、議事録、メモといった具体的な指示内容や、誰から誰にというプロセスが分かるような資料があるかもしれない。これを出してください、というのが今回の裁判で求めていることであり、狙いなんです。
「文書があるかないかも答えられない」と財務省側は答えているという。
関西テレビ 諸岡陽太記者:捜査の支障というのを理由にしています。検察が同じような事件などで、どんな資料をかき集めるのか分かってしまうと、例えば今後事件の証拠隠滅とかに使われてしまうかもしれないし、今回の事件の捜査にも差し障りが出るかもしれない。それを否定しきれないという国の主張を、丸のみするような大阪地裁の一審判決でした。
「newsランナー」コメンテーターの田村淳さんは、「こういう言葉が出てくること自体信じられない」と言う。
田村淳さん:司法の場でこういう言葉が出てくること自体信じられない。雅子さんに僕はお会いしたことがあるんですけど、本当に真実を知りたいだけなんです。『なんで私の夫が亡くならなきゃいけなかったのか、これを知りたいということですら、この国ではかなわないんです』って言葉がすごく残っていて、その雅子さんの思いに対して国はちゃんと答弁していないような気がするんですよね。
関西テレビ 諸岡陽太記者:赤木俊夫さんは国側にとって『仲間』だったわけで、雅子さんは『仲間だったんじゃないの?』と言います。この問題が起きた後に突き放されて、切り離されたような感覚をお持ちです。

佐川元理財局長はしゃべることができないのだろうか。
関西テレビ 諸岡陽太記者:赤木雅子さんは、これまで手紙とかを何度か送られたこともあるそうですが、返事はないそうです。
ジャーナリスト 安藤優子さん:人一人の命が断たれたということは事実なわけだから、それに対してどう向き合うかという姿勢が、根本的に合理性を欠いてると思うんです。資料があるかないかすら言えないと。今後の捜査や今の捜査に支障があるという。それはどう考えても合理性に欠ける、つまり説得力に欠ける。そんな回答を出して、人一人の死に対する向き合いの理由だとは到底言えないと思うんです。それから佐川さんたちの改ざん疑惑が取り上げられた時に、『忖度と』いう言葉が盛んに言われました。じゃあ誰が、何のために、どういう忖度をしたのかっていうのを、もう一度国民の前にきちんと見せるためにも、私はこの裁判はものすごく大切だと思います。
取材を通じて諸岡記者は、この裁判は赤木雅子さん個人の思いだけでなく、社会にとっても大きな意味を持つ裁判だと感じていると言う。
関西テレビ 諸岡陽太記者:実は赤木雅子さんに対して裁判のタイミングごとに取材をお願いしているんですけれども、今日は『ちょっと取材を受ける自信がないわ』とお断りされました。実際、『裁判をやめたい』という言葉を何度も聞いたことがありますし、俊夫さんが亡くなって6年たってますけれども、今もずっと不安定な状態が続いているそうです。
でも裁判を続ける理由は何かというと、俊夫さんについて知りたいということはもちろんですが、もしかしたら同じように苦しんでいる公務員がいるかもしれなくて、再発しないためにこの事件の真実を明らかにしないといけないので裁判を続けるしかないと言っています。
雅子さん本人にとってはもちろんですが、社会にとってもすごく意味のある裁判だと私は感じています。
赤木雅子さんの思いは届くのだろうか。今後の裁判の行方を注意してみていかなければならない。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年2月7日放送)