救命救急の最前線に立つフライトドクター。新潟県は2022年度のドクターヘリ要請件数が全国最多となった。「今や新潟の医療はドクターヘリで患者を搬送することが前提の急性期医療になっている」と医師は語る。救命救急の最前線に立つ医師に話を聞いた。
新潟県には2機のドクターヘリ
新潟ドクターヘリの基地ではこの日、出内主基フライトドクターが出動を待っていた。
この記事の画像(16枚)ドクターヘリは時速240km~250kmの速度で飛ぶため、新潟市から佐渡市まで16分、村上市まで15~16分、長岡市でも15分ほどのスピードで駆けつけることができる。
新潟大学医歯学総合病院を基地として運航している「新潟ドクターヘリ」。下越と2つの離島、中越の一部の田上町・加茂市・三条市をカバーしている。
新潟の西側をカバーするのは長岡赤十字病院が基地の「長岡ドクターヘリ」。
この2つの病院を含めて、上越・中越・魚沼・新潟・下越の医療圏には、それぞれ救命救急の最後の砦「救命救急センター」が設置されている。
これまでなかった県央には、2024年3月にドクターヘリのヘリポートを整備した県央基幹病院が開院する。
「1分1秒でも早く我々を必要としている患者に対し、適切な治療を行って患者が社会復帰できるような手助けができればいい」
15分の間に5件の出動要請
出内主基フライトドクターへの取材を終えた直後に、新発田消防管内から要請が入った。出内医師とフライトナースが素早くドクターヘリに乗り込み、要請から4分ほどで出動。
ドクターヘリは救急現場に医師と看護師を派遣し、いち早く治療を開始する救命救急の最前線だ。
通信センターにはその後も立て続けに出動要請が入る。
「新潟ドクターヘリです。本件は新発田管内急病事案。傷病者は79歳女性。救急隊は13時55分現着…」
要請を受けている最中にも、村上・佐渡などからも急病事案が入る。長岡ドクターヘリからの応援も受け、対応に当たっていた。
新潟大学大学院医歯学総合研究科救命救急医学分野・西山慶教授は「ここを頑張らないと。このためにいるので頑張る。スタッフはすごくトレーニングができている。全然混乱していない」と現状について説明してくれていたところ、再び…「5件目…もう1件、村上から呼ばれた」
わずか15分ほどの間に5件もの出動要請が入った。これだけ一度に要請が来ることも珍しくないという。
「心臓病の方は早く治療したほういいので、最優先でドクターヘリは行く。今、5件目の要請が出たので山形県のドクターヘリの応援要請をかけた」
出動要請件数が“全国最多” その理由は?
2022年度、新潟ドクターヘリの出動要請件数は1927件と全国最多に。長岡ドクターヘリと合わせると日本全体の要請件数の9%ほどを新潟が占める。
なぜ、新潟ではこんなに要請が多いのか。
「巨大な越後平野がすごく豊かで皆さん散らばって住んでいる。逆に言うと、大きい病院、重症・救急患者を診られる病院へのアクセスが悪くなる。それは長年の新潟の課題だったが、こういったイノベーションで新潟では爆発的にドクターヘリの運航が増えている」
「心不全」などの心疾患による救急搬送者数は10年前に比べ、3万人ほど増加していて、今後も高齢化によりドクターヘリの需要が高まることが予想される。
しかし、救命救急センターのある病院にヘリポートのないケースもあり、西山教授は設置の必要性を強く訴えている。
「大変大きな問題。基幹病院にヘリを下ろす場所がないので、ちょっと離れた所に着陸して救急車に乗せてということで10分くらい余計にかかってしまう。それは誰も得をしない。やはり騒音問題がどうしても出る。コンセンサス(合意)に時間がかかっていると聞いている。なんとかご理解をいただけたら」
“ICU集中治療室”の整備も必要
また、ドクターヘリに加えて、整備の必要性を訴えるのはICU集中治療室。
現時点では5つの医療圏にICUのベッドがなく、県内全体でも38床しかないため各医療圏に整備したいと話す。
「すぐに救急外来で初期対応ができて手術のあとはどうするか。集中治療室で集中管理ができる。どんな重症患者でも新潟大学のこのビルに辿りつけば最大のことができる。こういった1つのセンターを新潟県内に4つ、5つと確立していくことが自分のミッションではないかと思っている」
医師の働き方改革導入まであと2カ月と迫る中、急速に医療体制が変化しつつある。
(NST新潟総合テレビ)