1月2日の夜に起きた、JAL機と海上保安庁の航空機の衝突・炎上事故。
FNNは、羽田空港で繰り広げられていた緊迫の消火活動の映像を独自入手。取材で浮かび上がったのは、その“知られざる困難”だった。

事故発生直後 緊迫の交信内容

1月2日午後5時47分、羽田空港C滑走路に着陸したJAL機と、その滑走路上にいた海上保安庁の航空機が衝突する事故が発生。

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東京消防庁でこの時に交わされていた交信記録の内容が、FNNの取材で判明した。
記録によると、最初の交信は事故発生から9分後の午後5時56分だった。

午後5時56分・東京消防庁本部:
東京消防から各局、航空機火災出火報。
JAL516便と海上保安庁の航空機が滑走路上で衝突。航空機出火、乗員乗客は不明

消防本部は、まず近隣の蒲田消防署などに、空港の緊急用ゲートに向かうよう指示。
そして、東京消防庁の車両が到着する前には…

午後5時56分・東京消防庁本部:
CABは第3種(=事故)で対応中

事故現場でまず対応に当たったのが、CAB(国交省航空局)のスタッフだった。

東京航空局 東京空港事務所・成瀬眞之介さん:
事案各地から数分以内には(現場に)着いていたと認識しております。
人命救助優先というところで、旅客の乗っている(機体の)胴体、ここを重点的に冷却をするというのを一番最初に行いました

一方、東京消防庁内では、事故発生から約18分後の午後6時5分、新たな交信が行われていた。

午後6時5分・東京消防庁本部:
航空機火災出場中の各隊、テレビ情報。航空機延焼中ならびに乗員乗客不明なるも、緊急脱出中

テレビのニュースで初めて、旅客機が炎に包まれるという極めて深刻な状況を把握していた。

その後、次々と都内の消防署に出動命令がかかった。

午後6時11分・東京消防庁本部:
下丸子2、下丸子1、大崎2、西六郷A、下丸子A、港南A、品川A、本部機動第3A、富ヶ谷A…

事故発生から30分、羽田空港から約15km離れた渋谷区内の消防署にも出動指令がかかっている。

市民防災研究所・坂口隆夫理事:
現場でも手が回らないときがあるんですね。それを見越して警防本部の方から必要と思われる隊を、特命出場を指令しているというのは、トータル的に見ると非常にスムーズな活動ができていたのではないのかなと思いますね

多くの消防車両が空港へと向かっていた頃、JAL機の乗客は炎に包まれた機体からの脱出という事態に直面していた。

乗客(乗客撮影の映像より):
何か焦げ臭い。何これ火出てる、火出てる

北海道旅行からの帰りに事故に巻き込まれたという乗客は…

乗客:
衝撃を受けて熱を感じたので、窓を見ると炎が出ている感じで、みんな焦っている感じでしたね

CA(乗客撮影の映像より):
荷物を取り出さないでください!

乗客乗員は機内が混乱する中でも、客室乗務員らの誘導を受け、全員脱出することができた。

一方、事故発生から約40分が経った頃、緊急ゲート近くにいた東京消防庁の第一陣部隊が、当時の状況に加え、滑走路内に入ることを報告している。

午後6時28分・鎌田指揮1:
鎌田指揮1から東京消防(本部)。JAL516便は乗員333名、乗客16名、計349名。
なお、505スポットに避難誘導済みとの情報あり。第10緊急ゲート進入開始

呼びかけへの応答がない場面も…
呼びかけへの応答がない場面も…

午後6時42分・東京消防庁本部:
航空機火災出場中の各隊、鎌田大隊長命令。航空機から飛散物が多数、飛散物に注意し走行せよ

午後7時39分・東京消防庁本部:
航空機については、航空機からの保安距離の確保、なお活動部隊は車両を遮蔽物とし、放水にあたれ

消防本部の呼びかけに、現場が応答できない場面もあるなど、一刻を争う消火活動が繰り広げられていた。

水不足…消火活動中の“異変”にどう対処した?

そして午後7時9分、JAL機と衝突し炎上していた海上保安庁の航空機の乗員の状況が明らかにされた。

午後7時9分・鎌田指揮1:
マル1(海保機)、航空機現場で要救助者5名を発見。鎌田大隊長応援要請

「要救助者」とは、挟まれるなどして脱出できない人や、逃げ遅れた人を指す言葉。
機長以外の5人については、その後死亡が確認された。

高さ22mの位置からの放水が可能だという車両
高さ22mの位置からの放水が可能だという車両

約8時間以上燃え続けた事故機。
時間が経過するごとに判明する厳しい状況に、消防隊は異例の事態に直面することとなった。

当時の映像で確認できたのは、長く伸びたアーム状のものから、機体に放水がされる様子。
これは高さ22mの位置からの放水が可能な車両で、石油コンビナートなどの高所や危険物の火災に加え、福島第一原発の作業などでも使われていたという。

“泡状の薬剤”で消火する無人機
“泡状の薬剤”で消火する無人機

さらに、爆発の危険性が高いことから、近づくことのできる無人の放水機も出動。
映像からは、薬剤に水を混ぜた泡状のものを噴射していることがわかる。

市民防災研究所・坂口隆夫理事:
特に航空機火災の場合には(燃料が)油ですから、やっぱり油には泡なんです。要は、泡で燃えているものを抑え込んでしまう

そうした中、要の消火用水に異変が起きていた。

午後7時24分・五反田1:
鎌田大隊長応援要請で10トン水槽2、なおマル2航空機(=JAL機)現場、現在CABと連携し放水中。防火水槽残量低下のため、どうぞ

現場から入ったのは、水槽車の応援要請。
実は、事故のあったC滑走路のすぐ脇には、地下部分に防火水槽が用意されていた。
ただこの時、すでに水槽にためられていた水の多くを使っていて、この先の消火活動に影響が出始めていたのだという。

その後も火の勢いは衰えないまま続いた放水作業。
午後9時過ぎには、新たな出動指令が行われた。

午後9時17分・東京消防庁本部:
東京消防から鎌田指揮1

鎌田指揮1:
鎌田指揮1です、どうぞ

東京消防庁本部:
2本部送水、特命指令済み

鎌田指揮1:
2本部送水、了解

独自入手した映像には、この出動指令の状況が出された後の様子が、克明に映っていた。

運び出される黄色い装置が「水中ポンプ」
運び出される黄色い装置が「水中ポンプ」

多くの消防隊員が向かった先は漆黒の海。海に向かって、黄色い四角い装置が運び出されていく。
波消しブロックの上に立っていた隊員が装置から伸びたホースを、消火現場へと伸ばしていった。

海に向かう消防隊員
海に向かう消防隊員

行っていたのは、海水の汲み上げ作業。
消火用の水が不足してくる中、海の水を使って放水しようと試みていた。

それを可能にしたのは、「スーパーポンパー」と呼ばれる車両だ。
この車両により、懸念されていた消火用の水不足は解消した。

機動救急救援隊員・田初晋太郎さん:
黄色い四角い装置が「水中ポンプ」というものです。
(ポンプを)海や河川の中に投入して大量の水を吸い上げて、別の車に水を大量に送るのがこの車両の役割です

8時間にわたった消火活動 事故原因の解明も進む

そして、日付が変わった1月3日の午前2時過ぎには…

3日午前2時21分・鎌田指揮1:
鎌田指揮1から東京消防

東京消防庁本部:
鎌田指揮1、どうぞ

鎌田指揮1:
鎮火報告、マル2航空機(JAL機)、2時15分鎮火

あわせて115台の消防車両が出動し、8時間にもわたった消火活動。
一方で、事故原因についても解明が進み、見えてきたのは“複数のヒューマンエラー”だ。

海保機は、管制官が伝えた“出発の順番”を意味する「ナンバーワン」を離陸許可と取り違え、滑走路に進入したとみられている。
運輸安全委員会は現在、ボイスレコーダーの解析などを本格的に進めている。
(「イット!」2月2日放送分より)