日本の無人探査機「SLIM」が2024年1月20日、みごと世界で5番目となる月着陸に成功した。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は1月25日に会見を開き、SLIMが、狙った地点から誤差100メートル以内のピンポイント着陸に成功したと発表。月からの「画像」も公開され、映像を見た担当者は「腰を抜かした」と感慨深く語った。

世界で5カ国目の快挙を達成 課題も

2023年9月、無人探査機SLIMは、H2Aロケット47号機で鹿児島・種子島宇宙センターから打ち上げられた。サイズ約3メートル×約2メートル×約2メートル、重さ約700kgの機体は、地球を周回しながら月の重力を利用するなどして軌道を変更し、約4カ月かけて、ついに直線距離で38万km離れた月にたどり着いた。

無人探査機「SLIM」
無人探査機「SLIM」
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月面着陸成功は世界で5カ国目、日本では初めての快挙だったが、管制室では拍手もなく、記者会見でも担当者は浮かない表情だった。その理由についてJAXA・國中均理事は会見で、「太陽電池の発電ができていないという状況が確認されている。現状は電力が発生できていないので、搭載されているバッテリーで運用している」と述べた。

着陸後、何らかの理由で太陽光パネルが太陽の方向を向かず、発電ができない状態になっていたのだ。

SLIMは内蔵バッテリーでは数時間しか駆動できないことから、國中理事は「かなり辛口コメントをせざるを得ない立場なので」としたうえで「ギリギリ合格の60点としたい」とコメントしていた。

実はSLIMは月面着陸時、2つのエンジンのうち1つが何らかの理由で脱落し、想定と異なる着陸姿勢となってしまった。そのため太陽光パネルが太陽の方向を向かず、着陸時に発電ができなくなっていた。

JAXAによると、SLIMは着陸から約2時間半後、復旧時に再起動できなくなる事態を避けるため、いったん電源を停止した。

「ほぼ完璧」ピンポイント着陸に成功

しかしSLIMは、内蔵バッテリーで駆動する短い時間に地上にデータを送信していた。着陸から5日後、JAXAは会見で「狙った地点から誤差100メートル以内のピンポイント着陸に成功した」と発表した。

これまで各国が成功させてきた月着陸は、狙った地点から誤差数km~数十kmだったが、SLIMは「狙った地点からわずか55メートル」の地点に着陸。しかも「高度50メートル付近までは、誤差たった3メートルという、ほぼ完璧な状態だった」と担当者は話した。

この日の会見では、SLIMの着陸直前に分離されたロボット「LEV-2」が撮影した実際の画像が公開された。生々しい月面の画像。そこに着陸したSLIMの姿を見事にとらえていた。

「LEV-2」が撮影した月面画像
「LEV-2」が撮影した月面画像

宇宙科学研究所・SLIMプロジェクトの坂井真一郎プロジェクトマネージャは「すごいですよね!自分たちのつくった衛星が本当に月に行き、隣にいるロボットが画像を撮ってくれたと思うと、あの画像を見た瞬間、私は腰が抜けそうになったんですが、それくらいすごいインパクトを受けた」と興奮気味に語った。

坂井プロジェクトマネージャは、さらに「正直なところ、よくあの形でとどまってくれた。太陽電池パネルが完全に地面を向いてしまっていれば、そこに太陽が当たる可能性はほとんどなくなってしまうので、今まで誰もなかったことを実現し、『降りられるところに降りる』のではなく『降りたいところに降りる』ことができると実証した。いろんな意味で新しい扉が開き、今後、これまでできなかったようなミッションができるようになるのでは。そこが一番の意義ではないか」とコメントした。

SLIMと通信再開 岩石を観測

想定と異なる姿勢で着陸したSLIMだが、太陽の当たり方次第では、発電が再開される可能性もあるとみて、担当者は復旧に向けて準備を進めていた。

SLIMが撮影した「トイプードル」
SLIMが撮影した「トイプードル」

そして、JAXAによると1月28日午後8時ごろからSLIMと通信ができるようになり、運用が再開された。復活したSLIMは、周囲にある「トイプードル」と名付けた岩石の観測を実施した。

月の昼間の時間にあたる1月いっぱいは、引き続き通信を試み、周囲の岩石の観測などを行い、月誕生の謎の解明につながる手掛かりを得たいとしている。今後の観測の成果が楽しみだ。

(鹿児島テレビ)

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