仙台市青葉区に整備が進む、次世代放射光施設「ナノテラス」。

 物のナノレベルでの観察を可能にし、その特徴から「巨大な顕微鏡」とも呼ばれているほか、放射光施設としては世界で初めて、地域や企業と連携する制度も導入した。いよいよ今年4月から運用が始まり、目指すのは「世界一のイノベーションの地」だ。

太陽光の“10億倍”  ナノレベルでの観察を

 仙台市の東北大学青葉山新キャンパスに整備中の、次世代放射光施設・ナノテラス。太陽光の10億倍明るい放射光を生み出し、物を原子や分子の大きさ、ナノレベルでの観察を可能にする。

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 これまで見えていなかった物の構造が分子レベルで鮮明に見えることで、病気の原因解明や創薬、半導体、食品、材料の開発など、さまざま分野での活躍が期待されている。国内では2月2日現在、9つの放射光施設が稼働中だが、ナノテラスは、高精細で大量のデータを高速に測定できるため、より細かい分析ができるだけでなく、これまで一日かけて分析していたものが、数分で済む可能性もあるという。

「巨大な顕微鏡」その特徴は…

 その特徴から「巨大な顕微鏡」とも呼ばれるナノテラス。施設内は、主に3つの部分に分けられる。

 一つ目は、電子を加速させる「加速器」寸分のずれも無く一直線に並ぶ直線加速器で作り出した電子が、光の速さまで一気に加速され、約100メートルある直線の管の中を通っていく。

 二つ目は、電子を周回させながら磁力で電子と放射光を切り離す「蓄積リング」ここで放射光が生み出される。

 そして三つ目は、取り出した放射光を観察対象にあてる「ビームライン」スタジアムのような広々とした実験ホールで、壁の内部の加速器からパイプを伝って28本の放射光を取り出し、その先の実験室で、ユーザーは見たい素材に合わせて光の種類を調整する。

実験ホール
実験ホール

 ナノテラスが得意とするのは、生物や食品など柔らかい素材や、物の表面を見ること。光の性質によって得意不得意な部分はあるが、大概のものはここで中身を調べることができるという。

地域や企業とも連携 研究だけでない価値を

 ナノテラスは、これまでに200以上の大学や企業が利用を検討していて、大企業だけでなく、中小企業も60社ほど含まれている。

 また、放射光施設としては世界で初めて、産業界と地域、大学と経済団体が共同で運営する「官民地域パートナーシップ制度」が導入されたほか、産学連携の「コアリション」という仕組みも新たに創られた。この制度を活用することで、放射光の利用経験がない企業でも専門家から放射光を使った実験などのサポートを受けることができたり、企業の課題に一緒に取り組んでくれる研究者とのマッチングもできるという。

 ナノテラスが立地する東北大学も連携する団体の一つで、近くに国内外の企業や大学の研究者、学生が集まり、研究などができる「サイエンスパーク」を建設する予定。ここでは、研究開発だけでなく、人材育成をすることも目指しているという。

東北大学が建設中のサイエンスパーク
東北大学が建設中のサイエンスパーク

 さらに、ナノテラスが立地する仙台市は、仙台発の産業創出や商品開発を後押ししようと、2023年12月から「ナノテラスシェアリング2000」という活用促進策をスタート。仙台市が利用権を取得した33年度までの10年間、各年度2000時間の利用権を利用することができるという。本来、ナノテラスは1口5000万円を運営主体に支払うことで、10年間(年200時間)利用できるが、この制度を利用することで、1時間あたり3万9900円と中小企業でも時間単位で利用できる。対象は国内に事業所や工場を置く法人だが、利用できる時間には傾斜を設け、東北・新潟の地元企業がより多くの時間利用できるようになっている。仙台市は「会社のイノベーションや商品の高付加価値化に利用してほしい」と呼びかけている。

仙台市のホームページより
仙台市のホームページより

経済効果"1兆9000億円" 世界一のイノベーションの地に

G7科学技術大臣会合の様子(2023年5月)
G7科学技術大臣会合の様子(2023年5月)

 ナノテラスは世界からも注目されている。去年5月に仙台で開かれた「G7科学技術大臣会合」では、先進国の閣僚がこの実験ホールを視察し、クリーンエネルギーなどさまざまな分野でナノテラスを利用できることが説明された。

 完成すれば、世界中から研究者が集まるこの場所は、東北経済連合会によると、10年間の経済効果が"1兆9000億円"と試算されている。

光科学イノベーションセンター・高田昌樹理事長
光科学イノベーションセンター・高田昌樹理事長

 企業や地域と連携する団体で、ナノテラス建設の企画段階から携わった、光科学イノベーションセンターの高田昌樹理事長は「震災が起こった時に全国から支援をいただいた。この場所からイノベーションを起こし日本を変えていくことで、その恩返しを始める。ナノテラスの国産化率はほぼ100%に近く、日本が積み上げてきた加速器の研究開発の成果の結集がここに詰まっているため、この世界一の施設を運用していくことで、仙台を世界一のイノベーションの地にしていきたい」と話し、ナノテラスが東北にできた意義を強く感じている。

「ファーストビーム」の様子
「ファーストビーム」の様子

 本格運用を前に、2023年12月には「放射光」を実験施設に初めて供給する「ファーストビーム」が成功し、大きな節目を迎えた。

 宮城・世界を明るく照らす希望の光。2024年4月、次世代を担うイノベーションがいよいよ始まる。

(仙台放送)

仙台放送
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