岸田首相が岸田派解散を宣言し、安倍派・二階派も解散を決めた。一方、麻生派・茂木派が解散に踏み切る動きはない。自民党の派閥は今後どうなるのか。「BSフジLIVEプライムニュース」では、岸田派事務総長代行の小野寺五典元防衛相と田﨑史郎氏・久江雅彦氏を迎え検証した。
岸田派解散の表明は安倍派に先んじる必要があった
新美有加キャスター:
宏池会(岸田派)は、2022年までの3年間で約3000万円の虚偽記載された収入額があったと認定され、元会計責任者が1月19日に略式起訴された。岸田総理が前日の18日に解散の検討を表明し、翌日に解散を明言。小野寺さんはどのように知ったか。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
私も宏池会であり、会計責任者の略式起訴に関し本当に申し訳なく思っている。岸田総理自身が改革の先頭に立つ中で大変重く受け止め判断したと思う。要請があり総理の執務室に行くと、総理と林芳正座長がいた。宏池会を抜けた総理が解散を決めるのはおかしいという声もあるが、今の宏池会を預かる林座長も同じ気持ち。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
18日朝の朝日新聞で岸田派が立件されると報じられ急に動き出した。周囲の意見は「刷新本部で中間取りまとめが出てから」だったが、ないと考えていた岸田派立件の話が出て繰り上げたのでは。
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
おそらく報道以前にどう決着するかわかっていた。会計責任者が供述調書に署名するとき、阿吽の呼吸で大体わかる。宏池会の会計責任者は15〜17日あたりに署名しており、岸田さんの耳に入ったはず。そこで安倍派の緊急議員総会と記者会見の日程を懸命に探った。安倍派の若手から解散論が出るとわかっており、早ければ安倍派は19日に解散を決めるかもしれない。二番煎じでは何の意味もないから18日しかなかった。
新美有加キャスター:
主要派閥解散の動きを受けた世論調査。FNNの調査結果では、岸田内閣の支持率は前回比5.1ポイント増の27.6%。不支持は5.5ポイント減の66.4%。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
大枠では12月と比べ横ばい。だが年末年始から自民党批判が相当高まった中で、解散を発表しなければもっと落ちていたのでは。
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
世論調査では、政治資金規正法の改正や派閥の解散にはけっこう肯定的。だが、それが支持率に影響していない。岸田さん自身が評価されない状態。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
派閥の解散は評価してもらったと思うが、政治刷新本部は全然評価しないという数字が出ており、相殺されたのだなと。もし解散の発言がなければ、もっとひどかったと思う。
議員辞職して国民の審判を受けるべきなのは誰か
反町理キャスター:
自民党の自浄能力・自律の話。党紀委員会などが根拠とするルールは党の政治改革大綱か。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
過去の処罰についての積み上げがあり、おそらくそれに諮って判断する。ただその前提は、自民党自身がしっかり調査し明らかにすること。それで初めて、党としての政治責任のとり方、処分の話となる。
反町理キャスター:
刷新本部で党としての処分の話も出ていると聞くが、その根拠が23年前の政治改革大綱なら、そこには「総裁、副総裁、幹事長(中略)は在任中派閥を離脱する」とある。麻生太郎さんは副総裁、茂木敏充さんも幹事長だが派閥をやっている。自民党全体が負うべき咎があるのでは。政治改革大綱をもう一度守ろうという議論になるか。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
なりそうだと思うし、ならなければいけない。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
リクルート事件時のことを考えれば、今回も役職停止処分を受ける議員が何人か出るのでは。
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
半年や数カ月の党員資格停止? 役職停止? 痛くも痒くもない。政治家の倫理・責任として、それなりの額が問題となった人は議員を辞め、再び国民の審判を仰ぐのが本当のみそぎ。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍派の動きでダメなのは、誰も責任をとっていない点。塩谷立座長が謝罪したが、議員辞職しなければいけない。国民の説得が全くできていない。
金も人事権もなくなっても派閥を残したい茂木派・麻生派
新美有加キャスター:
刑事処分の対象にならなかった麻生派と茂木派は、麻生副総裁と茂木幹事長が派閥存続の意思を岸田総理に伝えたが。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
現時点で存続の方針を固めているが、今後は世の中の空気次第の部分もある。
新美有加キャスター:
1月22日の政治刷新本部で示された、中間取りまとめに向けた論点のポイントには「政策集団の政治資金パーティー禁止」「人事の推薦廃止」などが示された。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
政治資金規正法上、派閥は政策研究団体として認められた団体で、法的にはパーティーなどを開ける。解散しない派閥を政策研究団体として認めるかどうかは分岐点になるのでは。
反町理キャスター:
政治団体機能を取り上げることになると、派閥は議連とほとんど同じで、会費を払って政策議論をする集団になる。人事のリストを提示することもなくなる。大手術だと思うが。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
事実上の派閥解散と同じ。もう一点検討すべき案件が選挙時の公認。誰を公認するか、また比例代表の記載順には派閥による大きな影響がある。これも規制すれば、「政策集団でない派閥」の力はどんどん削がれていく。
反町理キャスター:
茂木派や麻生派は「政治団体機能」「選挙の公認権」「党・内閣の人事権」を全部なくしたときに派閥を維持できるか。
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
麻生派と茂木派は自分たちのかたまりを残しておきたい。政治資金パーティーは禁止されてもセミナーなどの方式でお金を集められるがどうするか。今、まさにその攻防をやっている。
無派閥議員の数が膨れ上がる自民党は、執行部中心の運営に変化する
新美有加キャスター:
福田達夫元総務会長が「政治は国民の信頼がなければ動けないという原点に戻った上で、新しいガバナンスの形を作っていくことが大事だ」と明かした。「無派閥情報交換会」などが発足する動きもある。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
政策議論をする仲間は必要。厳しい指摘があり派閥を解散した中、それをどう作るか皆が模索していると思う。
反町理キャスター:
総選挙や総裁選、人事もある限り派閥は消えないのでは。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
政策主体のグループはその都度できていい。ある人を政策的に応援して総理にしたいというとき、従来のしがらみが薄れた形で応援に入れる。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
3派が正式に解散すれば自民党の7割が無派閥議員になる。そこに党のガバナンスを発揮し、声を吸収していく回路を作らなければならない。福田達夫さんが言うのはそれ。今後、党の幹事長室が果たす役割が非常に大きくなると思う。副幹事長がそれぞれ20~30人の議員を担当し、連絡役になるイメージ。
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
無派閥の中から「この人を総理にしたい」というグループはできるだろう。あるいは外交・防衛に力を入れたいというグループも。自民党はイデオロギー政党ではなく一般社会の様々な人が集まっているから、その中でグループができて切磋琢磨をしていくことがなければならない。その先で執行部中心の党運営になるのは必然。そこで権限が集中することのリスクをどう回避するか。
総裁選に向け「麻生氏がキーマン」の派閥政治はなおも続く
新美有加キャスター:
1月26日には通常国会が召集。6月の会期末後は9月末までの間に自民党総裁選が控える。今年、衆院解散総選挙の可能性は。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
高いと思うが、新しい総理総裁のもとでというパターンでは。
反町理キャスター:
支持率が低い中で総裁が辞め、新総裁を選ぶ総裁選のご祝儀相場が高いうちに解散して260議席を取る。数回繰り返されてきた自民党のゴールデンパターン。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
自民党は組織としては弱っており、総裁選でかなり盛り上げなければ衆院選を戦えないのでは。今後の大きな支持率回復が難しい現在、起こったことを全部背負って岸田さんが退き、新しい人で総裁選を戦い、勝った人が解散を打つパターンの方が勝利に近いだろう。
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
派閥の解散は起死回生の最後のカードだったと思うが、支持率は横ばい。支持率を戻すのはかなりきつい。どこかの段階で次に託すように射程を変えること。
小野寺五典 岸田派事務総長代行:
宏池会の解散は、私にとっては起死回生というより、やはり「ああいう不祥事があったので」ということだと思う。まずは政治改革の積み上げを行い、評価いただくしかない。
反町理キャスター:
政治改革の積み上げとなれば、茂木さんや麻生さんが嫌がることもやらねばならない。岸田さんにはこれまでとは違う一定の緊張感が要るのでは。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
その意味で、1月21日の岸田さんと麻生さんの会談は極めて重要。茂木さんとはかなり険悪だが、麻生さんを取り込むことには成功した感じがする。茂木さんも麻生さんの協力なしに戦えない。だが、麻生さんは当面岸田さんを支えるが、総裁選での再選支持とは一切言っていない。場合によっては茂木さんを担いだり、別の勝ちそうな人に乗れる。キーマンは麻生さん、という政治状況。
反町理キャスター:
なるほど。立派な派閥政治ですよね。
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
はい。
(「BSフジLIVEプライムニュース」1月22日放送)