新型コロナウイルス感染防止の取り組みとして、時差出勤やリモートワークを行いやすくするため、「フレックスタイム制」を導入した企業は多かった。中には、コアタイムを廃止し、より柔軟に働けるように制度を整えたところもあったようだ。

4月から5月にかけての緊急事態宣言を機に、「社員全員が同時間帯に働く」というルールの必要性が問われ始めている。果たして、企業における「定時」は今後どう変化していくだろうか。企業の取り組みを追いながら、これからの「定時」の在り方について考えた。

時間の制約を取り払った制度が登場

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食品宅配を行っているオイシックス・ラ・大地では、小中高校の一斉休校が要請される前の2月には、「スーパー時差通勤」「細切れリモートワーク」という制度を導入。現在も、制度は実施されているという。

「スーパー時差通勤」とは、何時に出社してもいいという制度。これまでは原則9時30分出社で、11時までであれば時差出勤も可能だったが、時間の制約を完全に取り払ったのだ。

もう1つの「細切れリモートワーク」は、リモートワークの際、1日の勤務時間を満たしさえすれば細切れで仕事ができる制度。1日8時間勤務の人であれば、午前に3時間、昼過ぎに2時間半働き、夕方は子どもの面倒を見て、夜2時間半働くといったことができる。

「当社は、育児や介護に直面している社員が多いことに加え、災害時であっても食品の宅配事業を止めない体制を整えたいという思いもあったので、時差出勤やリモートワークは以前から導入していました。コロナ禍においては、『通勤混雑を避けたい』『一斉休校で子どもの面倒も見なきゃいけない』という社員が増えることを想定し、『スーパー時差通勤』『細切れリモートワーク』を取り入れました」(オイシックス・ラ・大地 HR本部人事サービス室室長 北週作さん)

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人事サービス室の読み通り、子育て世帯では「細切れリモートワーク」の利用が多かったそう。また、想定外の使い方をする社員もいたのだとか。

「『スーパー時差通勤』で、出勤時間を遅らせる人が多いと思っていたのですが、早朝から働いて早めに退社する人もいます。リモートワークでも、子どもが寝ている早朝から仕事を始める人がいました。今も制度は続けていますが、利用している人は本来の出社時間の9時30分より早く出社している人の方が多い印象ですね」(北さん)

今回の取り組みを通じて、新たな働き方も見えてきているという。

「もともと時短勤務だった社員から『通勤時間が減った分、もっと働きたい』という要望がありました。そこで、リモートワークの日は従来の勤務時間に戻し、出社する日は時短勤務にするといった、柔軟に対応できる制度を組み立てているところです。中には定時が必要な部署もありますが、当社全体としては定時という概念がなくなりつつあると思いますね」(北さん)

コアタイム撤廃で「早めに帰宅する日の罪悪感」も撤廃

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モバイルゲームサービスの開発・運営を行うコロプラでは、2月の時点で有事の緊急措置として「スーパーフレックス勤務」が導入された。

これまでもフレックスタイム制は存在し、8時~10時30分の間に出社、15時30分~22時の間に退社、コアタイム(勤務必須時間帯)が10時30分~15時30分と定義されていた。しかし、2月以降は、勤務できる時間帯を6時~22時に拡大し、コアタイムをなくしたのだ。

「社員の健康を守りながら、事業を継続させるために工夫することが企業の責任だと考え、『スーパーフレックス勤務』にたどり着きました。また、1月末からは妊娠中の社員や持病がある社員の在宅勤務は認めていたのですが、緊急事態宣言が発令された4月には、全社員が就業場所を自宅と会社から自由に選べる『スーパーフリーアドレス勤務』も導入しました」(コロプラ取締役CFO兼CHRO 原井義昭さん)

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社員からのリアクションは好評で、特に子育てをしている人から「仕事が進めやすくなった」との声が上がっているそう。新たな制度によって業務に支障が出る、といったこともないようだ。

「制度がうまくいった理由は、全社で導入する前に小規模で行ったテストにあると思います。例えば、在宅勤務は2月頃に1つのチームで試して、課題を洗い出し、対策を考えた上で『スーパーフリーアドレス勤務』として取り入れました」(原井さん)

現在「スーパーフリーアドレス勤務」はストップし、新たに「フレキシブルワークスタイル制度」を導入。1カ月ごとに出社率を定め、部署ごとにメンバーのワークスタイル(出社または在宅)を決めるというもの。企業側が出社率をコントロールすることで、社員の安全を確保しつつ、社会経済活動を戻すという狙いから考えられた制度とのこと。出社する社員に対しては、「スーパーフレックス勤務」を継続しているという。

「『スーパーフレックス勤務』を導入し、朝6時からの出勤が可能になったことで、早く出社して退社する人が増えました。明確な定時をなくしたことで、早く帰る時に罪悪感がなくなったというメリットもあるようです。コアタイムを撤廃しても、コアタイムだった時間帯にはほとんどの社員が揃っている、という気づきもありました」(原井さん)

「定時」がなくなることで求められる「成果」「効率」

「コロナ禍を経験したことで、『定時』という概念は薄れていくでしょうね。そもそも企業とは、人を一定時間働かせる組織ではなく、利益を出す組織。同じ人員を8時間働かせた場合と5時間働かせた場合で、同じ利益が出るのであれば、定時にこだわらなくていいはずです。企業は、本来あるべき姿になっていくのだと思います」

そう話すのは、数々の企業でコンサルティングを行う理央周さん。本来、企業にとって重要なことは利益や成果であり、定時という規則ではない。今回の緊急事態宣言などは、そのことに気づかされるきっかけにもなったといえる。

理央周さん

「リモートワークやフレックスなどの制度が残り、定時を廃止する場合、成果を上げられるかどうかが、社員を評価する軸になります。そこで企業には、数量的な生産性だけでなく質的な生産性を評価できるか?という課題が出てくるのです」(理央さん)

数量的な生産性とは、売上や達成に至るまでの時間など、数値で表せるもの。一方、質的な生産性とは、成果物のクオリティや時間の有意義な使い方など、単純な数値では表せない部分だ。

「企業には、質を見える化する仕組み作りが迫られると思います。例えば、社員1人ひとりに業務レポートを提出させ、成功事例を全社で共有するなど。そして、従業員には、自分の行動や工夫がいかに企業の利益や生産性向上につながるか、説明する力が求められるでしょう」(理央さん)

定時の有無が働き方だけでなく、人事考課などにも影響するのであれば、働き手としては気を引き締めなければいけないかもしれない。ただし、理央さん曰く、「全業種で定時がなくなるとはいえない」とのことだ。

「顧客に直接対応する接客業、24時間稼働している工場に勤務する製造業においては、定時が必要です。人は24時間働き続けられるわけではないので、時間での管理が必要な仕事もあります。定時が必要な仕事と必要ない仕事、2つに分かれていくことになるでしょうね」(理央さん)

業種によって異なるとはいえ、社会全体としては薄れつつある「定時」という概念。ライフスタイルに合わせて柔軟に働けるようになる反面、より効率や成果を求められる可能性もある。こうしたことから今後は、働く時間を自分で管理することが求められるのかもしれない。

理央周
本名、児玉洋典。マーケティング アイズ株式会社代表取締役、一般社団法人最適経営学践協会代表理事、関西学院大学経営戦略研究科教授も務める。大手製造業勤務などを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBA取得。アマゾンジャパン、マスターカードなどでマーケティングに従事した後、2009年に起業し、コンサルティングと社員研修を提供。2018年より、リーダー育成塾LBTを始業する。著書は『サボる時間術』『「なぜか売れる」の公式』など多数。

マーケティング アイズ
https://www.businessjin.com/

オイシックス・ラ・大地
https://www.oisixradaichi.co.jp/

コロプラ
https://colopl.co.jp/index.php

取材・文=有竹亮介(verb)