新春恒例の宮中行事、「歌会始の儀」が19日皇居・宮殿で行われ、天皇皇后両陛下や長女の愛子さまなどの和歌が詠み上げられた。
交流の温かさや家族の絆、古典文学への思い。三十一文字に託された思いとは。
お題は「和」 4年ぶりにマスクやアクリル板無しで開催
「歌会始の儀」は、陛下が主催される宮中行事。
この記事の画像(19枚)宮殿・松の間で4年ぶりにマスクやアクリル板の無い形で行われ、秋篠宮ご夫妻や次女の佳子さまなど皇族方も出席された。
今年のお題は「和」で、およそ1万5千首の応募から選ばれた今回最年少の新潟市の高校2年生、神田日陽里さんら10人の歌が、古式ゆかしい節回しで詠みあげられた。
皇后さまの和歌は「愛子さま」の作文への感慨
皇后さまが和歌に詠まれたのは、愛子さまの作文だ。
愛子さまは中学3年生の修学旅行で広島を訪れ、平和の大切さを肌で感じた経験を卒業文集の作文「世界の平和を願って」にしたためられた。
原爆ドームなどを訪れたことが「『平和とは何か』ということを考える原点」だったと振り返り、平和への切なる願いが真っすぐな表現で記されている。
「原爆ドームを目の前にした私は、突然足が動かなくなった。まるで、七十一年前の八月六日、その日その場に自分がいるように思えた」「日常の生活の一つひとつ、他の人からの親切一つひとつに感謝し、他の人を思いやるところから『平和』は始まるのではないだろうか」「『平和』は人任せにするのではなく、一人ひとりの思いや責任ある行動で築き上げていくもの」「そう遠くない将来に、核兵器のない世の中が実現し、広島の『平和の灯』が消されることを心から願っている」(一部抜粋)
宮内庁が卒業にあたり公表したこの作文は、大きな反響を呼んだ。
両陛下は2020年の夏、国連本部事務次長の中満泉さんと面会し、核軍縮や被ばく者の記憶の継承などについて話を聞かれた際、この作文のコピーを中満さんに渡されている。
日頃からご家族で平和の尊さへの思いを共にする両陛下にとって、この作文が感慨深いものだったことを示すエピソードだ。
今回皇后さまは、娘の作文に心動かされたことを詠まれた。側近によると、この作文について公に触れるのは今回が初めて。
オフホワイトのロングドレス姿の皇后さまは立ち上がり、穏やかな表情でご自身の和歌に耳を傾けられていた。
『広島をはじめて訪(と)ひて平和への深き念(おも)ひを吾子(あこ)は綴れり』
陛下は各地での交流を和歌に
儀式の最後に陛下の和歌が3回詠み上げられた。
皇太子時代から全ての都道府県を訪問されている陛下。
2023年は新型コロナの分類が変わり、皇后さまと共にオンラインではなく、実際に各地に足を運ぶ機会が増えた。
「皆さんと直に会ってお話ができるようになったことは、私たちにとっても、とても嬉しいことでした」(2023年2月記者会見より)というおことばからも、交流の機会を大切にされる思いが伝わってくる。
今回の和歌に、陛下は訪問先で多くの人々の笑顔に接した喜びや心が和んだことを表現された。
『をちこちの旅路に会へる人びとの笑顔を見れば心和みぬ』
儀式では実際に詠み上げられない皇族方の和歌のうち、何首かをご紹介する。
愛子さまが詠まれた「和歌」に感銘する心
大学で古典文学を学び、「中世の和歌」についてまとめた卒業論文を提出された愛子さま。
学業のため出席を控えられたが、今回寄せられた和歌のテーマはまさしく「和歌」への思い。
平安時代の和歌が、数多の戦乱や衰退期を乗り越え、千年の時を経て現代に受け継がれ、自らの心に響くことへの感銘を詠まれた。
『幾年(いくとせ)の難き時代を乗り越えて和歌のことばは我に響きぬ』
幼い頃から両陛下と共に百人一首に親しまれていた愛子さま。当時は五七五七七のリズムや音の響きを純粋に楽しまれていた。その後中学生になると、学校の百人一首大会で数十枚の札を取り圧勝される腕前に。
成長と共に、徐々に歌の背景や意味合いを理解し、和歌の魅力に心惹かれていったのだろう。
大学では日本語日本文学科に進み、卒論のテーマに選ぶほど中世の和歌について深く学ばれた。ことばの響きに心動かされている愛子さまのお姿が浮かんでくる。
紅葉を愛でる喜び 佳子さまの和歌
秋篠宮家の次女・佳子さまは、毎年紅葉を楽しみに待ちわびられているという。
2023年は12月の初旬の小春日和の日に、青空の下、色鮮やかな木々の葉が風に揺られて美しく見えた情景を詠まれた。
赤坂御用地で誕生日用の映像を撮影されたのは、ちょうどその頃。
姉の小室眞子さんも着用していた浅葱色の振り袖姿で色づいた葉を見上げられていたお姿が重なる和歌ともいえる。
『待ちわびし木々の色づき赤も黄も小春日和の風にゆらるる』
常陸宮さまの退院への安堵 華子さまの和歌
常陸宮妃華子さまは88歳の米寿を迎えた常陸宮さまが2023年、尿管結石や新型コロナ感染などで入院された時の思いを詠まれた。
きめ細かに常陸宮さまの体調を気遣いながら、穏やかな日常を送られている華子さま。
かつては「常磐松御殿」とも呼ばれていたお住まいで、愛犬のミニチュアダックスフント「福姫」と共に病状を案じながら過ごされた日々。
常陸宮さまが無事に戻られ、心底安堵されたお気持ちがひしひしと伝わってくる。
『わが君が退院されて常磐松明るくなりぬ心も和む』
交流の温かさや家族の絆、日本の伝統文化への思い。
三十一文字からは、それぞれの方のお姿や表情なども浮かびあがり、お心持ちも伝わってくる。
来年のお題は「夢」で、19日から9月末まで受け付けられる。
千年の時を超えて令和の時代に受け継がれる和歌の世界。一度応募してみてはいかがだろうか。
【執筆 宮内庁クラブキャップ兼解説委員 宮﨑千歳】