新春恒例の宮中行事、「歌会始の儀」。天皇皇后両陛下や愛子さまが寄せられた和歌には、未来を担う子どもたちへの温かいまなざしや若き日の志、人生の節目に抱いた友への思いが三十一文字に表されていました。
陛下が選ばれた「夢」
「歌会始の儀」は新春の宮中行事を締めくくる伝統の儀式。

陛下が選ばれた今年のお題は「夢」で、1万6000首を超える応募から入選した10人などの和歌が、天皇皇后両陛下や愛子さま、秋篠宮ご夫妻や佳子さまなど、皇族方の前で詠み上げられました。
愛子さまは成年皇族となって以降、毎年和歌を寄せてこられましたが、去年までは学業優先だったため今回が初出席。

淡い杏色のロングドレス姿で、身じろぎせず、古式ゆかしい節回しにじっと耳を傾けられていました。
愛子さまは友への思い 和歌の響きを初めて儀式で
儀式では、両陛下、秋篠宮ご夫妻、そして代表皇族1名の和歌が披露されます。
今回の代表は久子さまだったため、愛子さまの和歌は披露されませんでしたが、去年の春に大学卒業の節目を迎え、これからはそれぞれの夢に向かって歩んでいく、共に過ごしてきた友人達への思いを込めた和歌を寄せられました。

『我が友とふたたび会はむその日まで追ひかけてゆくそれぞれの夢』
(読み:わがともとふたたびあわむそのひまでおいかけてゆくそれぞれのゆめ)
大学で古典文学を学び、「中世の和歌」についてまとめた卒業論文を提出された愛子さま。
去年の歌会始には、平安時代の和歌が千年の時を経て現代に受け継がれていることへの感銘を詠まれました。
『幾年(いくとせ)の難き時代を乗り越えて和歌のことばは我に響きぬ』
(読み仮名:いくとせのかたきじだいをのりこえて わかのことばはわれにひびきぬ)

和歌の「ことば」の響きに深く向き合われた大学生活。成年皇族として儀式の場で初めてその響きに耳を傾け、感心を寄せる和歌の世界をかみしめられている様子でした。
皇后さまは34年ぶりの母校での感慨を
皇后さまは去年6月、イギリスへの公式訪問の際に母校のオックスフォード大学を34年ぶりに訪れた感慨を詠まれました。

『三十年(みそとせ)へて君と訪(と)ひたる英国の学び舎(や)に思ふかの日々の夢』
(読み:みそとせへてきみとといたるえいこくのまなびやにおもうかのひびのゆめ)
外交官としてのスキルを磨くため、国際関係論の勉強に全力を注がれた留学時代。
34年の月日が流れ、皇后というお立場で初めて陛下と一緒にオックスフォードの地を踏み、お互いの思い出を共にたどることができた喜び。

そして赤いガウンに袖を通し、陛下と同じ名誉学位を授与された感慨。ご自身の和歌が詠み上げられると、皇后さまは晴れやかな笑顔で立ち上がり、耳を傾けられていました。
陛下は子どもたちへの温かいまなざしを
儀式では、最後に、訪問先で触れあった子どもたちが将来の夢を生き生きと話す様子を詠まれた陛下の歌が披露されました。
『旅先に出会ひし子らは語りたる目見(まみ)輝かせ未来の夢を』
(読み:たびさきにであいしこらはかたりたるまみかがやかせみらいのゆめを)

交流の場面を取材すると、両陛下から今の学校生活や楽しみにしていることなどを尋ねられるうちに、子どもたちは緊張が解けて笑顔になり、両陛下の瞳もキラキラと輝くご様子をよく目にします。
コロナ禍を経て、各地で直接触れあえるようになったことを喜び、交流の機会を大切にされている陛下。未来を担う子どもたちへの温かいまなざしが和歌にも表れていました。
佳子さまは幼い日の情景を和歌に
『キャンバスに夢中になりて描きゐしかの日のことはなほあざやかに』

絵を描くことや工作・手芸がお好きな佳子さま。弟・悠仁さまが生まれると、手触りの柔らかいフェルトのおもちゃを手作りし、ご両親に手書きのカードなども贈られていました。
今回は、幼い頃に時間を忘れて絵を描いていた頃を懐かしむ思いを詠まれました。今でも絵を見返すと、当時の情景を思い出せるのだそうです。
華子さまは”絹ずれ”の音を
常陸宮妃華子さまは、夢の中で感じられた即位の儀式の静寂を詠まれました。
『御即位の儀式始まり絹ずれの音のみ聞こゆ夢のはじめに』

2019年5月に行われた「即位礼正殿の儀」。
伝統にのっとった儀式に向けて入念なリハーサルも行われていました。絹の装束の裾が床に触れるかすかな”絹ずれ”の音から、一世に一度の儀式への張り詰めた緊張が伝わってきます。
夢の中でも儀式に参列されていたことから、おいにあたる陛下の即位の儀式に大切に臨もうとされる華子さまの思いも伝わってきました。
2026年のお題は「明」
「明」の字を使った熟語や「明るい」の訓読を必ず詠み込み、一人一首を半紙に毛筆で書いて宮内庁に郵送して応募します(受付は9月末まで)。

新年にあたり、陛下は「わが国と世界の人々にとって、明るい希望を持って歩んでいくことのできる年となることを祈ります」と所感を寄せられました。
陛下が願いを込めて選ばれた「明」のお題。来年も、三十一文字に込められた思いを感じ取ることができればと思います。
【執筆:フジテレビ宮内庁担当 宮﨑千歳】