岩手・花巻市の企業「雨風太陽」は、県内の企業で18年ぶりに東京証券取引所に上場した。「食」を通して都市と地方をつなぎたいと語る、高橋博之代表の思いに迫る。

東日本大震災がきっかけで実業家へ

2023年12月18日、花巻市の「雨風太陽」は、東京証券取引所のうち、高い成長可能性を持つ企業向けの市場「グロース市場」に上場した。県内に本社を構える企業では、18年ぶりの上場だった。

「グロース市場」に上場した「雨風太陽」の高橋代表
「グロース市場」に上場した「雨風太陽」の高橋代表
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雨風太陽・高橋博之代表取締役:
閉塞(へいそく)する状況が日本は続いているので、それを地方から打破していく。夜明けを告げるようなつもりで鐘を鳴らしたので、そういう会社になりたいと思っている。

県議会議員として活動していた高橋代表(2009年)
県議会議員として活動していた高橋代表(2009年)

代表を務める花巻市出身の高橋博之さん(49)は、2005年、31歳の時に県議会議員となり、2期に渡って務めた経歴を持っている。政治家から実業家へ転身するきっかけとなったのは、東日本大震災だった。

雨風太陽・高橋博之代表取締役:
震災後に漁師と出会って、漁業の置かれた厳しい状況も知って。生産者が報われるような。岩手は基幹産業が1次産業でもある。それをやらないとダメだっていう強い思いを持った。

生産者を取材した情報誌
生産者を取材した情報誌

2013年に、前身となるNPO法人「東北開墾」を設立し、その後、生産者を取材した情報誌を食べ物とともに発送する事業を始めた。
当時から掲げている理念は「都市と地方をかきまぜる」。生産者と消費者、都市と地方をつなぎ、活力のある社会をつくりたいという思いが込められている。

雨風太陽・高橋博之代表取締役:
生産する地方の価値を、地方にいる人の力だけで守っていけない。文化も農家も、生産する人をいいねって応援してくれる人がいなければ、次に残していけないわけで。そこがいま絶たれているので、ここを結び直すっていうのが都市と地方をかきまぜることの意味。

生産者と消費者が直接やりとり

「雨風太陽」の事業の柱となっているのが、産地直送アプリ「ポケットマルシェ」だ。
全国の農家や漁師と直接やりとりしながら食材を購入できるサービスで、現在登録している生産者は約7,900人、ユーザーは70万人に達している。

産地直送アプリ「ポケットマルシェ」
産地直送アプリ「ポケットマルシェ」

2023年12月4日、高橋さんは登録している生産者が営む奥州市の果樹園を訪ねた。収穫を手伝いながら、出品されているリンゴがどのようにして作られているのか自ら確かめる。

収穫されたリンゴを食べる高橋代表
収穫されたリンゴを食べる高橋代表

菅野農園 園主・菅野千秋さん:
この寒さに当たらないと蜜が入ってこない。

雨風太陽・高橋博之代表取締役:
これを作るためにどれだけ日頃から手間をかけているのかが分かると、感謝していただくということになる。僕自身が現場に来てすごいなって思うので、それを代弁者じゃないけれど、拡声器を持って伝えるのは僕らの仕事なので。

このアプリの大きな魅力は、顔の見える生産者と消費者とが直接言葉を交わせることだ。

菅野農園 園主・菅野千秋さん:
お客さんから「おいしい」って声がダイレクトに聞ける。お礼の手紙とか、それが本当にうれしい。

生産者と消費者の双方が直接喜びを感じられる「ポケットマルシェ」を中心とする食品関連サービスの売り上げは、2023年で6億2,000万円に達する見込みで、この4年間で23倍に増加している。

雨風太陽・高橋博之代表取締役:
リピートユーザーから子ども生まれたって聞いて、注文入っていないのに出産祝いでリンゴ送ってるんですよ。親戚の親父かよって、そういう関係なんですよね。

菅野農園 園主・菅野千秋さん:
「ポケットマルシェ」でつながることができた。売って終わりじゃなくて、お客さまとつながれるのが良い。

変わらぬ強い思いを胸に新たな挑戦へ

売り上げが伸びている一方、雨風太陽の純損益は2023年12月期で1億8,000万円の赤字となる見込みだ。資金調達の可能性を広げる今回の上場には、社会課題の解決を目指す取り組みと、経済性の両立を追求したいという強い思いがある。

雨風太陽・高橋博之代表取締役:
世の中に良いことしているんだったら、みんなに求められていることなんだから、経済的にも成り立たなければいけなくて。それをやっぱり証明したい。

岩手銀行の岩山徹頭取と対談する高橋代表
岩手銀行の岩山徹頭取と対談する高橋代表

上場を間近に控えた2023年12月11日に、高橋さんは岩山徹頭取に上場を報告するため、岩手銀行を訪ねた。

雨風太陽・高橋博之代表取締役:
地元の銀行に背中を押してもらったのは非常に勇気が出た。心の支えになった。

県内で18年ぶりの上場に、岩山徹頭取も地域活性化への期待を寄せている。

岩手銀行・岩山徹頭取:
情熱と熱意をひしひしと感じまして。こういう方だから上場を果たせたと思うし、岩手をけん引するような企業に育っていただければと思う。

NPO法人の設立から10年を経て、新たな挑戦に乗り出した高橋さんは、当時から変わらぬ強い思いを胸に、2024年の飛躍を誓う。

雨風太陽・高橋博之代表取締役:
(2024年の抱負は)「世なおしは食なおし」。食べることは生きることの一丁目一番地。そこがいま荒廃している。色々な問題が起きていると思っていて、食を直していくことが世の中を直す一番の王道だと思う。これをことし一年、改めて考え直して頑張っていきたいと思う。

(岩手めんこいテレビ)

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