岩手・陸前高田市の魅力を知ってもらおうと11月に開催された、観光と食を組み合わせた「ガストロノミーツアー」。ツアーの仕掛け人は元国連職員の男性だ。陸前高田市の復興を支える元国連職員の挑戦を取材した。

ふるさとの活性化には“観光”が大事

今が旬の「どんこ」を使ったタルタルに、大粒のカキと新米のリゾット。これらは、陸前高田市の食材の魅力を知ってもらおうと、11月28日に市内の企画会社が開催したガストロノミーツアーで振る舞われた料理だ。

ガストロノミーツアーとは、その土地の文化や歴史などに触れながら地元の食を楽しむ、観光と食を組み合わせた新しい旅行スタイルだ。

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陸前高田企画 村上清社長:
豊洲市場で卸値が一番高いのが、ここで採られているカキになります。これが世界一のカキに匹敵すると思う

このイベントを企画した企画会社の社長・村上清さん(64)は陸前高田市出身で、アメリカの大学卒業後、外資系の金融機関を経て2000年から約5年間、国連で勤務した。その後も民間企業に勤めながら世界を舞台に活躍していた。

しかしあの日、ふるさとを津波が襲った。
2011年3月11日、東日本大震災。

陸前高田企画 村上清社長:
町が壊滅状態だということをまず聞いた。何をしなきゃいけないかと考える前に、動き出した

村上さんは震災後すぐに、陸前高田市を支援する団体「AidTAKATA」を立ち上げ、災害FMを開局するなど復興に携わった。

2012年には陸前高田市の参与に就任し、国際経験を生かし世界に支援を訴えた。その結果、シンガポールの協力で市のコミュニティーホールを建設するなど、インフラの整備にも貢献した。

建物や道路などハード面の復興が進む一方、村上さんは人々がふるさとで豊かに暮らしていくために、新たな産業が必要だと考えるようになる。

陸前高田企画 村上清社長:
地域の活性化には観光が大事。人に来てもらわなければいけない。観光コンテンツをもっと付加価値の高いものにしていきたい

震災からちょうど10年の2021年3月に、その思いを実現しようと村上さんは市の参与を辞任し、企画会社「陸前高田企画」を設立した。

「陸前高田ガストロノミー」開催

11月28日、陸前高田企画が観光庁の助成金などを使って開催した「陸前高田ガストロノミー」は、旅行会社の商品企画の担当者などを招待したモニターツアーで、約10人が参加した。

陸前高田企画 村上清社長:
かさ上げした所から、いったん、かさ上げをしていない場所に降りていきます

村上さん自らガイド役を務め、バスの中で地域の歴史や復興の状況を説明する。

高田松原津波復興祈念公園
高田松原津波復興祈念公園

一行がまず向かったのは高田松原津波復興祈念公園。震災の犠牲者の追悼とその教訓を後世へ伝えるために作られた。

陸前高田企画 村上清社長:
色々な方に来ていただいて、こういうことがあったんだという事実を知っていただくことが大事

参加者たちは、震災、そして復興の歩みを実際に現地で感じ理解を深めていく。

ツアー参加者「宝箱みたいな場所」

見学を終えホテルにチェックインすると、いよいよディナータイム。この日の食材は一部の調味料などを除きすべて陸前高田産だ。

調理を担当した、東京のイタリアンの名店「タベルナ・アイ」の今井寿シェフも、食材の良さに太鼓判を押す。

タベルナ・アイ 今井寿シェフ:
山の幸あり海の幸あり、最高です。料理人にとって食材の宝庫。陸前高田は人間が温かい、そういうのが食材に出ている

一流の食材が一流シェフの手で絶品イタリアンに変身。フルコースが参加者のテーブルへ次々に運ばれ、地元のお酒とともに振る舞われた。

しかし、ただ「食べる」だけではないのがこのツアーの特徴だ。
実際に食材を作る生産者などに話を聞きながら料理を味わうことで、その魅力をより感じることができる。

この日好評だった料理のひとつ、陸前高田産の真ダコを使ったガレットは、タコの漁師がその特徴などについて自ら説明した。

タコの漁師 村上優一さん:
素材は良いです。そこにシェフの魔法がかかって、さらにうまくなっていると思います

ツアーの参加者は料理だけでなく、陸前高田市の歴史や自然、そしてそこで暮らす住民の人柄に触れながら楽しいひと時を味わっていた。

ツアー参加者からは「様々な物がちりばめられた宝箱みたいな場所だと思った」「普段見ていないような景色を楽しんでいただき、地元のおいしい食材をいただくことが好まれるのでは」という声が聞かれ、村上さんも「手応えは非常にある」と力を込めた。

陸前高田企画 村上清社長:
皆さん非常に興味を持っていただいている。本来良い物があったのに、そこが表に出されていなかったということをあらためて感じた

ツアーの商品化を目指して

今回のイベントに手応えを感じた村上さん。今後は、市内の受け入れ態勢を整え、国内だけでなく海外からの集客も目指し、ツアーの商品化を進めたいとしている。

陸前高田企画 村上清社長:
仕掛けをしながら知恵を出して、もっと動けば動くほど反応があると思っている。もっと動こうよと

新たな「仕掛け」でふるさとの魅力を発信する。
陸前高田市の復興を支える元国連職員の挑戦は続く。

(岩手めんこいテレビ)

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