2023年の東京株式市場は、日経平均株価が年末として34年ぶりの高値で取引を終えた。

大納会終値 2023年12月29日
大納会終値 2023年12月29日
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新型コロナの5類移行に伴い経済活動が再開し、海外投資家からの買いが集まる中、7月にバブル崩壊後の最高値に到達した平均株価は、勢いが維持された形となった。

日米の金融政策の違いによる金利差拡大から進んだ円安は、輸出関連企業の業績を支えた。

円安・株高が目立った2023年だったが、2024年は、どういう年になるだろうか。

 「金利のある世界」が現実味

大きな焦点は、「金利のある世界」が現実味を増してくる可能性だ。

大規模緩和を続けてきた日銀は、2023年に2度にわたって政策を修正し、「イールドカーブ・コントロール」と呼ばれる長短金利操作についての運用を柔軟化して、長期金利の上限を事実上1%に引き上げたあと、さらに、1%を一定程度超えることを容認することを決めた。

緩和からの「出口」を探る日銀が、次に手をつけるとみられるのが、短期金利をめぐって導入している「マイナス金利」政策の解除だ。

日銀の当座預金に金融機関が預ける資金の一部にマイナス金利を適用する政策について、市場関係者の多くが2024年前半の解除を予想する。

マイナス金利が解除されれば、金融緩和からの本格的な政策変更への一歩となる。

春闘での賃上げとアメリカの利下げ

日銀の判断の大きなカギを握るのが、春闘での賃上げの広がりだ。

2023年11月の消費者物価指数の伸び率は、20カ月連続で日銀が目指す2%を超える水準で推移している。輸入物価の値上がりが主因だった物価高は、賃上げの影響を受けやすいサービス価格の上昇へと様相を変えつつある。

他方、物価変動の影響を考慮した2023年10月の実質賃金は19カ月連続でマイナスだ。

日銀・植田総裁
日銀・植田総裁

植田総裁は、物価目標の安定的な達成について「確度が少しずつ高まってきている」との認識を示しながらも、物価高に負けない持続的な賃金上昇が実現しているかについて、2024年春闘の動向をふまえて、注意深く見極めたいとする姿勢を崩していない。

連合は、2023年を上回る「5%以上」の賃上げ目標を掲げているが、賃金上昇のすそ野の広がりをどの時点で確認できるのかが、重要なポイントとなる。

日銀が政策変更の歩みを進めていけるかをめぐっては、アメリカの金融政策という要素が重みを増す可能性がある。

米FRB・パウエル議長
米FRB・パウエル議長

アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は2023年12月に、3会合連続で利上げの見送りを決め、2024年中に3回の利下げが想定される先行き見通しを示した。

アメリカが、インフレ過熱を抑えるため続けてきた利上げを手じまいしていくとの見方が広がり、アメリカの金利高で彩られてきた相場環境は様変わりしている。

植田総裁は、2023年末の決定会合後の会見で、「(FRBが)たとえば3カ月後、6カ月後に動きそうだから、その前に焦って政策変更をしておくという考え方は不適切だ」と述べているが、FRBが実際に利下げに転換していく場面では、アメリカ景気の勢いのなさも想定される中、日銀が、円高による輸出の鈍化を招きかねない金融引き締めに向けた身動きを取りにくくなる点が指摘されている。

「マイナス金利」解除後、住宅ローン・預金は

「マイナス金利」解除後の金融政策の枠組みについての関心も高まってきている。

日銀は当面、短期金利での「ゼロ金利」政策を続けたうえで、その先の「ゼロ金利」解除と金利引き上げのタイミングを慎重に図っていくとの見方が多い。

「マイナス金利」政策の導入で、日銀は、金融機関が預け入れる当座預金を3つの階層に分け、うち1つの階層にマイナス0.1%の金利を適用して、短期金利を抑え込む手法を採用し、その後、長短金利全体をコントロールしようとする仕組みを取り入れた。

このやり方を変えて、誘導目標を変更し、「利上げ」へと政策の方向を転換していく過程で、長らく続いてきた超低金利の環境が、本格的に金利が上がっていくステップへと移行していくことが想定される。

 「金利のある世界」の本格的到来で、私たちの生活はどうなるだろうか。

「マイナス金利」政策が解除された場合、影響が取りざたされているのは、住宅ローン金利のうち、短期金利の動向を反映する変動金利だ。

住宅展示場(資料)
住宅展示場(資料)

変動金利をめぐっては、一部ネット銀行などを除けば、短期プライムレート(=短プラ)と呼ばれる優良企業向け貸出金利をもとに基準金利が設定され、そこから、他行との競争や個々の利用客の信用度をふまえた優遇幅が差し引かれて、実際の適用金利が決まるのが一般的だ。

住宅ローン比較サービスのモゲチェックは、「マイナス金利の解除だけでは、短期プライムレートが上昇しないことも考えられ、その時点で変動の基準金利は上がらない可能性もある。ただ、解除のタイミングをきっかけに、優遇幅を縮小する金融機関が出てくることが考えられ、新たにローンを組む人への適用金利には影響が及ぶかもしれない」と予測する。

では、その後、「ゼロ金利」も解除され、利上げが進んだ場合は、どうだろう。

みずほリサーチ&テクノロジーズは、2%程度のインフレと賃金上昇が定着する経済の好環境が実現した前提で試算を行った。

それによると、2026年度に日銀の政策金利は2.8%程度にまで段階的に引き上げられ、長期金利は3.5%程度に上がる。

2023年度に0.001%だった普通預金金利は2026年度に0.4%に、10年定期預金金利は0.4%から2.5%になる一方、住宅ローン金利は変動が0.3%から4.0%に、35年の全期間固定では1.8%が4.8%にそれぞれ上昇する。

家計部門で見た場合、住宅ローンの金利負担が2.2兆円増加するが、預金の利子収入は3.0兆円増え、金利の関連では差し引き0.8兆円のプラスになるとした。

ただ、住宅ローンについては、中長期的には、固定金利で借り入れる世帯の増加に加えて、すでに変動金利で借りている分も、毎月の返済額を5年間は変わらないとする「5年ルール」が順次終了することで、返済額は増加し、住宅ローン負担増によるマイナスが預金金利収入のプラスを上回っていくとしている。

「辰年」は上昇軌道を描けるか

 2024年は「十干十二支」では「甲辰(きのえたつ)」にあたる。
「甲」は、十干で1番目にあたり、物の始まりや成長を意味するとされる。

2023年12月29日の大納会
2023年12月29日の大納会

十二支の「辰」をめぐっては、「辰巳天井」の相場格言があり、辰年と次の巳年は天井をつけるとされているが、証券業界では、昇り竜のような上昇相場を期待する声が聞かれ、日経平均株価の「4万円超え」を見込む予想も出ている。

戦後6回の「辰年」の日経平均株価の年間騰落率をみると、上昇した年と下落した年の勝敗は、4勝2敗だ。

物価と賃金がともに安定的に上がっていき、消費が活性化する好循環を確実なものにし、金利のある世界に向け、成長軌道を描いていけるのか。

日本経済にとって、大きな節目の年となる。

(執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員