アメリカがイランの核施設攻撃に踏み切ったことで、中東情勢の悪化が世界の景気やエネルギー供給に影響を広げる事態が心配されている。週明けの市場はどのような動きを見せるのだろうか。

1日100隻が通るホルムズ海峡

原油供給をめぐって警戒感が強まっているのが、ホルムズ海峡の通航の安全性だ。

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ホルムズ海峡は、北側にイラン、南側にアラビア半島のアラブ首長国連邦(UAE)やオマーンが位置し、ペルシャ湾とインド洋を結ぶ原油や石油製品の重要な輸送ルートだ。全長約100マイル(161キロメートル)で、最も狭い部分の幅は21マイルしかない。

イランによるホルムズ海峡の封鎖や、通航する船舶の臨検が現実のものになれば、世界の原油輸送に影響が生じることは避けられない。

アメリカのEIA(エネルギー情報局)が公表した報告では、2024年にホルムズ海峡を通過した原油は1日当たり約2000万バレルと、世界の石油消費量の約20%にあたる。

ホルムズ海峡は、世界のエネルギー安全保障上、極めて重要な海上の要衝だとし、閉鎖された場合、原油を輸送する代替手段はほとんどないと指摘している。

サウジアラビアでは紅海沿いのヤンブー港へのパイプライン、UAEではオマーン湾沿いのフジャイラへのパイプラインなどがあるが、輸送能力は限られるという。

また、IMF(国際通貨基金)の調査によると、6月9日から15日までにホルムズ海峡を通過した船舶は1日平均110隻で、約半数がタンカーだ。

騰勢強める原油・LNG相場

原油先物相場は、このところ上昇ピッチを強めている。代表的な指標となるWTIの直近7月物は、イスラエルによるイランの空爆後、13日に1バレル=77ドル台後半と、約5カ月ぶりの水準に急騰した。17日にはアメリカの軍事介入への警戒感から再び上昇して74ドル台後半をつけ、関係者の間からは、ホルムズ海峡の輸送が滞ったり封鎖されたりした場合、120ドル~140ドル程度まで上昇する可能性を指摘する声も出ていた。

日本などアジア向けのLNG(液化天然ガス)の価格も上がっている。6月13日には、アジア向けLNGスポットの指標となる価格(7月受渡)は、前週末の12ドル後半から13ドル半ばまで大きく上昇した。

ホルムズ海峡を通過して運搬されるLNGは、アメリカに次ぐ世界2位(2023年)の輸出国カタールとUAEからの供給分で、世界の貿易量の約2割にあたる。アメリカのブルームバーグは、カタール国営石油会社が、LNG運搬船に対し、積み荷の準備が整うまでホルムズ海峡の外で待機するよう指示したと報じている。日本のLNG輸入は、カタールとUAEからの分をあわせて5%ほどにとどまるが、ホルムズ海峡経由の供給が絶たれた場合、中国などが代替調達を急ぐ事態が想定されることから、価格全体のさらなる値上がりを招くことが懸念されている。

ガソリン・電気ガス代への影響は

原油やLNG価格の上昇は、ガソリンの値段や電気・ガス料金を押し上げる可能性がある。

16日時点のレギュラーガソリンの1リットルあたりの店頭平均価格は171.2円と、政府による補助が増えるなか、前週に比べ1円安くなった。政府は、8月までは、175円を超えると、超過分を補助するしくみを導入する方針だが、原油価格が上昇していく場合、どの程度まで値上がりし、いつまで続くのか、注意が必要な局面になってきた。

火力発電や都市ガス用に調達されているLNGは、7割ほどが原油相場と連動する価格で、2割が騰勢を強めるスポット価格で取引されている。

電気・ガス料金は、7月~9月使用分については政府の補助が実施されるが、家計負担が増すケースも想定される。

広がる先行き不透明感

注視されるのが、週明けの市場の動きだ。リスクを避けようと、安全資産への資金逃避の動きが広がれば、株価は下落基調を強めることになる。

中東情勢をにらんで最初に開く東京市場の相場動向がまずは注目だ。アメリカではこの先、エネルギー価格の上昇が消費者心理を悪化させる一方で、インフレ率を押し上げ、利下げのペースを左右することも考えられる。

トランプ大統領の関税政策で不確実さが増す世界景気の足どりに、さらなるリスク要因が加わるなか、先行き不透明感が広がりつつある。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
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金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員