リニア中央新幹線をめぐり、静岡県の川勝平太知事が突如として再び持ち出した山梨・神奈川間の“部分開業案”。JR東海・丹羽俊介社長が否定する中、川勝知事は12月26日の会見で「自分勝手に言っているのではない」と気色ばんだ。
JRは開業後ろ倒しも視野 川勝知事は…
JR東海は12月14日、建設を進めるリニア中央新幹線の開業目標について、「2027年」から「2027年以降」に変更したことを発表した。
その理由として、静岡工区の工事に必要な許可が静岡県から下りず、いまだ着工の見通しが立っていないことを挙げている。
この記事の画像(6枚)その2日前の12日。川勝知事は県議会・本会議で、このリニア問題に関連して「現行ルートを前提にした上で、できるところから、つまり開通できる状況になった部分から開通させることが営業実績となり、解決策となると考えている」「できるところからやるということから、実験線の延伸・完成が1つの例示になる。(計画を)変えることは社長にしかできない」と述べた。
しかし、川勝知事の唱える“部分開業案”はJR東海の丹羽俊介社長が完全否定しているほか、県の元副知事で現在は静岡市のトップを務める難波喬司市長も「国家的事業だがJR東海という民間企業が実施している事業。どのように開業していくのかは事業者が決める話であって、企業の経営に関係ない者が『部分開業がいい』とか言う話ではない。静岡県には関係ない。何で言うのかわからない」と一刀両断。
“部分開業”はJRが言っている!?
ただ、そんなことで“折れる”川勝知事ではない。
26日に行われた年内最後の定例記者会見で“部分開業案”について質問が及ぶと、まず「自分勝手に言っているわけではない」「JR東海の事業計画に書かれていることを言っている」と気色ばんだ。
川勝知事がこだわっているのは、JR東海が2010年に公表し、国の交通政策審議会中央新幹線小委員会で説明した「超電導リニアによる中央新幹線の実現について」と題された資料で、この中には「工事は、完成までに10年を超える期間を要し、早期実現のために早期着工が必要。さらに、最新技術維持のため、実験線の延伸完成から間断なく着手することが重要」との記載がある。
このため、川勝知事は「実験線が完成するというのはどういうことなのか?実験線が実験線でなくなること。つまり実用線になること」と持論を展開し、「今の実験線に一番近いところが甲府駅(山梨県駅)と神奈川県駅になる。ですから、実験線が完成するというのは甲府から神奈川県駅まで結ばれること。そうすると営業できる。JR東海が公式の場で言っていることを私が言っているに過ぎない」と主張。
その上で「JR東海は『実験線の延伸完成から間断なく』と言っている。ですから、それを『実行するべきである』と言っているのであって、極めてJR東海のスタンスに沿って言っている。JR東海の事業計画・工事計画に即して言っている」と述べた。
事実誤認で持論を唱える川勝知事
ところが、前出のJR東海が公表した資料を読み解くと、川勝知事の認識には事実誤認があると考えられる。
2010年当時、山梨県にあるリニア中央新幹線の実験線は総延長が18.4キロしかなく、JR東海はこれを2013年度中に42.8キロまで“延伸”させることを目指していた。そして、それは補足資料にしっかりと示されている。
実験線は予定通り42.8キロまで延び、これまで10年にわたってこの区間を使った走行試験が繰り返されていて、JR東海も「実験線は“延伸”し“完成”した」との認識だ。
それに、JR東海の資料には「超電導リニア技術は、実験線の工事から本線部分の着工まで間断なく投資を継続してこそ、関係企業も含めて強い開発力を維持できるものであり、そのためにも早期の着工が必要である」とも記されていて、山梨・神奈川間の“先行開業”や“部分開業”に関する記述は一切ない。
そもそもで言えば、仮に山梨・神奈川間の“部分開業”が実現したとしても、懸案となっている静岡工区の課題解決には何もつながらない。
2023年は、静岡工区をめぐって生物多様性に関する国の有識者会議の報告がまとまったほか、トンネル掘削に伴い県外に流出した大井川の水を戻す方法としてJR東海が示した“田代ダム案”について、JR東海とダムを管理する東京電力リニューアブルパワーとの間で基本合意が交わされるなど進展が見られた年だった。
川勝知事には今一度、静岡工区をめぐる問題と真摯(しんし)に向き合い、主張すべき点は主張し、理解すべき点は理解する姿勢が求められているのではないだろうか。
(テレビ静岡)