子どものころに虐待を受けながらも生き延びてきた「虐待サバイバー」と呼ばれる人たちがいいる。

その後の人生に影響を及ぼし、大人になってからも苦しむ人も少なくない。

虐待のトラウマ治療には高額な費用がかかるため、大半の人が受けられていないという。

親から逃れても終わりではない。「虐待サバイバー」が直面する厳しい実態とは。

土下座し足で踏みつけられる ”精神疾患のある母親”から暴力受け育つ

虐待サバイバーの1人、二本松一将さん
虐待サバイバーの1人、二本松一将さん
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札幌市に住む二本松一将さん(29)。

サバイバーの1人だ。

虐待を受けていた子どものころの心境を聞かせてくれた。

「家族で起きていることは家族の問題だから、誰にどう相談していいか、当時はわからなかった。自己否定を募らせたタイミングで苦しくなって、『消えたいな』『もうやめようかな』と思うことも度々。その中で希死念慮に迫られたりしました」

二本松さんは精神疾患のある母親から暴力を受けて育った。

「小学生のときから母の精神状態が悪いときには、テストで100点満点を取れていなくて99点だったときでも、ビンタをされ、平手打ちをくらった。『ごめんなさい』と謝り続けて納得するまで何時間も土下座しなければならなかったり、その土下座する僕に対して足で踏みつけたり」

母親に加え父親も― 「お尻出せ」何度も”ケツ蹴り” 泣き声で満足度測る

母親だけではなく父親からも虐待を受けた幼少期
母親だけではなく父親からも虐待を受けた幼少期

暴力を振るったのは母親だけではなかった。

「『あんたがちゃんと分からせなさいよ』と母親から父親に僕にちゃんとしつけをしろと。父親からも平手打ちされた。サッカーをやっていた人なので『お尻を出せ』と言われて何度もケツ蹴りをされた。僕の蹴られた後の声、泣き声で母親は満足度を測っていました」

刺さる母親のひと言「あんたなんか生まれなきゃ…」 高校生で拒食症に

高校生のときには拒食症に
高校生のときには拒食症に

両親は二本松さんの16歳の誕生日に離婚。母親から言われた一言が深く突き刺さった。

「母から『あんたなんか生まれなきゃ良かったんだ』と言われた」

両親の離婚後、二本松さんは父親に付いていき新しい生活を始めたが、徐々にご飯が食べられなくなり拒食症になった。頬はこけ、体重は40キロ台。

「自分自身の存在が必要ないと思っているのに、自分を生かすための食べるという行為がかみ合わない。食べるという行為をやめていってしまいました」

奨学金を借りて北海道の大学に進学。人との関係に悩むこともあった。

見捨てられる不安にさいなまれる。

「仲良くなってもその人がいなくなってしまうのではないか。仲良くしていて出かけることがあっても、わざと1時間遅刻していく“試し行動”もあった」

子どものサインに気づいて―教師たちに訴える 虐待受ける子減らすために

自身の経験を語る二本松さん
自身の経験を語る二本松さん

高校時代にバイト先のおばちゃんたちが、ご飯を作ってくれたり、「大丈夫?」と気にかけてくれたりした。

その経験から、家庭環境に左右されない居場所を作ろうと大学時代に、札幌の隣、江別市で子ども食堂を立ち上げた。

現在はお寺へのお供え物を困窮する家庭に送る認定NPO法人おてらおやつクラブで働いている。

11月、恵庭市で講演した二本松さんは教師や子どもと関わる人たちに自身の経験を語った。

「家では緊張感の走る中で生活。何をして、どのタイミングで叩かれたり殴られたり、物を捨てられるのか分からなかった。家の中では本当にいい子で過ごしてきたつもりだった」

子どものサインに気づいてほしい――。二本松さんは訴える。

「(経験を思い出すのは)ちょっとしんどくなったりもする。そうした経験を伝えることで虐待を受ける子が減ったり、困窮状態にある子に気付く大人が増えてくれたりすることで、よりしんどい状況にならないと僕は信じている」

幼少期に母から虐待受け育つ…10代後半で精神疾患 自殺未遂も経験

虐待を受けた経験のある人や支援者たちの集会を主催した丘咲つぐみさん
虐待を受けた経験のある人や支援者たちの集会を主催した丘咲つぐみさん

11月19日、東京。子どものころ、虐待を受けた経験のある人や支援者たちがイベントを開いた。主催した丘咲つぐみさん(48)が参加者に語りかける。

「子どものころは虐待の影響により苦しい思いをたくさんしてきたが、大人になってからもたくさんの苦しい体験をしてきました」

丘咲さんも幼少期に母親から熱湯をかけたれたり、フライパンで殴られたりする虐待を受けて育ちました。10代後半から精神疾患の症状が出て、自殺未遂も経験した。

20代のころの丘咲さん
20代のころの丘咲さん

「複雑性PTSDの症状が出てきたり、双極性障害の症状が出ていたり。どんどん精神疾患が増え、40歳手前くらいまではもう『いつ死のうか』という毎日」

大人になっても心の傷は癒えなかった。

調査で判明した虐待サバイバーの厳しい実態「6割が自殺を実行 未遂に」

虐待サバイバーをめぐる環境
虐待サバイバーをめぐる環境

丘咲さんは現在、一般社団法人Onaraの代表として活動し、大人になってからも苦しんでいる人たちを支えている。

虐待サバイバーの実態を明らかにするため、2023年9月、虐待を受けながらも社会的養護につながらなかった18歳以上の683人の当事者にアンケートを実施。

結果は「実際に自殺したいという思いまで至っている人」が91%。「自殺を実行し未遂に終わっている人」が61%もいることが分かった。

「年間所得140万円以下」6割以上 治療費用高額で大半が受けられず

調査では、精神科の受診歴がある人が8割以上にのぼった。

しかし、虐待のトラウマ治療は専門医が少く、保険適用外のものが多く専門的な心理療法の場合、1回1~2万円と高額。

長期化で費用がかさむ恐れもあり、大半の人が受けられていない。

生活や仕事で困難を抱える人が多く、年間の所得が140万円以下の人が6割以上いることが明らかになった。

この結果を踏まえ、丘咲さんは国に実態調査や生活相談の支援の拡充を求める要望書を、国会議員に手渡した。

「幼少期から大きなトラウマを抱えている人たちが、自殺への願望を強めていくことは当然の感情。この人たちが気軽に相談できる先をしっかり作ることが必要ですね」(丘咲さん)

親から逃れても終わりではない。虐待後を生きる人たちへの支援が求められている。

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北海道文化放送
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