台湾有事に対する懸念が高まっている。政府関係者は「台湾有事を想定した中国国内での軍事演習が活発化している」と明かす。
2023年11月、米中首脳は1年ぶりとなる首脳会談を行った。バイデン大統領は台湾周辺での中国の軍事的な行動が緊張と懸念を高めていると指摘し、2024年1月に行われる台湾総統選挙に中国が介入しないよう求めた。

これに対し中国の習近平国家主席は「アメリカは中国の平和的な統一を支持すべきだ」と強調した上で、「アメリカでは2027年や2035年に中国が軍事作戦を計画しているとの報道があるが、そのような計画はない。誰も私にそんな計画について話していない」と強く反論したという。

しかし習主席の言葉には明らかな欺瞞があった。この首脳会談から遡ること2カ月前、今年9月に中国軍は台湾有事を想定した大規模軍事演習を実施していたからだ。
今年の防衛白書でも「中国は、台湾に対する武力行使を放棄しない意思を示し続けており、航空・海上封鎖、限定的な武力行使、航空・ミサイル作戦、台湾への侵攻といった軍事的選択肢を発動する可能性がある」としている。別の政府関係者も「アメリカの介入が入る前に台湾有事を実行したいのが中国の本音だ」と指摘している。
台湾有事は台湾だけとは限らない
台湾有事がどの様な時に始まるのか、様々なシナリオが想定されているが、日米が対処することになるシナリオは、単に中国の台湾侵攻だけとは限らないとの臆測が拡がっている。

今年も中国とロシアは日本列島周辺で爆撃機や戦闘機を一緒に飛行させ、艦艇が日本近海に集まり射撃訓練を行うなど共同軍事行動とみられる動きを見せている。こうした動きは年々増えており、中露は軍事的連携を深めている。

仮に台湾有事の際に同様な動きをベーリング海付近でも行い、アメリカのアラスカ方面に睨みをきかせるような共同軍事行動を取った場合、アメリカ軍のアセットは分散され台湾有事に集中できない。もっと悪い想定では、中国が台湾有事をおこす際に、朝鮮半島有事も同時におきるというシナリオを描く専門家もいる。これも米軍が台湾有事に集中できないシナリオとなる。

中国は9月の軍事演習を皮切りに、台湾有事想定の演習をこれまでに数回実施し、着実に練度を上げているという。訓練の頻度を上げ、いつの間にか本番に踏み切ってくる恐れもあり、こうした事態に政府は危機感を募らせている。
日本が迫られる覚悟
また別の政府関係者は「最近、中国は台湾に武力侵攻も辞さないという強硬論線を敢えて隠す様になった。そういう強硬論は、台湾の国内世論を硬化させるだけで、むしろ来たる台湾総統選に向け台湾の民進党を利することになると、中国はようやく分かってきたみたいだ」と明かす。ますます気味が悪い状況だ。

アメリカ政府関係者は「台湾有事がおきた場合、在日アメリカ軍基地の防衛防空、南西諸島における弾薬や燃料の備蓄、南西諸島に滑走路の増設、アメリカ海軍との共同ミッションなどを日本に求める可能性がある」と明かしている。
日米は難しい判断を迫られる。
中国が台湾に向け行動を起こした場合、ロシアも北朝鮮も動きを活発化させる可能性があり、二正面、三正面への対峙を求められるアメリカは、果たして台湾有事に介入できるのだろうか。
アメリカが介入すれば協力を求められる日本は、事態が「重要影響事態」「存立危機事態」「武力攻撃事態」に発展することを覚悟しなければならない。
「意志」と「能力」
中国が台湾有事に踏み切るとすれば、少なくとも「意志」と「能力」の2つが必要だとされている。最近の水面下での軍事演習の動きは、台湾を中国にするという、揺るぎない「意志」による「能力」獲得に向けた動きと捉えることができる。
水面下で前のめりに準備を進めている中国を前に、ロシアや北朝鮮の出方も気になる中で、日本は同盟国アメリカと共に「意志」と「能力」を揃えて台湾有事に対処できるのか。

政治と金の疑惑で揺れる中で、まずは国家の「意志」を政府がまとめることができるのか。それを思うと、この冬の寒波の到来が時代の風雲急を告げているように思えてならない。
【執筆:フジテレビ解説委員 上法玄】