2023年に議論が活発化した「出自を知る権利」について、内密出産で生まれた子どもや、こうのとりのゆりかごに預けられた子どもに、その真実をどう伝えるのか。子どもを支える施設の取り組みに迫った。

預けられた赤ちゃん 慈愛園の取り組み

日本では法制化されていない、生みの親の情報の管理や子どもへの真実告知について、施設ではどのように対応しているのか。乳児院の一つ、慈愛園乳児ホームを訪ねた。

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乳児院は、「こうのとりのゆりかご」や「内密出産」によって生まれた赤ちゃんを預かる施設でもある。赤ちゃんは一定期間ここで過ごし、親元に帰るケースもあれば、里親家庭に託されるケース、引き続き施設で養育されるケースなどさまざまだ。

社会福祉法人 慈愛園・潮谷佳男園長:
卒園して何十年もたったあと、「慈愛園にいたんですが、(自分が)どんな子どもだったか知りたい」と電話もけっこうかかってきます。

慈愛園には、成長して大人になったあとも、自分の出自を知りたいと訪ねてくる人がいる。

園で育ち、50代になった人が問い合わせてくるケースもあるといい、潮谷園長は「昔のことは、親から伝えられてこういう子どもだったと(わかる)。でも残ってない人たちはそこの隙間というのを最後まで追い求める」と話し、慈愛園では預かった子どもの記録を全て保管しているという。

保管された記録は“生い立ち知る手がかり”

ーーどんなことが書いてある?

社会福祉法人 慈愛園・潮谷佳男園長:
入所した理由とかお手紙とか戸籍とか。医療状態とかも載ってますね。

昭和20年代の養育日誌には、「貧困。母親沖縄へ帰国」と記してあった。

社会福祉法人 慈愛園・潮谷佳男園長:
昔は本当に貧困が多かった。お父さんお母さんが亡くなったっていうのが多い。戦争孤児たちの時代かなと思います。子どもたちの毎日の生活を書かなきゃいけないんですよ。今も卒園するまで毎日毎日書く。成長を中心にこの記録は書いていく。乳児院は特に。他の人が呼んでもわかる記録であることが重要と教えられた。記録は子どもに帰属しているものだと。

記録は、自らの生い立ちを知りたいと訪れる人に伝えるためのものでもあるのだ。

ーー対応する人の技術、スキルは?

社会福祉法人 慈愛園・潮谷佳男園長:
かなり難しいです。責任もすごく伴いますので、どのようにするか、施設職員で(検討)していますが、そこの判断は私たちでも自信はなくて、本当に。誰かが専門家として担保してくれれば本当はいいのかなと思いますけれども…。

子どもを周りの大人がどう支えるべきか

慈愛園乳児ホームで作っている「ライフストーリーブック」は、在籍する子ども1人1人に個別に作成していて、子どもが乳児ホームを離れる際に手渡している。

社会福祉法人 慈愛園・潮谷佳男園長:
今自分が置かれている状況の理解と、過去どういった生活をしていたのかという理解を促すということで。2歳以前の子どもの記憶とか行動とか、それが担保できるように、写真と文章で残すという作業を職員それぞれでやっています。

そこに貼られているのは集合写真ではない、子ども一人一人が主役の写真だ。職員はデジカメを手に、子どもの日常のひとときを撮影する。

生い立ちや真実を受け止めようとする子どもを、周りの大人がどう支えていくのか…。

社会福祉法人 慈愛園・潮谷佳男園長:
嘘というのは人生においてあまりよくない。とりつくろったりしますけど、それよりも本当の真実を子ども自身が知ることによって、子ども自身がそれを消化していくという形なのかなと思います。

「ゆりかご」や内密出産の先にある、子どもの人生を考える議論が始まっている。

(テレビ熊本)

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