WHO世界保健機関が「発がん性がある」と認めた化学物質PFOAを含んだ水が、目標値の220倍の濃度で海に流されていた。化学工場に隣接する静岡市の雨水ポンプ場でのことだ。工場から離れた場所からも目標値を上回る濃度で検出され、工場の煙突から排気を通じて広範囲に拡散した可能性も指摘されている。

WHO「発がん性がある」

この記事の画像(15枚)

人工的に作られた有機フッ素化合物の総称PFAS。その中で特にPFOAとPFOSは、水や油をはじき熱に強いためフライパンのコーティング加工や食品のパッケージ、泡消火器などによく使われた。現在 日本では製造や輸入が原則禁止されているが、自然界では分解されず地下水や河川に残り続けている。

WHO(世界保健機関)のがん研究機関は、2023年12月PFOAを「発がん性がある」とした。この研究機関は発がん性について、「ヒトに対して発がん性がある」「おそらく発がん性がある」「発がん性がある可能性がある」「発がん性について分類できない」の4段階で評価している。

PFOAは「発がん性がある可能性がある」から、最も高い「発がん性がある」に引き上げられた。動物実験やヒトへの研究結果から、がん発生のメカニズムが確認されたからだ。「発がん性がある」分類には他に、アスベスト・たばこなどがある。
PFOSは「発がん性がある可能性がある」に初めて分類された。

日本の食品安全委員会は、飲料水や食品を通じて摂取した場合の健康への影響についての研究を進めている。ただ2023年12月現在 国内の規制の目安は、水道法などで定める暫定目標値だけだ。
それはPFAS(PFOAとPFOSの合計)が1L中に50ng(0.00005mg)。これは体重50kgの人が水を一生涯にわたって毎日2L飲んだとしても、この濃度以下であれば健康に悪影響が生じないと考えられる水準を基に設定された値だ。

PFOAを48年扱った工場の周辺で…

PFOA(提供:京都大・原田浩二准教授)
PFOA(提供:京都大・原田浩二准教授)

PFOAは1990年代にアメリカの化学メーカー「デュポン社」が、流失により工場周辺の住民に健康被害が出たことから注目され始めた。のべ3500人を超える住民を原告とした裁判が行われ、大学教授などで設立された科学委員会が健康被害を認め、2017年にデュポン社が賠償金6億ドル超を支払うことになった。

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場
三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

そのデュポングループの傘下で約50年間にわたりPFOAを扱ってきた化学工場が静岡市清水区三保にある。現在の社名は三井・ケマーズフロロプロダクツだ。1965年からフッ素樹脂製造で使い、2013年12月に使用を中止した。使用をやめて10年経つが、48年間使ってきたことの影響が周辺で徐々に確認されつつある。

静岡市の水質調査
静岡市の水質調査

2023年 静岡市の調査で工場周辺の水路で目標値の54倍、井戸で26倍の高濃度が検出された。追加調査を続けると、さらに驚くべき結果がでた。

桁違いの高濃度に測定値の信頼度を疑う

静岡市の調査結果説明資料
静岡市の調査結果説明資料

工場に隣接する静岡市の三保雨水ポンプ場の排水から目標値の78倍から220倍(3900~11,000ng/L)のPFOAが検出された。工場周辺の水路や井戸と比べると桁違いの高濃度だ。あまりの数値の高さに、市は測定値の信頼度を疑い、別の研究機関にも測定を依頼して数値の信頼度を確かめたほどだ。

雨水ポンプ場は周辺に降る雨水を地下に埋設した管を通じてポンプ場に集め、ポンプアップして海に排水するものだ。毎日1万トンを排出する。公共の施設から、目標値を大幅に上回るPFOAを含んだ水が毎日大量に海に流れ出ていたわけだ。

調査結果を説明する静岡市・難波市長(12月12日)
調査結果を説明する静岡市・難波市長(12月12日)

調査結果を説明する記者会見で静岡市の難波喬司市長は「海に入ると海水をぶつかり薄められるが、(高濃度の)排水を(市の施設が)出しているのは事実だ。大問題だ」と、ことの重大性を口にした。

静岡市が三保雨水ポンプ場につながる雨水幹線(地下配管)を調査したところ、工場敷地の直下を通る管から目標値の500倍(25,000ng/L)が検出された。工場によると、管が埋設された場所の近くで、PFOAを扱う作業をしていたという。配管は地下水位よりも低いところに埋められていて、市は「管に亀裂があり、PFOAを含んだ工場からの地下水が流れ込んだ」とみている。
難波市長は「工場付近の雨水管がものすごい高濃度なので、工場内がきわめて高く、それが拡散していると思うので、地下水を周辺に出さない対策をとる」と、今後の方針を示した。

静岡市は三井・ケマーズフロロプロダクツと協議し、三保雨水ポンプ場に浄化設備を設置するほか、破損個所の補修など雨水幹線に地下水が流れ込まないよう対策をとる。また事業者側は中長期的対策として、工場敷地と周辺との境界に地下水遮水壁を設置することや、雨水の浸透を防ぐため敷地内の土をコンクリートで覆うことを検討する。

工場の煙突からも大気中に拡散か

今回の追加調査で、もうひとつ静岡市が予想外だったことがある。それは工場から離れた場所でも、地下水の濃度が目標値を上回ったことだ。

工場から直線で2~5kmほど離れた折戸地区や駒越地区で、調査した井戸(淡水)のすべてで目標値を上回った。3倍から7倍の濃度だ。静岡市の地下水の流動解析で、三保地区から折戸地区や駒越地区に地下水(淡水)が流入しないことがわかっている。折戸地区や駒越地区の河川の濃度は低く、河川からの浸透は考えられない。

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場
三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

難波市長は「水が原因ではないので、工場操業中に煙突から排出して大気を通じてではないかと推定される」との見解を述べた。工場の煙突から排出されたPFOAが地面に付着し、雨水に溶けて地下に浸透したのだろうか。
静岡市は三保・折戸・駒越地区の井戸は、当分の間 飲用を控えるようよびかけている。また清水区内の井戸水調査を、範囲を広げて行うことにした。

難波市長は「三保地区は工場地下水が周辺に回っているので、回っていかないよう措置すれば、ある程度(濃度が)下げられるが、(離れた)折戸・駒越地区は対策の取りようがない」と、困惑の様子だ。

ただ市民には過度に心配しすぎないよう呼びかけた。難波市長は「PFOAは世界中にどう流通しているかもわからないので、食品は予防のしようもない。健康被害が出たという明確な証拠はない。水道水だけは気を付けてほしいが、静岡市は清い水なので静岡市の水道水を飲んでいれば健康に問題はない」と話す。
市は市民向けの相談窓口を設置した。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
テレビ静岡

静岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。