今季、GPシリーズ第2戦スケートカナダで3位表彰台に輝いた松生理乃(まついけ・りの、19)。

ここまで絶好調の松生だが、昨シーズンは苦しんでいた。

“逆襲のシーズン”として位置付けた今季。

12月21日から開幕する全日本選手権では「過去の自分を超えたい」と意気込む。

苦悩のシーズン、転機は全日本のフリー

2020年の全日本ジュニア女王に輝き、推薦出場した全日本で松生は4位と好成績を収めた。

2021年のシニア転向後には四大陸選手権にも出場し、堂々の5位に。

しかし、2022-2023シーズンに狂い始めてしまったという。

9月、昨シーズンを振り返り心境を語ってくれた松生
9月、昨シーズンを振り返り心境を語ってくれた松生
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昨シーズンを松生は「何だろうな…」と少し考えながらも「苦しいことが多かったので、『苦』っていう感じ」と振り返る。

松生にとって昨シーズンは苦悩の連続だった。

GPシリーズに2戦派遣されるが結果を残せず、スケートアメリカでは体調不良で棄権した。

全日本でも13位と本来の力を発揮できず、日本スケート連盟の強化選手から外れてしまった。

2022年の全日本SP後、キスクラでぼう然とする松生
2022年の全日本SP後、キスクラでぼう然とする松生

今年の1月、松生は2022年の全日本についてこんな話をしている。

「ショートの落ち込みが一番大きくて。ショートが終わった後もフリーを滑るのも嫌だった。でもその場所で滑るチャンスをいただけたから、最後までしっかり滑り切らないといけないなと。

気持ちを入れ替えるのは簡単ではなかったんですけど、最後まで滑ることができてよかった。体調不良で思うように練習ができなくて、結果も出せなくて、すごくつらい期間が長すぎて“ちょっとスケートが嫌いだな”って思うことも少なくなかったです」

そんな苦しい期間も競技と向き合えたのは、家族やファンの存在があったからだと松生は語る。

「つらい期間を一番近くでみていたのが母です。『もうスケートをやめたいと思うならやめてもいい。全日本に出ると決めたなら後悔しないと思えるような清々しい演技をしてきてほしい』と言われて。

ショートではそれは叶わなかったんですけど、フリーを終えた後は悔しい気持ちもありつつも、清々しい気持ちで終われました。応援してくださる方たちの多さや温かさを改めて、一層感じることができて、“スケート続けようかな”という気持ちになることもできました」

練習に向かうためスケート靴をはく松生(12月)
練習に向かうためスケート靴をはく松生(12月)

2022年の全日本後からフィギュアスケートに対する気持ちも前向きになり始め、大会での声援を受けて「スケートやっぱり楽しいな」と思うことができたという。

「全日本のフリーを終えてから、自分が思っていた以上にいろいろな方に支えてもらっていると肌で実感できた。

自分の演技を見たいと思ってくださる方がいて、うまくいかなくても支えてくれる。そうした方々のために滑るのもありなんじゃないかと思いました」

去年は試合が「怖かった」

そして迎えた新シーズン、松生は今季を“逆襲のシーズン”として歩み始めた。

当初GPシリーズの派遣はなかったが、紀平梨花の欠場によりスケートカナダに派遣される。

その舞台で3位表彰台にあがり、調子の良さを見せた。

12月の愛知フィギュアで松生は高得点をマークし優勝
12月の愛知フィギュアで松生は高得点をマークし優勝

12月頭に行われたショートプログラムのみで争う「愛知フィギュア」では、非公認ながら71.64点の高得点をマークして優勝。これは今季の坂本花織、島田麻央に次ぐ高得点だ。

昨シーズンの苦しさは今シーズン、頑張ることができる源になっているようで、松生は「練習したくても練習できない時期があったので、普通に練習できることが、こんなにもありがたいことなんだということを感じることができました。

それは、やっぱり去年のあの経験がないとできなかったと思うので、それがあったからこそ、今楽しく普通に練習できていることがすごくありがたいと思っています」と話す。

試合への心持ちも変わってきたという松生(12月、愛知フィギュア)
試合への心持ちも変わってきたという松生(12月、愛知フィギュア)

「(去年は)試合が近づいてくるたびに、『試合に出るのが怖い』と思ったり、『出たくない』という気持ちがすごく強かった。

今シーズンはどの試合も楽しく迎えられるし、心の持ち方も違って、本当に良かったなと感じています」

氷上練習へと向かう松生
氷上練習へと向かう松生

そんな松生の今シーズンのフリーは、昨シーズンから引き続きのプログラムを選んだ。

その理由は「このプログラムがすごく好きなのに、去年はあまり良い成績を残せなかった。どこかでもう1年やりたいと思っていたので、このプログラムで良い成績を残したい」からだという。

全日本では「4位だった自分を超えたい」

今シーズン好調の要因を松生は「スケートカナダに行ってからすごく調子が良くなって。試合でも結構よくて、そこから1回も調子が落ちなくて、すごく良い状態のままキープできています。

こんなにキープできるのは珍しいと自分でも思うぐらい、今は調子の波がすごく少なくて、自分でもよくわからないですけど、カナダからずっとキープできています」と振り返る。

12月上旬、松生は全日本への目標を語ってくれた
12月上旬、松生は全日本への目標を語ってくれた

松生は4年連続4回目の全日本に向けて「ショート・フリーをノーミスして、後半の海外の試合に派遣してもらうことが今の1番の目標。

そういった目標はしっかり持ちつつ、あまり気負わないで、カナダの時みたいに、自分が今できることをやればいいということだけを考えて、楽しめる試合にしたいです」と意気込む。

氷上で練習をする松生
氷上で練習をする松生

「前までは、“自分なんて”という気持ちがすごく大きかった。今は『私も行きたい!』という気持ちがすごく強くなってきていて。

自分が今できる精一杯をやって、それがどんどん結果につながって、順位も上げていけるといいなと思っています」

勝負に対する貪欲さも増してきたという松生。試合へ抱いていた恐怖心も「楽しみ」な気持ちが強くなり、自信もついてきたと話す。

山下真瑚とリンクで笑い合う松生(9月)
山下真瑚とリンクで笑い合う松生(9月)

「今は、“全日本が怖い”ではなく、すごく楽しみな気持ちが大きい。自分の調子も、体のメンテナンスもすごくいい状態だと思うので、すごく楽しめそうだし、ちょっと、自分できる気がするって思ったりして、気持ち的にもすごくいい状態です」

自身の武器は「柔らかい曲調のプログラムで、流れの中でも途切れさせないこと。高い点とかではないですが、ジャンプ以外で魅了できるところは全部で魅了して、見ている方の心に届く演技をしたい」と語り、全日本では最初に出た際の4位だった自分を超えたいと意欲を見せる。

全日本では「心に残る演技をしたい」という松生
全日本では「心に残る演技をしたい」という松生

「ショートとフリーをノーミスすることは大前提として、それ以外の部分で、見ている方が、『ああ、心に残ったな』と思ってもらえるような演技がしたい。

失敗しないことと、観客のみなさま1人1人に気持ちを届けられるような演技がしたいです。うまくいけば、きっとその時の自分を超えられると思うので。超えられるように頑張ります!」

全日本までの道の詳しい概要はフジスケでhttps://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/index.html
FODで全選手・全演技LIVE配信

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班