「首尾一貫感覚」が高いかどうかで、日常で受けるストレスの対処が異なってくる。
首尾一貫感覚というのは、把握可能感(だいたいわかった)、処理可能感(なんとかなる)、有意味感(どんなことにも意味がある)の3つ。
ストレスマネジメント専門家で公認心理師の舟木彩乃さんの著書『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から、3つある首尾一貫感覚のうち、把握可能感(だいたいわかった)と処理可能感(なんとかなる)の高め方について、一部抜粋・再編集して紹介する。
人は“知らないこと”に恐れを感じる
いつものルーティンの仕事と、初めて任された大きな仕事と、どちらが不安でしょうか。
もちろん後者ですよね。大きな仕事を任されてワクワクしている部分もあるとは思いますが、初めての不慣れな仕事には、誰しも多かれ少なかれ不安を感じます。
人は慣れたものに安心しますが 、逆に知らないことに対しては恐れを感じます。
ただ、たとえ未知なものでも、それを自分なりにまあまあ理解できたり、ざっくりと説明がつく、予測がつくと思えたりすれば把握可能感は低下せず、そこまで恐れを感じません。
この記事の画像(5枚)例えば、海外の知らない街の道と、日本の知らない街の道を歩くときと、どちらが安心でしょうか。
どちらも知らない街ですが、日本国内でしたら「日本ならある程度治安はいいだろう。わからなくなっても人にきけばいい」と予測がつくため、そんなに不安は感じないはずです。
把握可能感は、自分の抱えている問題を何が原因で起きているのか、 そして今後どのようになっていくのかが、「ある程度理解できている」あるいは「納得のいく説明がつけられる」という感覚ともいえます。
したがって、「準備すること」は把握可能感を高めることにつながります。
未来の出来事について、「未知」であれば恐怖を感じることもあるでしょう。得体の知れないものを恐れるのは自然なことです。漠然とした不安にも駆られます。
だいたい「予測」できれば把握可能感高まる
しかし、未知のものであっても、それについて、自分なりに「説明がつく」「だいたい予測がつく」と思えれば、把握可能感へとつながります。
この「説明がつく」「予測がつく」ためにも、調べる、準備することが大切です。
初めてのクライアントに対するプレゼンでは、どのような展開になるかわかりません。
けれども、クライアントについて調べたり、自分の今までの経験からうまくいったことを確認したり、本やウェブなどでプレゼンがうまくいった人の例を学んだりして準備していくと、不安が減っていくと思いませんか。それは、「把握可能感」が高まっていくからです。
自分自身の中で「だいたいわかった」と納得するまで 、「これくらいやれば、まあうまくいくだろう」と思えるまで事前に調べること、準備すること。これが把握可能感を高めることにつながります。
「レッテル貼り思考」には要注意
把握可能感を高めるためには、「私は損するタイプ」「私はいつも軽く見られる」などど、ネガティブな自己像を作り上げて、固定化させてしまうような「レッテル貼り思考」に注意が必要です。
私のところにカウンセリングにくる人でストレスに弱い人たちの話を伺っていると、環境が変わってもすぐに不満をもっては、「私ばかり損している」「また軽く見られていた」と嘆いたり、落胆したりしがちです。
このような思考を繰り返していると、いい未来をイメージできなくなり、自分の身に起こっていることを把握したり、今後どうなるかを予測したりする目がくもってしまいます。
すなわち、自分のことを冷静に俯瞰してみることができなくなり、把握可能感は育ちにくくなります。
また、「レッテル貼り思考」と同様に「〜なはず」や「〜するべき」「~でなければならない」などの「すべき思考」に縛られすぎないことも大切です。
例えば、「絶対に時間を守るべき」「上司の言うことには従わなければいけない」と強く思いすぎると、「時間を守らない人」「事情があって、従えなかった人」をなかなか許すことができません。
断定的で一方的な思考になりがちで、視野が狭くなってしまいます。
自分の中の「レッテル」に向き合う
こうした「レッテル貼り思考」「すべき思考」が自分の中にないか、自分に向き合って考えてみることが大切です。
例えば次のような問いに答える形で考えます。
「自分の中に『自分は○○のタイプ』『いつも○○になってしまう』というようなネガティブなイメージはありますか?」
答えの例:
自分は損するタイプ。自分は仕事を押しつけられるタイプ。私はいつも我慢させられる。私はいつも面倒なことに巻き込まれる(レッテル貼り思考)
「『〜すべき』『〜すべきじゃない』と思うことはありますか?」
答えの例:
絶対に時間を守るべき。あんな乱暴な言い方すべきじゃない。上司の言うことには従うべき(すべき思考)
そして「私は本当に損するタイプなのか?得することはないか?」「絶対に時間を守るべき、と思っているが、本当にそうなのか。例外やゆるめていいケースはないか」など、自分の中のレッテル貼り思考やすべき思考を疑ってみることで、自分の思考の枠組みを広げてみるといいでしょう。
普段から自分のレッテル貼り思考やすべき思考を知っておき、できれば修正しておくと、自分の思考を広げることができます。
回避する行動パターンを変えてみる
処理可能感の「なんとかなる」と思える力が弱いタイプの人は、いつも物事をネガティブにとらえたり、考えたりしてしまいがちです。結果、未来に対してよいイメージをもちにくく、行動に移すことが苦手だったりします。
例えば、上司から取引先をまわって注文をとってくるように言われ何社もまわったのに、1件も注文がとれなかった場合、すぐに「やっぱり自分はダメだ」と思ってくじけてしまうのがこのタイプです。
このようなネガティブなとらえ方をしてしまうと、その後の行動パターンが消極的になるなど「回避する行動」をとることが多くなります。
「できない→自分はダメだ→自分が信じられない→挑戦しない(回避する)」という思考の流れです。
こうした思考のまま同じ回避する行動パターンを繰り返していくと、「なんとかなる」と思える力はますます弱まっていきます。挑戦しないのですから、「なんとかなった」成功体験を積めないのです。
回避する行動パターンを変えていく方法として「行動療法」があります。
回避する行動を選択する背景には「またできないかも」「できなかったらどうしよう」といった不安や恐怖があります。
不安や恐怖があるから挑戦を避け、逃げてしまうのです。
回避する行動は一種の「現実逃避」で、短期的には不安や恐怖の軽減に役立ちます。しかし、最終的になんの解決にもつながっていないことから、長期的には不安感や恐怖感がさらに強まり、自信も失っていきます。
回避する行動をやめるには、どうしたらいいでしょうか。
「先のことは深く考えずに思いきって行動する」ことです。「とりあえずやってみる」のです。
先ほどの例でいえば、注文がとれなくてもネガティブなことを考えず、「今日はダメでも明日はいけるかもしれない」「とりあえず次の会社に行ってみよう」と、とにかく行動(挑戦)してみるのです。
営業などは、何度も断られていると慣れてきますし、断られることは自分自身を否定されているわけではないことに気づいてきます。
やっているうちに、何回かに1回は成功して、「なんとかなった」という成功体験も積めるようになります。
行動していくうちに、結果として、最初の漠然とした不安や恐怖は減っていくでしょう。
舟木彩乃
ストレスマネジメント専門家。公認心理師。株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、近著に『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ「首尾一貫感覚で逆境に強い自分をつくる方法』(河出書房新社)がある