もの言わぬ“被爆の証人”。その保存・活用にようやく道筋がついた。広島市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」について、国の文化審議会は文部科学大臣に対し、重要文化財に指定するよう答申した。

指定の理由に「歴史的価値が高い」

国の文化審議会は、11月24日、広島市南区にある「旧陸軍被服支廠」の4棟すべてを重要文化財に指定するよう文部科学大臣に答申した。

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旧陸軍被服支廠は1914年に建設され、軍服や軍靴などの製造・貯蔵を担う施設だった。主な構造は鉄筋コンクリート、外壁はレンガ造りという希少な建造物で、鉄筋コンクリート造りとしては“現存する最古級の建物”である。

また、爆心地から約2.7キロの場所にあり、原爆投下直後は臨時の救護所として多くの被爆者を受け入れた。戦後は企業の倉庫や学校の教室として使われ、1994年に広島市が被爆建物として登録。審議会は重要文化財指定の理由として、技術的に優れ、歴史的に価値が高いことを挙げている。

2019年の“解体の危機”乗り越え…

旧陸軍被服支廠の4棟のうち3棟は広島県が所有し、1棟を国が所有。

その活用策をめぐっては、過去に瀬戸内海文化博物館やロシア・エルミタージュ美術館の分館などの構想が浮上したがいずれも実現せず、解体の危機に直面したこともあった。
建物の活用策が決まらない中、2019年、広島県議会では…

広島県 財産管理課・課長(当時):
1号棟を保存し、2・3号棟を解体撤去するという苦渋の決断をしたところでございます

県は耐震化工事に3棟で約100億円かかるという試算や近隣住民の安全対策などを理由に「1棟を保存し、2棟を解体」する方針を打ち出す。しかし、全面保存を求める声が被爆者や住民から相次ぎ、県は全棟を保存する方針に転換。

建物の壁の補強調査などを実施し、耐震化費用を1棟あたり約5億8000万円と試算したが、県単独で3棟を工事するのは難しいとして、国に被爆建物保存のための補助金の拡充を求めていた。

そして、2023年8月6日。原爆の日に広島市を訪れた岸田首相は、建物の活用方針が定まれば、重要文化財指定の手続きを進めると表明。

岸田文雄 首相:
文化財指定の文化審議会の審議、そして国の関連事業を通じた支援、こうしたものを速やかに行ってまいりたい

11月8日には政府の2024年度予算編成に向けた施策の提案として広島県の湯崎知事が文部科学省を訪れ、「重要文化財の指定」を求めたうえで、国の財政支援を要望した。

11月8日、文部科学省を訪れた広島県の湯崎英彦知事(左)
11月8日、文部科学省を訪れた広島県の湯崎英彦知事(左)

活用策は“市民を巻き込む”決め方に

審議会の答申を受け、旧陸軍被服支廠の保存を訴えてきた被爆者や市民グループからは今後の活用を期待する声が上がっている。

被爆者・切明千枝子さん(94):
文化財というにはあまりにも血なまぐさいけど、ちゃんと残して二度と軍国日本になることがないように願っております

切明さんは被爆前、旧陸軍被服支廠内の保育園に通っていた。今後の活用について「倉庫がどういう歴史をもって、どういう使われ方をしてきたかがわかるような展示も一緒にしていただきたい」と話す。

切明さんは後ろの列の左から5番目
切明さんは後ろの列の左から5番目

被服支廠 保存活用キャンペーン・瀬戸麻由さん:
審議会の答申はすごく良いニュース。前に進むニュースと思いつつも、これからどうなるのか、というのを改めて考えていかないといけない。活用策の決定は市民を巻き込んだプロセスになってほしいと思っています

重要文化財に指定されると耐震化など安全対策費の2分の1を国が負担することになり、将来にわたって保存・活用されることが期待される。県は2023年3月に今後の活用策として次のような案を示している。

【広島県が示す「旧陸軍被服支廠」活用の方向性】
●来訪者の交流促進(例:アート作品の展示など)
●歴史や平和の学習(例:平和資料館など)
●広島を体感(例:イベント会場など)

旧陸軍被服支廠の歴史的価値を未来へ継承するために、どのような活用策を打ち出していくのか。行政はもとより、私たち市民も知恵を絞る必要がある。

(テレビ新広島)

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