日銀による金融政策の修正を受けて、長期金利が上昇する中、大手銀行で定期預金金利を引き上げる動きが広がっている。

3行では、6日から引き上げが実施される。デフレからの脱却が進まないなか、超低金利が長らく続いてきた国内経済は、「金利のある世界」の本格的到来が視野に入ってきた可能性がある。

10年金利「100倍」の銀行も

三菱UFJ銀行は、6日から、5年以上の定期預金金利を引き上げる。これまで一律0.002%に設定していたが、10年では、0.2%とし、100倍にするほか、5年と6年は、0.07%、7年8年そして9年は、0.1%に引き上げる。

三井住友銀行も、10年定期の金利を0.002%から0.2%へと、100倍に引き上げることを決めた。時期は調整中としている。

みずほ銀行も引き上げを検討中だ。

信託銀行でも、6日から、三井住友信託銀行が、5年定期の金利を0.07%、7年を0.1%へとこれまでの0.002%から引き上げるほか、三菱UFJ信託銀行も、5年を0.002%から0.07%にする。

10月末の決定会合では長期金利「1%超え」を容認することを決めた
10月末の決定会合では長期金利「1%超え」を容認することを決めた
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こうした動きは、日銀が、イールドカーブ・コントロールと呼ばれる、金利をめぐる操作の運用を柔軟にしてきたことが背景にある。

日銀は、7月に長期金利の上限を事実上1%に引き上げたのに続いて、10月末の決定会合では、「1%の上限」を「めど」と位置づけ、長期金利が1%を超えてある程度上昇するのを容認することを決めた。

11月1日、10年物国債の利回りは一時0.970%をつけた
11月1日、10年物国債の利回りは一時0.970%をつけた

こうしたなか、長期金利は上昇傾向を強め、1日には一時0.970%と約10年5か月ぶりの水準をつけて、1%に迫ってきている。

これまで、ネット銀行などでは高い水準の金利を提供するところも出ていたが、今回大手銀行で相次ぐ定期金利引き上げには、長期金利上昇を踏まえ、利子収入を求める家計からの預金を確保しようというねらいが見て取れる。

金利上昇の影響は保険商品にも

長期金利上昇の影響は、保険商品にも及んでいる。

住友生命保険は、契約時に保険料をまとめて支払う一時払い終身保険の予定利率を、11月1日以降の契約分について0.9%から1.0%へと引き上げた。

契約者に約束する利回りである予定利率が上がれば、同じ額の保険金を受け取るのに必要な保険料は少なくなる。引き上げは2カ月連続で、例えば、60歳の男性が保険金額を1000万円に設定した場合、これまで約875万円だった保険料は、約856万円になるとしている。

明治安田生命保険は、子どもの将来の教育資金を積み立てる学資保険について、12月の契約分から予定利率を0.75%から、1.3%に引き上げる。0歳の子どもがいる30歳の男性が、子どもが18歳になったあとに受け取る総額を280万円に設定して10年間保険料を支払うケースでは、月々の保険料が1700円程度安くなるとしている。

住宅ローン変動型はどうなる

一方、長期金利の上昇は、住宅ローン固定型金利の引き上げの動きにつながってきている。

3メガバンクの11月適用の住宅ローン金利は、10年固定の最も優遇されるタイプで、三菱UFJ銀行が10月に比べ0.10%高い1.04%、三井住友銀行は0.15%高い1.29%、みずほ銀行が0.10%高い1.55%となった。

ただ、この引き上げには、日銀が10月末に決めた金利操作の再修正による長期金利の動きは反映されておらず、12月以降の固定型金利は、さらに上がっていくとの観測も出ている。

12月以降の固定型金利はさらに上がっていくとの観測も
12月以降の固定型金利はさらに上がっていくとの観測も

固定型が上昇傾向を強める一方で、利用者の7割が選んでいるとされる変動型金利は、3行とも据え置いていて、当面は上がるとの見方は少ない。変動型金利は、短期金利の動向が反映されるが、日銀が、長期金利では1%を超える一定の上昇を容認しているものの、短期金利はマイナス0.1%に誘導する「マイナス金利」政策をとっているためだ。

ただ、日銀が、将来的に「マイナス金利」政策の解除に動けば、変動型も影響を受ける公算が大きい。変動型金利がいつ上昇するかは、日銀がどの時点で、解除に踏み出すのかに左右されることになるが、日銀の判断の重要な要素となるのが、物価上昇とともに持続的な賃上げが実現するかどうかだ。

日銀の政策変更判断はいつ?

植田総裁は、10月31日の決定会合後の会見で、物価安定目標について「十分な確度をもって見通せる状況にはなお至っていない」とした上で、2023年の春闘で広がった高水準の賃上げが、2024年も持続するかが大事なポイントになるとの認識を示している。

つまり、住宅ローン変動型金利の上昇につながる日銀の政策変更の可能性は、2024年の春闘をめぐる賃上げ機運の高まりが、カギを握ることになる。

「金利のある世界」が本格的にやって来れば、超低金利を前提に提供されてきた金融機関のさまざまな商品やサービスが大きく変わっていくことが想定される。

日銀の政策がどうなるかや金利の動きを注視しながら、家計や資産運用の見直しが必要かを判断することが大事な局面になりつつあると言えそうだ。

(執筆:フジテレビ解説副委員長/サーティファイド ファイナンシャル プランナー(CFP)
智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員