10月22日に投開票が行われた宮城県議会議員選挙。最大勢力・自民党は前回2019年の選挙と比べ議席を4つ減らし、県政与党として過半数割れとなる結果となった。
こうした中で注目を集めたのは、あっせん利得処罰法違反で起訴された現職議員の行方と、東北初の議席を目指した日本維新の会の戦いだ。様々な風が吹き荒れた9日間の選挙戦を追った。

この記事の画像(15枚)

逮捕・起訴された現職の選挙戦

この戦いはもちろん多賀城・七ヶ浜の将来を、宮城県の将来を見据える戦いです。しかし私にとっては一生をかけた戦いなのです。

力強い口調で第一声に立ったのは、多賀城・七ヶ浜選挙区の仁田和広氏(73)。

仁田氏は、2021年2月の福島県沖地震で被災した中小企業などを支援するグループ補助金を巡り、塩釜市の水産会社社長から申請した金額通りに交付されるよう依頼され、2022年1月、審査を担当する県職員に「本会議で問題にする」などと影響力を行使し、その報酬として50万円を受け取った疑いで2022年9月に逮捕され、翌月、起訴された。

仁田氏は逮捕当初から一貫して無実を主張。2023年7月には「七ヶ浜町民と多賀城市民の500人以上と会い、皆さんが潔白を証明してくださいということだった」とし、9回目の当選を目指し県議選出馬の意思を固めた。

9選目指す戦い

迎えた告示日当日。仁田氏の事務所前には約50人ほどの支持者が集まった。事務所には「私は無実です」と記載されたポスターもあった。

「この選挙までに七ヶ浜町では約7000軒、多賀城では約3000軒回った。辻立ちも連日行った」と話していた仁田氏。支援者を前に今の思いを語った。

「今回大変苦境に陥りました。潔白であるにもかかわらず、急にこのような事態。36歳で漁協の組合長にさせていただいて40歳で県議会議員となり、73歳でこんな体たらく。私は本当に皆さんに向ける顔がないんです。しかし私は潔白ですから、ぜひとも信じていただいて、この選挙勝たせていただいて、そして将来的に私のような立場の人間が生まれないようにしようと思っております」

仁田氏は逮捕後、所属していた自民党を離党。県議会会派「自由民主党・県民会議」も退会した。無所属となり、組織票が見込めなくなった選挙戦。車で選挙区内を周ると、家から出てきて手を振る人の姿もあった。

「8期32年」の実績、揺るがない地盤の強さを感じさせた瞬間だった。

拭えなかった疑惑

9日間の選挙戦を終え、迎えた投開票日。仁田氏に突き付けられたのは、厳しい現実だった。

午後10時ごろ。大勢が判明。そのおよそ30分後、仁田氏は事務所に集まった支援者のもとに駆け付け、静かに頭を下げた。

定数2の多賀城・七ヶ浜選挙区。仁田氏は4人いた立候補者で、最下位となる2685票だった。

仁田氏は事務所前で報道陣の取材に応じ「町民の信頼を裏切ったという結果。しかし、今後とも、私自身は無実なことを皆さんに訴え続けてまいりたい。73歳の老骨にむちを打ちながらやった。これ以上やれないところまでやったなと…」と述べ、政界を引退する意向を示した。

仁田氏の事件は現在、公判前整理手続が進められている。

東北地方の新勢力となれるか

「全員当選を目指す」

県議会議員選挙告示日の10日前の10月3日。仙台市内で行われた日本維新の会の記者会見で、党の県組織・宮城維新の会の早坂敦代表(衆院比例東北)はこう宣言した。

宮城維新の会 早坂敦代表 
宮城維新の会 早坂敦代表 

2023年7月の仙台市議会議員選挙で全5選挙区に候補者を擁立し、全員が当選を果たした日本維新の会。その後も、翌8月の塩釜市議会議員選挙では新人がトップ当選。その勢いは現職議員たちの脅威となり、どの選挙区に何人の候補者を擁立するのかが注目されたが、結果として擁立したのは4人。現職議員からは「拍子抜けした」という声も聞かれた。

党関係者は「せめて仙台市内の5区には擁立したかった」と本音を漏らす一方、「仙台市議選後に〝日本維新の会から出馬したい〟という声が多く寄せられたが、誰でも良いというわけではない。慎重に候補者を選定していった」と説明した。

少数精鋭の選挙戦

日本維新の会が候補者を擁立したのは、仙台市内の「青葉選挙区」と「泉選挙区」。残りの2人は、仙台市の北部に位置する4市町村から構成される「富谷・黒川選挙区」と、沿岸部の石巻市・女川町から構成される「石巻・牡鹿選挙区」だった。

青葉選挙区の石森悠士氏(45)は、選挙戦で「今の県政ではできない部分を、日本維新の会の力で、石森悠士の力で変えていきたい」と述べ、国政同様「身を切る改革」を実践することを強調した。

青葉選挙区に立候補 石森悠氏氏(45)
青葉選挙区に立候補 石森悠氏氏(45)

党としても連日、国会議員が宮城県入りして候補者たちを後押し。候補者は「商店街を歩いていると声をかけられる」と手応えを感じているようだった。

仙台入りした日本維新の会 馬場代表
仙台入りした日本維新の会 馬場代表

一方で、ある党関係者は「地方では厳しい戦いになるかもしれない」とも話していた。元々、地方には組織票が多い現状があり、浮動票が少ない。宮城維新の会としての活動も絶対的に足りていない。「改革路線に期待し、票を投じる人が少ないのでは」そんな不安があったと話す。

不安的中…仙台市内でも厳しい戦い

党幹部の不安はそのまま結果として現れた。定数5の泉選挙区では7人中3番目の得票数で当選を果たしたが、定数7の青葉選挙区では10人中7人の最後の1枠に滑り込んだ形に。次点とはわずか42票差だった。

定数3の富谷・黒川選挙区は5人中4番目の得票数で落選。定数4の石巻牡鹿選挙区では6人中5番目の得票数で落選した。東北初の議席は獲得したものの、仙台市議選のような勢いはみられなかった。

富谷・黒川選挙区(定数3)に立候補 三浦かおり氏  5人中4番目の得票数となり落選した
富谷・黒川選挙区(定数3)に立候補 三浦かおり氏  5人中4番目の得票数となり落選した

落選した候補者は、自民党に逆風が吹いていた国政とは違い「地方での自民党系の強さ」を感じたと語る。「なぜ身を切る改革が必要なのか、時間をかけて地方にも浸透させていく必要があると感じた」と振り返った。

また、取材を通じて気になった点も。「身を切る改革」など大枠の政策を主張した候補者が多かったが、地域個別の課題に言及した候補者が少なかったように感じたことだ。

ある候補者は県内では大きな議論を呼んでいる県の病院再編問題について見解を問うと、他の候補者と比較して曖昧な回答だった。地方の選挙ではそうした政策主張も求められるだろう。

見据える先は「次なる戦い」

日本維新の会の関係者は、今回の選挙戦を振り返り「関東地方の埼玉県、千葉県、群馬県、栃木県の県議会が1議席で留まる中、2議席獲得という結果は一定の評価はできる」と話し、宮城維新の会の早坂代表は「街中は勝てるが、地方が厳しいという結果は我々にとっては悔しい。活動量や時間が足りなかった部分もある」とした。

その上で早坂代表は「衆議院議員選挙では全5選挙区に立候補の擁立を目指す」と明言。
見据える先は、すでに次なる戦いに向かっている。

主に関西地方で党勢を拡大している日本維新の会。
東北地方にどれだけ浸透することができるのか。今後の動向が注目される。

(仙台放送)

仙台放送
仙台放送

宮城の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。