秋田と青森にまたがる白神山地がユネスコ・世界自然遺産に登録されてから2023年で30年を迎えた。手つかずの自然環境の価値が見直され、地域が誇る遺産と認められた「白神山地」のこれまでの歩みを振り返る。

「世界自然遺産」登録に至る道のり

白神山地は秋田と青森にまたがる約13万ヘクタールの森林地帯で、世界最大規模のブナの原生林が広がり多様な生き物が生息している。

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1993年12月にユネスコ国連教育科学文化機関の世界自然遺産に登録された。
登録されるきっかけは1981年に始まった青秋林道の整備だ。秋田県の旧八森町と青森県の西目屋村を結ぶ全長約30kmの林道で、優れた自然環境が保たれた白神山地の核心地域を分断する計画だった。

林道整備によって伐採された木々
林道整備によって伐採された木々

国は地域振興などを目的に事業を承認したが、環境への影響を心配した自然保護団体や地域住民が反対運動を起こし、1988年に林道建設は中止となった。

これを機に、白神山地の価値は見直され保護する気運は高まる。1992年に政府が自然環境保全地域に指定。そして1993年には、手つかずの自然が残る約1万7,000ヘクタールの登録にこぎつけた。

白神山地には豊かな自然が広がっている
白神山地には豊かな自然が広がっている

世界自然遺産の登録について、白神山地のブナ原生林を守る会の鎌田孝一さんは「『自然環境保全地域』の指定だけでも十分だと思っていた。それが、世界遺産まで登っていったのでこんなにうれしいことはない」とうれしさを語っていた。

それから30年。地域が誇る自然遺産は、地域活性化に大きな役割を果たしている。

地域に活気をもたらす「白神の恵み」

2010年、東京の大手化粧品メーカー「アルビオン」が白神山地から流れ出る藤里町の質の高い水に注目し、この水で新たな化粧品を開発しようと町に研究拠点を設立し雇用を創出、経済の発展に結びつけた。

また、農業にも新しい風を吹き込んだ。地域で生産されている白神ねぎ・白神ラム・あきた白神りんどうなどの農畜産物は「白神」ブランドとして販路の拡大に一役買っている。

さらに2019年には白神山地の秋田県側の自治体、能代市・藤里町・三種町・八峰町でつくる「あきた白神ツーリズム」が立ち上がり、「白神の恵み」をコンセプトに外国人の誘客にも力を入れている。

白神山地の自然を次世代につなぐために

さまざまな面で周辺に恩恵をもたらしてきた白神山地だが、秋田県立大学の蒔田明史副学長は、取り巻く環境の最近の変化に警鐘を鳴らしている。生態学が専門で、20年以上前から白神山地の環境調査をしている蒔田さんは地球温暖化が白神山地の生態系に何らかの影響を及ぼすと指摘する。

秋田県立大学・蒔田明史副学長:
このまま温暖化が続けば、白神山地でもブナの生育に適さない環境になっていくだろうという予想が出ています

白神山地の豊かな自然を次の世代につなぐため、身近な環境問題に関心を持つことがいま私たちに求められている。

秋田県立大学・蒔田明史副学長:
森の変化はとてもゆっくりしてるので気づかない。気づいたころには大変なことになっているというのが普通。そういうことにできるだけ早く気づいて、防ぐためには何ができるか、みんなで考えることが大事です

(秋田テレビ)

秋田テレビ
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