妊娠中の胎児の染色体異常を母体の血液検査だけで調べる「出生前検査」。この新しい検査を受ける妊婦が増えている。流産のリスクがなく、この10年間で10万人以上が受検した。ただ陽性となった場合、人工中絶が選択肢に加わる。検査を受けた夫婦は「専門医によるカウンセリングが重要だった」と話す。
新しい出生前検査「NIPT」とは
出生前検査はこれまで、超音波(エコー)検査や、妊娠時の子宮内を満たす羊水を調べる検査が一般的だった。
この記事の画像(11枚)ただ近年、妊婦の「採血」だけでダウン症などの染色体疾患の可能性を調べる新型出生前検査=NIPTが開発された。
羊水検査は腹部から針を刺し羊水を抜き取るため漏えいのリスクがあり、流産につながることもある。検査による流産の確率は300人に1人ほど。NIPTは採血検査のため流産のリスクがなく、検査を受ける人が年々増えている。
玉村千代医師:
NIPTは流産のリスクはないけれど、あくまで染色体疾患の可能性を調べる検査。それで病気が診断されるわけではない。確定診断には羊水検査が必要になる
NIPTで陽性、つまり染色体疾患の可能性が高いとなった場合、「人工中絶」という選択肢が加わることになる。実際に陽性診断を受けた妊婦のうち、福井大学病院では半数が「生まない選択」をしている。
「認証施設」は費用が高額に
胎児のエコー写真を見せてくれたのは、12月に初めての出産を控える福井県内の夫妻。妊娠14週の時、福井大学病院でNIPTを受けた。
妻:
結果が出るまでそわそわしたけど、考えすぎても仕方ないと自分に言い聞かせていた。気にしないようにしていた
検査の結果は陰性。費用は保険適用外のため21万円余りを支払った。
福井大学病院のように専門医などがいる施設は日本医学会の認証を受けており「認証施設」と呼ばれる。検査前と検査後には、必ず専門医などを交えたカウンセリングを実施。検査を受けた夫婦は、検査前に医師から詳しい説明を受けられたことがよかったと振り返る。
夫:
結果が出た上で堕胎するという可能性もあるが、受けるからにはそこをちゃんと考えた上で、検査を受けるかを決められますかという話があった
妻:
カウンセリングはあったほうがいいと受けてみて思う。夫婦で話し合う機会を促してくれるので
一方、高額な費用は夫婦に重くのしかかる。それを避けるため、半額ほどの費用で検査ができる「非認証施設」を使う妊婦が半数ほどいるというデータがある。検査前の説明が不十分、専門医がいない、陽性が出た場合のフォロー体制が十分でないという指摘があるが、検査費を優先する人が多いのが実情だ。
NIPTはあくまでも陽性の可能性を調べる検査で、羊水検査を行って病気の有無や病名を確定する。ただ確定検査を行う前に、人工中絶を選択するケースもあるという。
「命の選択」気持ちに寄り添って
早まった選択を防ぐため、認証施設である福井大学病院では検査の前後に必ずカウンセリングを行っている。
玉村千代医師:
病気の可能性が高いとなったときは、赤ちゃんが具体的にどんな将来になっていくのか、どんな支援があるのかをお話しするようにしている。実際に結果が出てくると、やっぱり気持ちが変わっていくこともある。妊婦健診で赤ちゃんの動いている様子を見たり、胎動が出てきたりすると、気持ちが変わることもあるので、その時の妊婦さんの気持ちに寄り添うようにしている
陽性と確定診断を受けた後に産むという選択をした家族のために、福井では医療機関、行政、民間が連携した支援体制が構築されている。
技術の進歩で検査が手軽になり、活用する妊婦が増えている。その一方で、わが子の「命の選択」に直面する機会も増えている。
玉村千代医師:
家庭ごとに事情があると思うし、そういう方の不安をなくしてあげられたらいいと思う。陽性が出たとしても、ご夫婦の希望に沿った医療の提供ができたらいいのかなと思います
(福井テレビ)