性的少数者への理解を深めようと、様々な団体で勉強会などが開かれている。こうした中、石川県に住むトランスジェンダー女性に密着し、この女性が訴えたい思いを聞いた。

リアルを知ってもらいたい

石川県内に住む、まみさん(仮名)。生まれつき割り当てられた性が男性で、自ら認識する性が女性の、いわゆるトランスジェンダー女性だ。「昔までは、取材を受けると自分の事がバレるんじゃないかと思ったんですけど、やっぱりその実情、リアルを知ってもらいたいということで今回はインタビューを受けさせてもらいました」。

まみさん(仮名・右)
まみさん(仮名・右)
この記事の画像(12枚)

街でトラブルを避けるため、常に携帯しているのが、病院で受け取った診断書だ。「性同一性障害」と記されている。「これが、医療機関が私はトランスジェンダーですよ、ということを証明してくれる。護身用かなと思って」とまみさんは話す。

携帯する診断書
携帯する診断書

理解を深めるための取り組み

今、石川県は「LGBT理解増進条例」を提出しようとしている。しかし馳浩石川県知事は「『条例提出は時期尚早ではないか』『県民に丁寧に説明し、理解を得るべきではないか』。こうした意見が多くありました」と話し、9月議会での条例案提出を見送ることとした。LGBTQ+という言葉は浸透していても、理解が深まっていないというのが見送りの理由だ。

馳浩石川県知事
馳浩石川県知事

2023年8月、金沢泉丘高校の生徒がLGBTQ+の当事者を招いて、勉強会を開いた。まみさんもこのイベントに参加し、生徒からの疑問に答える。「こっちも分かるんだよね。『あ、ちょっと距離置かれてるな』とか。そしたらこっちも『あまり喋らない方がいいのかな』となる。そうするとだんだん隔たりが出来てくるわけだから。理解というのは、普通に接してくれればいい。LGBTQ+とか、そういうのは抜きにして」とまみさんが伝えると、生徒たちは熱心に相槌ちを打ちながら聞いていた。

まみさんの話を聞く生徒たち
まみさんの話を聞く生徒たち

カミングアウトする怖さ

まみさんが様々な場所でトランスジェンダーの実情を伝えている背景には、過去に起きた辛い経験があった。そのことについて尋ねると、まみさんは青い表紙のアルバムを見せてくれた。「昔、私が教員だった頃の卒業アルバムです。ネクタイ締めているんですけどね」。

約15年前まで、まみさんは石川県内で中学校の教師をしていた。しかし、勇気を出してカミングアウトした後、研修施設への異動を命じられ、教壇に立つことができなくなったという。「ホルモン療法をしたいということで、性同一性障害の診断書を出して病気休暇を取りたかったんですけど、当時の校長先生に『これを出すのは、あなたが石川県で初めてですよ』と言われた。『これからのキャリアに影響してきますよ』ということを暗に言われた感じで。実際にそれを出した次の年は、学級担任から外されましたし」。まみさんはその後、心のバランスを崩し退職することになった。

現役の教師たちに語りかける

次にまみさんが講演に訪れることが決まったのは、金沢市内の中学校だった。話を聞くのは現役の教師たちだ。講演会を控えたまみさんは「デリケートな事なので、子どもにとっては相談することがすごく勇気のいることだし。何でも話していいよという素地が先生の中で共有できていれば、私はすごく素敵だと思うんです。そういう先生になってほしいということで、私のライフヒストリーを話をさせていただこうかなと思っています」と教育現場に対する思いを話した。

金沢市立浅野川中学校
金沢市立浅野川中学校

講演会を企画した浅野川中学校の養護担当、従二京子教諭は「今まで生徒と出会う中で、そういう相談を受けたこともあって。この生徒は何も悪いことをしていないのに、何でこんなに苦しまなくてはいけないのかと。まず先生方が理解をして、相談しやすいような環境整備をする必要がある」と理解の必要性を強調する。

従二京子教諭
従二京子教諭

今回の講演会では、4人の当事者がLGBTQ+の基礎知識に加え、自らの実体験を話した。あるトランスジェンダーの男性は、当事者の7割以上が「公言しづらい」と答えたアンケート結果などを示したうえで、「本当に困っている人たちが、困りごとを自分の中だけで留めているから『いないように見える』というのが、本当の姿なんじゃないかと思っています」と訴えた。

きっと未来は変わっていく

いよいよ、まみさんの出番。「あるトランスジェンダーの回想録」というテーマで、自らの経歴や経験について語り始めた。「肩書は元教員、ニューハーフ、金沢にじのまスタッフ。教員免許は5つほど持っていたんですけど、更新しなかったので免許はなくなりました」。教員時代、性同一性障害の診断書を学校側に提出した時の辛い経験も打ち明けた。「伝えたいのは、もし同僚や友人、家族に性的マイノリティの当事者がいたら、彼らをいなかったことにしないようにしてほしい。私は診断書を出した時に『なかったことにして』と言われて非常に困りました、悩みました。そして自分の性に悩んでいる生徒がいたら専門の相談機関につなげてほしいと思います」。

「やっぱりLGBTQ+の当事者にとって、社会からの差別や偏見はあります。でも自分はこうなんだと、私はいますと、ここに生きているんだということを発信することで社会との垣根を少しずつ低くしていきたいなと思って、今日は皆さんの前でお話させていただきました」。約10分間。思いの詰まったメッセージを伝えた。講演を終えたまみさんは「一生懸命聞いてくれているなということはすごく感じたので、私も自分の伝えたいことがきちっと伝えられたのかなと思います」と手応えを感じていた。「生徒を教える先生方がやっぱり頑張ってほしいし、本当に情熱を持って教育の現場で頑張っていただければ、きっと未来も変わっていくんじゃないかと思っています」。正しい理解を広めることで未来は変わる。まみさんは今後も様々な場所でメッセージを伝えていくつもりだ。

(石川テレビ)

石川テレビ
石川テレビ

石川の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。