富士宮市の病院で男が入院中の妻と娘を刃物で刺した上、自殺を図り計3人が死亡した事件で、妻と娘は共に意思疎通が困難な状態だったことがわかった。近隣住民によれば半年ほど前から、男にはある変化が見られたという。
複数の刃物を持ち込み“面会”に
9月27日午後2時半前。静岡県富士宮市にある富士脳障害研究所附属病院の関係者から警察に1本の電話が入った。
「入院患者が刺された」
刺されたのはこの病院の療養病棟3階に入院する女性(72)と別の部屋に入院する女性(40)で、共にその場で死亡が確認されたほか、犯行に及んだ男(73)は自殺を図り搬送先の病院で死亡が確認された。
事件は女性(72)の部屋でアラームが鳴ったため看護師が様子を見に行ったことで発覚し、その後の調べで、被害に遭った女性2人は男の妻と娘であることがわかった。
この記事の画像(4枚)娘と男は刃物が刺さった状態で見つかっていて、警察はいずれの刃物も男が持ち込んだものと見ている。これまでに午後2時5分頃、男が病棟3階にあるナースステーションで面会手続きを済ませていたことや警察に対して家族間のトラブルに関する相談がなかったことも判明している。
近隣住民「ひょっとしたら覚悟を…」
捜査関係者などの話を総合すると娘は10年以上前からこの病院に入院し、妻も半年ほど前から入院。ともに意思疎通が困難な状態だったそうだ。
男の自宅近くに住む男性は、妻が入院したあたりから“ある異変”を感じていて「近所との付き合いをまったく閉じちゃっているような状態だったから、我々も話しかけるのも可哀想だと思ったから、話しかけるのも出来ないような状態で、相当悩んでいたのではないか…本人は」と言う。
事件前日には、男が花壇を掃除している姿や家を眺めているような様子を目撃していて、「ひょっとしたらその時に覚悟を決めていたのかもしれない」と振り返った。
別の男性も、その頃から「ほとんど姿を見なかった。だから病院に付きっ切りなのかなと思っていた」と話す。
夫婦仲睦まじく2日1回は見舞いへ
男の自宅周辺を取材すると誰もが「夫婦仲はよかった」と口をそろえ、2人で自宅の花壇を手入れしたり、地域の防災訓練や草刈りに参加したりしていた時のことを覚えている人が多く、男の幼馴染という近隣住民は「必ず2人そろって本当に率先垂範して、一生懸命この地域のために貢献されてた姿を常々見ていた」と証言する。
その上で、男について「温厚で、何事も几帳面で、何事も一生懸命で真面目な人」と評し、「信じられない。こんなことが起きるなんて想像もしていなかった」と肩を落とした。
こうした近隣の記憶を裏打ちするかのように、富士脳障害研究所附属病院の事務長によれば、男は2日1回の頻度で見舞いに訪れ、毎回短くても30分、長い時には1時間程度滞在していたという。前述の通り、妻も娘も意思疎通が出来ない状態にも関わらず、だ。
警察は28日に病院で現場検証を行ったほか、今後は男の自宅を家宅捜索することにしているが、無理心中を図った可能性が高いと見ている。娘が長年にわたって入院する中、仲が良かった妻まで病床に伏してしまったことで、何かを思い詰めた末の犯行だったのか。男が死亡した今、事件の真相や動機は誰にもわからない。
(テレビ静岡)